第一八章 二〇一〇年から二〇一五年までの中東情勢

中東情勢を含め國際間の諸問題はますます複雑になり、解決困難な状況が重なってくる。

二〇一〇年(平成二二年)から二〇一五年(平成二七年)までの主なイスラエルパレスチナ情勢について年を追って見ていく。

 

二〇一〇年

(一)トルコとイスラエル対立、ガザ支援船襲撃事件が発生

イスラエルとトルコの対立は、二〇〇三年のエルドアン政権の成立後急速に悪化していた。二〇〇九年一月のダボス会議で、エルドアン首相がイスラエルのガザ攻撃についての討論に際してイスラエルのペレス大統領の発言を批判し退席してしまったこともあった。トルコはイスラエルを非難する一方、イスラエルと対立している同じイスラム仲間のパレスチナに理解を示し、「自由ガザ運動」を中心にガザの復興援助に動いていた。

二〇一〇年五月三一日、イスラエル軍による「ガザ支援船襲撃事件」が発生した。トルコ中心で構成された「自由ガザ運動」のパレスチナ支援の六隻のガザ救援船団が、イスラエルにより封鎖中のガザへ建材や医療機器など救援物資を運搬中、ガザ沖の公海上イスラエル軍に急襲され、トルコ人を含む一〇人が死亡し多くの負傷者がでた事件である。

トルコのエルドアン首相は激怒し、「イスラエルの犯罪は必ず罰せられなければならない」とイスラエルを激しく非難、トルコ側は「イスラエルが謝罪しなければ国交断絶だ」と主張しイスラエル、トルコの関係はさらに悪化し対立が続いていった。イスラム諸国からは「エルドアンはアラブの仲間、パレスチナの良き理解者」だとトルコの行動を称えた。

この事件は国際的にも注目され、「ガザ封鎖解除」への国際世論は高まっていった。

 

(二)イスラエルパレスチナの直接交渉再開、しかし一カ月で中断

イスラエルパレスチナの直接交渉再開

二〇一〇年九月二日、アメリカの強い要請でイスラエルパレスチナの直接交渉が約一年八カ月ぶりに再開された。しかし交渉は全く先に進まなかった。

九月二六日、暫く凍結されていたイスラエルの入植活動の凍結期間が終了し、入植地建設が始まった。パレスチナは入植活動の凍結延長を求めたがイスラエルはこれを拒否した。

 

アッバス議長、「和平交渉の中断」を表明

一〇月八日、アッバス議長はイスラエルによる入植活動が再開されたことに反発し、和平交渉の会合への参加を取りやめ「和平交渉の中断」を表明した。

和平交渉は進展せず、交渉再開から僅か一カ月で中断となった。イスラエルによる入植活動は、パレスチナにとっては我慢できない大きな障害として立ちはだかっている。

 

(三)イスラエル、「イスラエルユダヤ人の国」との主張を前面に出す

イスラエルパレスチナの「和平交渉中断」姿勢に対抗して対パレスチナに強硬姿勢を示す。イスラエルは「ユダヤ人の国」との主張を強く出し始める。

 

イスラエル市民権取得に関する法案可決

二〇一〇年一〇月一〇日、イスラエルは「新たにイスラエル市民権を取得する者にユダヤ人国家に忠誠を誓わせること」という法案を可決した。「イスラエルユダヤ人の国」を主張する。

 

イスラエルユダヤ人国家」の主張

一一月、ネタニヤフ首相はパレスチナ自治政府に対して、入植活動を凍結する見返りに、「イスラエルユダヤ人国家として承認するよう」要求した。イスラエルの全人口の約二割近くは非ユダヤ人(イスラエル建国前からそこに住んでいたアラブ人、つまりパレスチナ人)である。イスラエルユダヤ人国家と認めることはここに住むいわゆる「イスラエルパレスチナ人」をばっさり切り捨てることにほかならず、二国家共存を主張するパレスチナにとって「イスラエル一国家」案にもつながるもので、イスラエルを「ユダヤ人国家」としての承認は決して受け入れられるものではない。

 

(四)チュニジア一青年の焼身自殺から「治安混乱」へ

北アフリカチュニジアは、一九五六年フランスから独立した国であり、ベンアリ独裁政権が二三年も続き、長期経済的不況から市民間に不満が溜まっていた。

二〇一〇年一二月、チュニジアの中部の町で野菜売りの一青年が焼身自殺するという事件が起きた。青年は街頭で野菜や果物を販売していたが、警察官から「営業の許可を得ていない」としてとがめられ暴行や侮辱を受けた。青年は役所に没収された商の返還を求め何度も交渉に行くが逆に賄賂を要求された上にきつく追い返された。家族の養いもできず絶望した青年は遂に抗議のために焼身自殺をした事件である。抗議運動は瞬く間にチュニジア全土に広がった。国民の不満は警察官に対するものだけでなく腐敗したベンアリ体制そのものに対する抗議運動に発展した。イスラム教において「自殺」は厳しく禁じられ、しかも「自分の体に火」などとは決して許されない。青年はそれを破った。しかしそれでも多くの市民は青年の行為を支持した。それほど当局への市民の不満は高まっていた。デモが続発し治安当局と衝突、多くの死傷者も出た。国内の混乱は年を越えて続いた。チュニジアの混乱は次第に他の国々にも影響を与えていく。

 

二〇一一年

(一)チュニジアの革命(ジャスミン革命)、ベンアリ政権の崩壊

チュニジアでの民主化運動、政権打倒行動の波はますます拡大した。ベンアリ政権は鎮圧に躍起になるが市民はどこまでも対抗した。治安軍はこれ以上市民の反発を抑えきれないと判断して政権から離反した。

二〇一一年一月一五日、ベンアリ大統領はサウジアラビアへ亡命、ここにチュニジアのベンアリ政権は崩壊した。この政変はチュニジアの代表的な花の名から「ジャスミン革命」と呼ばれる。

 

チュニジアの革命、アラブ諸国の政変に大きな影響を与える(アラブの春

チュニジアのように独裁体制への不満が募っている国は周辺に多くある。ジャスミン革命は瞬く間に他のイスラム国の政権にも大きな変革をもたらすことになった。エジプト、リビア、シリア、イエメンなどこの一連の政変は、一九六八年から起きたチェコスロバキアの自由化運動「プラハの春」にちなんで「アラブの春」と呼ばれる。

 

(三)ヨルダン、リファーイー内閣総辞職

二〇一一年二月一日、ヨルダンでは反政府デモの拡大の末、リファーイー内閣が総辞職した。

 

)エジプト、ムバラク政権の崩壊(エジプト革命

ジャスミン革命はアラブのリーダーを主張するエジプトにも飛び火、大きな政変の波が起きた。

二〇一一年二月一一日、エジプトのムバラク政権は一月二五日より続いた大規模反政府デモにより崩壊した。

軍最高評議会が暫定政権を担うこととなった。辞任を拒んでいたムバラク大統領も遂に折れシャルム・エル・シェイクに移り、三〇年に及んだ独裁政権が終わった。二〇一一年エジプト革命である。

二月一二日、軍最高評議会は「半年以内に新たな大統領と議会の選挙を行う」とした。これまでムバラク大統領は中東問題に深く関わってきたがムバラク政権の崩壊はその後のイスラエルパレスチナの情勢に大きな影響を与えることになる。

 

カダフィ退陣のリビア内戦、今に続くシリア内戦などアラブ諸国で政変へ

二〇一一年二月一五日、リビアではカダフィ退陣デモが激しく「リビア内戦」となり、四二年間続いたカダフィ政権が崩壊した。三月にはシリアで政府軍と反政府軍の戦闘が始まり今に続く「シリア内戦」がとなった。イエメンその他の国々にも政変の影響が生じていった。

アラブの春」はその後の中東情勢を始め国際情勢に多大な影響を与えて行くことになる。

 

イスラエル、バラク防相労働党を離党、新党「独立」を結成

イスラエル労働党は第二次ネタニヤフ政権では連立を組み、党首バラクは国防相に就いている。

二〇一一年一月、党内左派との対立が拡大してくるとバラクは副国防相マタン・ヴィルナイら数人と集団離党し、新党「独立」を結成し労働党を離れた。労働党勢力は大きく落ち込んだ。

 

安保理、「イスラエルの入植活動の即時停止を求める決議案」を審議

二〇一一年二月中旬、安保理イスラエルの占領地での入植活動の即時停止を求める決議案を審議した。一五カ国中一四カ国が賛成、アメリカは拒否権を行使した。拒否権行使のアメリカは「入植に正当性はないが、決議は和平交渉再開に有効ではない」と釈明した。

オバマ政権に期待していたアッバス議長は落胆した。イスラエルの和平派も失望を隠せなかった。国際社会も驚きを見せ、オバマ政権の今後の中東和平への姿勢に目が離せない。

 

パレスチナ、「ファタハ」と「ハマス」和解へ動く

アラブの春」に揺れるアラブ諸国の動きの間に、パレスチナ内部においても若者を中心に「ファタハ」と「ハマス」の和解を求める動きが出てきた。

 

ファタハ」と「ハマス」和解への基本合意

二〇一一年四月二七日、「ファタハ」と「ハマス」はエジプトの仲介で、「挙国一致内閣を成立させ、一年後を目途に総選挙を行う」ことなどの和解への基本合意をする。

五月四日、双方は和解合意の調印をし、正式に発表した。

主な点は、

一、実務的な暫定内閣を樹立する

二、一年以内に議長、評議会(議会)選挙を実施する

三、治安部隊を統合する

四、対外交渉は引き続きPLOが行う

などである。

 

和解が早まった原因

離反していた「ファタハ」と「ハマス」の歩み寄りが早まった原因が三つ程あるといわれる。

一、まずムバラク大統領失脚によるエジプトの情勢変化にある。エジプトは一九七九年イスラエルと和平条約の調印をし、一九九四年にヨルダンがイスラエルと和平条約を結ぶまでアラブ諸国で唯一のイスラエルと外交交渉を持った国であった。ムバラク大統領はハマスがガザで勢力を伸ばすとハマスと縁のある自国の同胞団が勢いづいてしまう恐れがあると自国の「同胞団」の動きに神経を使っていた。そのムバラクが失脚したことでハマスがエジプトの仲介を受け易くなったため、パレスチナでの「ファタハ」と「ハマス」の和解交渉が早く進んだといわれる。

二、またガザ住民が「ファタハ」と「ハマス」の分裂状態の解消を求め、またガザのハマス支配が続く限りイスラエルの封鎖も解消されないとの危機感からのデモ発生も双方の和解を早めたともいわれる。

三、さらに、シリアのアサド長期政権批判への民衆デモの拡大で、アサド政権の瓦解が現実的になりつつある不透明な状況下で、シリアに拠点を持つハマスの最高指導者ミシュアルがファタハと妥協せざるを得なくなったということも一因という。

だが、このような原因により和解が早まったとはいえ、現実には目に見えた進展は現れて来なかった。

 

オバマ大統領、「国家共存の境界線は一九六七年ライン」と表明

オバマ大統領、「二国家共存のための国境線は、第三次中東戦争前の国境線を基本とすべきだ」と発言

二〇一一年五月一九日、オバマ大統領は、国務省で「ファタハ」と「ハマス」の和解を受けるかたちで中東情勢とその政策について演説した。その中で、「イスラエルパレスチナの二国家共存のための国境線は、第三次中東戦争前の国境線を基本とすべきだ」と表明した。一九六七年の第三次中東戦争で、「イスラエルが占領地を獲得する前の停戦ラインを基本として国境を確定すべきだ」との考えを示したもので、「国境線」についての指針をアメリカ大統領として初めて明確に示した。

 

オバマ発言に対しネタニヤフ首相は拒否

このオバマ大統領の国境発言にパレスチナは一応の評価をするがイスラエルは強く反発した。

オバマ演説の翌日にオバマ大統領とホワイトハウスで会談したネタニヤフ首相は、「一九六七年のラインまでの撤退は絶対ありえない。イスラエルの安全を脅かすもので容認できない」とオバマ発言を突っぱねた。

 

オバマ大統領は「ハマスはテロ組織だ」と表明

またオバマ大統領はこの中東情勢発言の中で「ハマスはテロ組織であり、ハマスとは交渉しない」とも述べ、ハマスをテロ組織だとした。

 

一〇パレスチナ「国連加盟申請」、安保理協議するも不承認

ファタハ」と「ハマス」の和解の競技も順調に進まなかった。またイスラエルとの交渉も暗礁に乗り上げている現状の中でパレスチナは次の対策に出た。パレスチナの国連加盟の申請である。

 

パレスチナの国連加盟の申請

二〇一一年九月一六日、アッバス議長は「パレスチナを国家として認めさせる」、「九月二三日に国連に加盟申請する」との最終決定を発表した。

九月二一日、オバマ大統領は国連総会の一般討論演説でパレスチナの国連加盟申請に反対する意向を表明した。

九月二三日、アッバス議長はオバマ大統領の反対表明にもかかわらず、パレスチナの国連加盟を申請した。

 

安保理パレスチナの国連加盟の申請を協議、「不承認」となり事実上棚上げに

申請を受けた国連は直ちに安保理で協議した。理事国一五カ国の中で九カ国以上の賛成があれば国連総会に加盟を勧告することが出来ることになっていた。しかし協議の結果、加盟支持は中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカレバノンの六カ国で九カ国に達しない。アメリカは拒否権行使を表明した。

この結果から、パレスチナの国連加盟の件は安保理の承認が取り付けられない状況となり審査は事実上棚上げとなった。。イスラエルは一連の顛末を「愚か者の劇場」などと非難した。

 

一一イスラエル労働党党首に女性のヤヒモビッチ

二〇一一年九月二二日、イスラエル労働党党首にシェリー・ヤヒモビッチ(五三歳)が就任した。今年の初めにバラク防相らが労働党を離れ党勢が落ち込んでいたが、女性力を発揮し党勢がどこまで回復するか期待された。

 

一二パレスチナ、「国連教育科学文化機関(ユネスコ)」加盟承認される

国連加盟が成らなかったパレスチナは、今度は国連教育科学文化機関(ユネスコ)への加盟を申請した。

二〇一一年一〇月三一日、ユネスコパレスチナの加盟を問う採決を行い、賛成多数でパレスチナユネスコ加盟が決定し、一一月のユネスコ総会で可決されて正式に加盟となった。イスラエルアメリカは反対した。

 

二〇一二年

アラブの春」の波は引き続きアラブ諸国を中心に大きなうねりとなっていく。

イスラエルパレスチナの和平交渉は中断されたままであり、パレスチナ内部のファタハハマスの協議も進展しない状況が続いていた。

 

(一)イスラエル軍ハマス幹部を拘束

二〇一二年一月一九日、イスラエル軍ハマスの幹部のアジス・ドゥエイク評議会議長をテロ組織に関与しているとして拘束した。ハマス側はイスラエルが「ハマスファタハの統一政権の樹立の動きを妨害しようとしている」と非難した。

 

(二)エジプト、大統領にモルシ自由公正党党首が就任

エジプトでは昨年のムバラク政権崩壊後、ムスリム同胞団が合法的な政治組織として活動を始め、「自由公正党」を組織した。同党は一二月の選挙で第一党となり、一般市民の支持も得てエジプト史上初めての自由選挙による大統領選で同党党首のモルシ氏を大統領に選んだ。

二〇一二年六月三〇日、モルシ政権が発足した。

 

(三)アッバス議長、「パレスチナの範囲」について発言、反応大

進まない和平、不安定な中東情勢は続いている。

 

アッバス議長の発言

二〇一二年一一月二日、アッバス議長の民放番組での発言が注目された。「私にとって(東エルサレムを含む)ヨルダン川西岸とガザがパレスチナで、それ以外がイスラエルである」、「私は難民であるが現在はラマラに住んでいる。(生れ故郷の)サファドを訪れることは私の権利であるが、住むことはそうではない」などと述べた。この発言は領土問題や帰還権にも触れるものとしてイスラエルパレスチナの反応は大きい。

 

アッバス発言への反応

アッバス発言があった翌一一月三日、イスラエルのペレス大統領は直ちに「歓迎する。この勇気ある言葉はイスラエルが真のパートナーを有していることを示している」、「我々は最大限の尊敬を持ってその言葉に応えなければならない」と述べた。

パレスチナでは「現実的だ」と評価する声がある一方、PFLPやハマスなどは「極めて危険だ。生まれ故郷への帰還権を放棄する発言は誰であっても許されない。難民帰還権は譲歩できない権利だ」と反発した。

 

(四)イスラエルハマス、互いに攻撃し合うも大衝突に至らず停戦

イスラエルパレスチナの和平交渉は中断したままで新しい進展がない。さらにイスラエルハマスの対立も止まず、イスラエルによりハマス幹部が拘束されるなど依然双方の衝突事件が頻発している。

 

イスラエル軍ハマスの衝突

二〇一二年一一月一四日、イスラエル軍がガザを空爆し、ハマス指導者で軍事部門トップのアフマド・ジャバリらを殺害した。

一一月一五日、イスラエル軍空爆は続き、ハマスはガザからロケット弾で反撃、イスラエル人三人が死亡した。ロケット弾はテルアビブにも飛来した。イスラエルのネタニヤフ首相は来年一月の選挙を控え弱腰を見せられない。四年前(二〇〇八年)の衝突ではイスラエル軍の地上侵攻もあり大紛争となったが、同じようになることが心配された。

アメリカやエジプトの停戦調停が続けられた。エジプトはイスラエルと平和条約を結んでいる。それにモルシ大統領はハマスとも話しが通じる。モルシ大統領は粘り強く仲介し、その努力は高く評価された。

 

停戦

一一月二一日、イスラエル軍のガザ空爆から八日目、調停が進み幸いにも前回のような衝突に至らず双方は停戦に合意した。

 

(五)国連総会、パレスチナの資格を「オブザーバー国家」に格上げ決議

パレスチナは前年(二〇一一年)六月、国連に加盟申請をしたが安保理段階で承認が得られなかった。その後一年半、状況は少し好転してきた。

 

国連総会、パレスチの資格を「オブザーバー国家」に格上げ決議

二〇一二年一一月二九日、国連総会でパレスチナ自治政府の資格を「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案が採択された。この日は一九四七年に国連パレスチナ分割案が採択された日と同日であった。つまり国連総会での分割決議から六五年目に当たる日であった。国連での「オブザーバー組織」の資格は一九七四年から認められており、「オブザーバー国家」への格上げが認められたことによりさらに一歩「パレスチナ国家」に向け前進したといえる。

決議の骨子は、

一、パレスチナ国家の独立権を再確認

二、パレスチナに(国連の正式メンバーでない)「オブザーバー国家」の資格を承認

三、一九六七年(第三次中東戦争)以前の境界に基づくパレスチナイスラエルの二国家共存に貢献する決意

四、中東和平交渉再開の必要性を表明

などである。

オブザーバー国家への格上げにより、世界保健機関(WHO)など多くの国連の機関や国際会議への参加資格を得ることが出来るようになった。

 

アメリカ、イスラエルは「反対」

決議は賛成一三八、反対九、棄権四一と国際社会の高い支持を見せつけた。ヨーロッパ主要国始め多くの国が賛成したのに対し、アメリカ、イスラエルは反対である。アメリカ、イスラエルの「反対」は、和平への展望に水を差すものでありパレスチナの今後に大きく影響していく。

 

イスラエル、入植地拡大を続ける

パレスチナのオブザーバー国家への格上げに反対するイスラエルのネタニヤフ首相は、「何も変わらない。格上げはパレスチナ国家創設を遠ざけるだけだ」と突き放し、ユダヤ人入植地の拡大を宣言、住宅三〇〇〇戸の建設計画を発表するなどさらに和平路線から遠のく施策を進めていく。

 

(七)パレスチナ、「ファタハハマスの関係改善を優先」することを決める

パレスチナは国連での資格格上げにより、国際刑事裁判所(ICC)に加盟する道も開かれ、イスラエルをICCに訴えることも可能になった。しかし和平への展望は開けず名目的な格上げに冷ややかに見る住民も多い。

ファタハハマスは和解に「合意」としているが、現実には和解は実現していない。

パレスチナ内部での対立は続いている。パレスチナ国家の実現には国民統合、和解が優先だ。未だに対立するファタハハマスの関係改善を早期に進めることが重要だ」と指摘する声が高まってくる。パレスチナとしては当面「ハマスとの和解など自国内の関係改善を優先」する考えが示されてきた。

 

二〇一三年

(一)ファタハハマス、和解に向けて話し合い加速へ

ファタハハマスは和解に向けて動き出した。

二〇一三年一月九日、ファタハハマスの対話が進む中、アッバス議長とハマスの責任者ハーレド・マシャル政治局長が会談、「和解交渉を加速する」ことで合意した。

四月二日、ハマスは政治局長選挙を行い、マシャル氏が再任された。マシャル氏は一九九六年の政治局設立当初から局長を務め、ハマスの創設者ヤシーン氏らがイスラエル軍により殺害された二〇〇四年から組織全体の指導者を兼ねている。

 

イスラエル総選挙、第三次ネタニヤフ政権発足

二〇一三年一月二二日、イスラエルのクネセト(議会)総選挙が施行された。ネタニヤフ首相率いるリクードは第一党となったが過半数に届かない。ネタニヤフ首相は中道政党らと連立を組んだ。

三月一八日、中道のカディマからリブニ党首が法相として入閣、第三次ネタニヤフ政権が発足した。国防相であったバラク元首相は政界を引退、後任国防相リクードのモシェ・ヤアロンが就任した。労働党は政権を離脱し野党第一党となった。

 

(三)パレスチナ、ファイヤード首相が辞任、後任にハムダラ

二〇一三年四月一三日、パレスチナ自治政府首相を約六年務めたファイヤードが辞表を提出、次期首相が選出され次第辞任することになった。

六月六日、ファイヤード首相の後任として大学の学長ラミー・ハムダラが就任した。しかし、同時に設置された副首相の権限をめぐりアッバス議長と認識の相違いから約二週間で辞表を提出した。辞表は一旦受理され

たがその後再び首相に指名され続投した。

 

イラン大統領にロウハニ師

二〇一三年六月、イラン大統領に保守穏健派のハサン・ロウハニ師が当選し、八月に第七代大統領に就任した。

 

)エジプトのクーデター、モルシ政権一年で挫折、マンスールが暫定大統領

エジプトのモルシ政権は、国民の支持を得て発展すると期待されたが、徐々にイスラム色も強まり支持は薄れていった。経済低迷も続き、次第に反モルシ、反同胞団のデモが頻繁に起き、同胞団側との衝突で死傷者も出てきた。軍は中立を装いながら反モルシの機会を狙っていた。

二〇一三年六月、カイロのタハリール広場に大群衆が集結しモルシ政権退陣を迫った。

七月三日、シシ軍最高評議会議長を中心とするエジプト軍がモルシ大統領の退陣を求めクーデターを起こし、憲法を廃止、モルシ大統領の権限を剥奪した。最高憲法裁判所長官のマンスールが暫定大統領に就き、正式大統領が選挙で選出されるまで統治にあたった。軍のクーデター以降、軍と同胞団の対立は続いていった。ガザの大きな支援者だったモルシ政権の崩壊は、ガザに大きな影響を与えた。エジプトからの密輸トンネルの大部分は破壊され物資や燃料が窮乏し、経済は悪化、ハマスは窮地に追い込まれていった。

 

(六)オバマ政権、「和平交渉」再開に積極的に動く

アメリオバマ政権は今年二〇一三年一月から二期目に入っている。オバマ大統領はシリアの内戦やエジプトの政変など激動する中東情勢にうまく対応できていないとも批判されている中で、「中東和平問題で存在感を示す時は今だ、二〇一〇年から頓挫している中東和平の交渉再開の仲介に動けるのは、政権中間のこの時以外にはない」との判断もあり積極的に動き始めた。

ケリー国務長官は精力的にイスラエルパレスチナなど中東訪問を重ね、ネタニヤフ首相やアッバス議長と会談、和平交渉再開について調整を続けた。

 

イスラエルパレスチナ、和平交渉再開に向けて双方共に強気

アメリカの全力和平交渉仲介が続き、二〇一三年七月二九日から交渉が再開できることとなった。

アッバス議長は和平交渉再開を前に訪問先のエジプトでパレスチナの姿勢を強調した。ユダヤ人の入植や境界線などに触れ、「ユダヤ人の入植者の存在は認めない。最終的には我々の土地に留まることはない」と述べ、西岸の入植やエルサレムの将来について「必要な譲歩は既に行った。同規模の土交換は協議に応じるがそれ以上でも、それ以下でもない」と強い姿勢を強調した。

一方、ネタニヤフ首相は従来からの強硬姿勢に変わることなく、アッバス大統領の主張には耳を貸さず、これに応ずる気配はない。

和平交渉を前にしての両者の意見の隔たりは大きく、どこまで歩み寄りが出来、真剣に交渉が進展するか注目されていく。

 

(八)三年ぶりに「和平交渉」再開、交渉期間は二〇一四年四月末までの九カ月

「和平交渉」再開、国際社会は交渉に期待

アメリカ仲介の努力が実り三年ぶりにイスラエルパレスチナの和平交渉が再開された。本格的な効果ある交渉になるか国際社会は期待を持って注視した。

二〇一三年七月二九日、イスラエル代表のリブニ法相とパレスチナの和平交渉アリカット代表は、二〇一〇年一〇月から中断していた中東和平交渉をアメリ国務省で再開した。アメリカは中東和平特使としてインディック元イスラエル大使を指名、ケリー国務長官も出席した。

 

交渉は二〇一四年四月末日までの九カ月間の予定

「中東和平交渉再開」の報道は、国際的に大きく伝えられ、拍手をもって歓迎された。交渉期間は前回(二〇一〇年)の交渉が約一カ月で中断した反省を踏まえ、今回は成果を急がず来年四月末日までの九カ月間を予定することで合意した。

オバマ大統領は交渉の難しさを指摘した上で「平和で安全に隣り合って暮らす二つの国家を実現するという目標に向け、アメリカは交渉全体を支援する」と強調した。

国務省のサキ報道官は「九カ月は交渉期限ではなく、進展があるなら延長もあり得る」と述べた。いよいよ和平の実現に明るい光が見えてきた。国際社会は、今度こそは交渉が軌道に乗り、順調に合意に進みそうだと期待し、双方の問題解決に向けての誠意ある取り組み姿勢とアメリカの仲介努力に注視した。交渉期限は来年四月。精力的な交渉が期待された。

 

解決すべき難題山積

交渉は再開されたが双方の間には解決すべき極めて困難な問題が山積する。

一、二国家共存でのパレスチナ国家の領土と国境の画定

二、共通の聖地エルサレムの帰属

三、パレスチナ難民の帰還問題

四、イスラエルによる占領地へのユダヤ人入植問題

など、いずれもこれまで何度も俎上に上ったが決裂したものばかりである。

 

主要問題の協議に入る前に相互の「信頼醸成措置」としての「妥協」策

難問ばかりであるので双方交渉者は直ちに本題に入らず、「交渉の進め方、交渉順序」などを協議し、会議を軌道に乗せることを優先した。そのために互いに「信頼醸成措置」ともいえる「妥協」の策を図ることにした。

イスラエルパレスチナの要望を入れ、収監中のパレスチナ人囚人一〇四人の段階的な釈放を決めた。

パレスチナは今まで強く求めていたイスラエル占領地での入植活動凍結を交渉継続の条件として求めないとした。

七月三〇日、二日間のワシントンでの協議を終え、次回からの実質協議を二週間以内に始めることとした。だが、交渉の優先順位で隔たりもあり、この先交渉が順調に進むか楽観を許さない。

 

(九)イスラエル、入植計画を進める一方、パレスチナ囚人二六人を釈放

二〇一三年八月一四日から和平交渉の実質協議に入ることとなった。

イスラエルはその前に大規模な入植計画を決め入植継続姿勢を示す一方、パレスチナ囚人の釈放を行った。

八月一一日、一二〇〇戸の住宅建設計画を発表、続いて協議に入る前日の八月一三日に東エルサレムで新たに九四二戸の入植計画を決めたと発表した。

八月一四日交渉開始当日の早朝、パレスチナ囚人一〇四人の釈放方針のうちその第一弾として二六人を釈放した。

パレスチナ側は囚人が釈放されたことを歓迎するが大規模な入植継続に不安が高まった。

 

(一〇)エルサレムで和平への実質協議始まる

二〇一三年八月一四日、実質協議がエルサレムで始まった。三年前の交渉が約一カ月で中断したのは入植活動継続が大きく影響した。今回の交渉に際しても入植活動は中断されず続いている。「入植活動継続」が先回と同じように障害とならないか大変懸念された。

九月一三日、この日は双方にとって大きな転機となった一九九三年の「オスロ合意」がなされてから二〇周年を迎えた日である。オスロ合意の意義を双方が再認識し今回の交渉が順調に進むことが期待された。

しかし、現実には双方が自分に有利なように解釈し、相手への非難中傷が先に立ち、なかなか交渉本題に入れなかった。

 

(一一)和平に向けてのオバマアッバス会談とローマ法王アッバス会談

二〇一三年九月二四日、オバマ大統領はアッバス議長と会談し、「パレスチナイスラエルとの和平交渉を成功させるため、あらゆる努力を払う」と言明し、「イスラエルと将来のパレスチナ独立国家の境界線は土地交換を伴う一九六七年の境界線(第三次中東戦争前の境界線)に基づくべきだ」と改めて強調、イスラエルが一部の入植地を併合する代わりに領土の一部をパレスチナ側に譲る「土地交換」に言及した。この境界に関する見解は交渉を進める上での有力な妥協点の一つとして注目された。

一〇月一七日、ローマ法王アッバス議長が会談し、両者は「和平交渉再開」が「紛争の公正かつ永続的な解決」に繋がるようにと期待を表明した。

 

一二イスラエルパレスチナ囚人二六人を第二弾として釈放

二〇一三年一〇月二八日、オバマ大統領はネタニヤフ首相と電話会談し和平交渉の進展を促した。

一〇月三〇日、イスラエルパレスチナ囚人二六人を第二弾として釈放した。

 

(一三)ネタニヤフ首相、入植住宅建設拡大を決定、パレスチナ側は非難

イスラエルパレスチナ囚人の釈放をする一方、入植地拡大の動きは止むことなく続け、パレスチナ側をさらに刺激した。

二〇一三年一〇月三〇日、ネタニヤフ首相はパレスチナ人囚人二六人を釈放した同じ日、一五〇〇戸の住宅建設推進を決めた。政権内の和平反対派への配慮と見られるが、ますます拡大する入植計画にパレスチナ側は「和平プロセス」の障害だと非難の声を高めていった。

 

一四)ケリー国務長官、進展しない和平交渉に懸念表明

順調に進展していない和平交渉であるがアメリカは辛抱強く仲介努力を続ける。

二〇一三年一一月一日、イスラエルを訪問中のケリー国務長官は「和平交渉が決裂すればイスラエルは国際的に孤立する。和平交渉へのイスラエルの協力が不十分だ。このままであると第三のインティファーダが起こる可能性がある」と現在継続中の和平交渉が進展していない現状から懸念を表明し、双方に「和平交渉の加速」を促した。

 

一五イスラエルリーベルマン(右派「我が家イスラエル」党首)外相再任

二〇一三年一一月一一日、イスラエル国会はリーベルマン前外相の再任を承諾した。リーベルマンは昨年一二月、背信行為などの罪で起訴され外相を辞任していたが、一一月六日の裁判で無罪となっていた。リーベルマンは右派「我が家イスラエル」の党首であり、対パレスチナの強硬派であるため、政権復帰後は中東和平交渉に悪影響を及ぼすとの見方も出てきた。

 

一六)ネタニヤフ首相、大規模入植住宅の建設計画撤回を命じる

イスラエル住宅省が過去最大規模となる入植者用住宅二万戸の建設をヨルダン川の西岸や東エルサレムに新たに計画した。和平交渉は進展のないまま三カ月以上が経過しているが、今回の計画は態度を硬化していたパレスチナ側をさらに刺激した。パレスチナ側は、「イスラエルがこの計画を止めなければパレスチナは国際機関へ加盟申請を行うなどの対抗措置を取り、和平プロセスの終わりを宣言することになる」と猛反発。和平交渉を仲介するアメリカもパレスチナ側に同調した。

二〇一三年一一月一二日、ネタニヤフ首相は、この状況を判断し、国際社会と不必要な対立を引き起こすとし、急遽アリエル住宅相にこの計画を撤回し再考するよう命じた。

 

一七イスラエル労働党党首にヘルツォグ

二〇一三年一一月二一日、イスラエル労働党は党首選を行い、元福祉・社会問題相のイツハク・ヘルツォグが現党首のヤヒモビッチを破り勝利した。一月の総選挙で労働党は党勢を回復できず、ヤヒモビッチは党内で求心力を失っていた。ヘルツォグはハイム・ヘルツォグ元大統領の息子である。

 

一八)EU外相理事会、和平交渉の進展に期待の声明を発表

二〇一三年一二月一六日、EUは外相理事会を開き、今進められている中東和平交渉に期待の声明を発表した。イスラエルパレスチナが聖地エルサレムの帰属や国境線画定などの最終地位交渉で合意すれば、「前例のない(規模の)政治、経済、安全保障面での支援」を双方に提供するとした。また、声明の中で和平交渉に取り組むネタニヤフ首相、アッバス議長、ケリー国務長官らの努力を称賛し、「恒久和平と繁栄の確立」を訴えた。

 

一九イランの核開発問題、「第一段階の措置」合意、イスラエルなど猛反発

イランの核開発問題が大きく動き始めた。

一〇月、イランの核問題についてイランと欧米六カ国がジュネーブで協議が始まった。一一月に入り核交渉は精力的に進められた。

一一月二四日、イランと安保理常任理事国にドイツを加えた六カ国は核開発の抑制と制裁の一部緩和をセットにした「第一段階の措置」と位置づけた合意が成立した。二〇〇二年に核兵器開発疑惑が浮上して以来、初めてイランの核開発に歯止めがかかるとして大きな外交成果に位置付けられた。

しかし、イスラエルサウジアラビアは猛反発した。ネタニヤフ首相は「合意は歴史的な誤りだ」と指摘。イスラエルはこれまで敵対するイランの核兵器開発を警戒し、核施設への軍事攻撃も辞さない構えを見せていた。

 

(二〇アラファト前議長の死因、「毒殺」ではない?

二〇〇四年に七五歳で死亡したアラファト前議長の死因について、当時から「自然死」とか「毒殺」とか諸説が入り乱れていた。

二〇一三年一一月、パレスチナの委員会から検体の調査を依頼されていたスイスとロシアの研究機関が調査結果を発表した。アラファトの検体からは毒性の強い「ボロニウム」が通常より高い水準で検出されたが、「完全にボロニウム毒殺」との断定には至らなかった。

一二月四日、フランスの調査団は「毒殺ではなかった」と調査結果を発表した。

一二月二七日、ロシアの調査団は「自然死」との結論を出し、毒殺説を否定した。

 

二一イスラエルパレスチナ囚人二六人を第三弾として釈放

二〇一三年の年末となった。和平交渉は続いていたが双方の衝突は止まず、双方に死傷者が続出する状況は続いた。

二〇一三年一二月三一日、イスラエルパレスチナ囚人二六人を第三弾として釈放した。今回の和平交渉は来年四月までの予定である。それまでに第四弾以降の囚人釈放がどのように行われて行くか期待された。

 

二〇一四年

(一)ケリー国務長官、和平交渉の進展を促すための「枠組み合意」案示す

和平交渉は開始から五カ月を過ぎ、期限まで残り四カ月となった。このままではこれまでと同様、交渉の「決裂」も心配される。アメリカは進展のない交渉の事態を憂慮し仲介姿勢を強め、交渉の進展を促すため今までの「仲介者」の立場を越えて「独自の和平案」の提示に踏み切り始めた。

二〇一四年一月二日、年明け早々ケリー国務長官エルサレムを訪問してネタニヤフ首相らと会談した。ケリー長官は和平交渉の進展を促進するために、国境確定の基準を明確にすることやパレスチナ独立後のイスラエル軍ヨルダン川西岸の一部での長期駐留などに関する和平交渉の指針を盛り込んだ「枠組み合意」を示した。

 

(二)イスラエルシャロン元首相が死去

二〇一四年一月一一日、入院中のイスラエルシャロン元首相が死去した。対パレスチナ強硬タカ派のリーダーがこの世を去った。首相在任中の二〇〇六年一月、脳内出血で倒れ、昏睡状態が八年間続いていた。

一月一三日、シャロン元首相の追悼式典と国葬が行われた。

 

(三)ネタニヤフ首相、「入植活動続ける」と表明

二〇一四年一月一六日、ネタニヤフ首相は和平交渉が進展せず欧州諸国から入植活動を批判されていることについて、「和平交渉を進展させる上で問題なのは、パレスチナ側がイスラエルユダヤ人国家だと承認しないことだ」と強調し、和平交渉が進展しない原因はパレスチナ側にあると訴え、今後も入植活動を続ける姿勢を示した。

イスラエル側は、先にケリー長官が示した和平交渉進展案にも乗っていく気配がない。

 

(四)オバマ大統領、ネタニヤフ首相と会談、「和平交渉」の進捗を強く促す

二〇一四年三月三日、ネタニヤフ首相はアメリカを訪問しオバマ大統領との会談が行われた。

オバマ大統領は「二国家誕生の可能性は残っている。双方の妥協が必要だ」と和平交渉の進展を強く促した。これに対しネタニヤフ首相は「パレスチナ側が交渉に努力していない」「パレスチナ側がイスラエルユダヤ国家と認め、その安全保障を真剣に受け止めるよう望む」と主張し、交渉が進展しないのはパレスチナ側に非があると強調した。

 

(五)ネタニヤフ首相、親イスラエルロビー団体(AIPAC)会合で演説

二〇一四年三月四日、ネタニヤフ首相はアメリカの親イスラエルロビー団体アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の会合に出席し、「歴史的な和平を実現する用意はあるが、それにはまずパレスチナ人がイスラエルユダヤ人国家を承諾することが前提条件だ」と述べた。これに対しパレスチナ側は強く反発し、「断じて受け入れられない。和平交渉の一方的な終了を公式に宣言したに等しい」と断じた。

 

(六)パレスチナ、「和平交渉譲歩に反対する」大規模デモ起きる

二〇一四年三月一七日、パレスチナ自治区のラマラで数千人の市民による大規模なデモが起きた。この日、オバマアッバス会談が行われるのを前に、会談で俎上に上るとされる「ユダ人国家の承認」など主要項目での譲歩に反対を訴える大規模デモが発生、多くの市民が強い「民意」を示した。

 

(七)オバマ大統領、アッバス議長と会談、「和平交渉」の進捗を強く促す

二〇一四年三月一七日、オバマ大統領とアッバス議長の会談がホワイトハウスで行われた。

オバマ大統領はイスラエルパレスチナ双方の和平枠組み合意に決断を迫り、国境問題解決を含め先にネタニヤフ首相との対談での主張と同様、イスラエルパレスチナ双方の「妥協」の必要性を強調し和平交渉の進展を強く促した。

アッバス議長は国境画定に関し、東エルサレムパレスチナ国家の首都とする「第三次中東戦争前の境界」を改めて主張し、パレスチナ人の釈放について「イスラエルが今月末に予定通り釈放を実行するか注視している」と述べた。

 

アメリカ、和平交渉の進展を一層強く迫る

予定した和平交渉の期限が近付いて来たが著しい進展効果が見られない。真剣に交渉が続けられているのかと交渉への「本気度」を問う声も出てきた。アメリカは和平交渉進展を一層強めた。。

二〇一四年三月二六日、ケリー国務長官アッバス議長と会談し、中東和平「枠組み合意」の受け入れを迫り、四月末の交渉期限以降も交渉を継続するよう訴えた。さらにケリー長官は、三月末からイスラエルパレスチナを訪問し、ネタニヤフ首相、アッバス議長らと会談を重ねた。

 

イスラエルパレスチナ囚人の四回目釈放を実施せず

和平交渉の進展が低迷する中、交渉期限が近づく三月末にイスラエルが次のパレスチナ囚人を開放するかどうか、その動きに注目された。

二〇一四年三月三一日になったがイスラエルパレスチナ囚人の四回目の釈放を行わなかった。

 

(一〇)パレスチナ、「国際条約加盟」を申請

二〇一四年四月一日アッバス議長は四回目の釈放が行われなかったことを非難、国際条約加盟申請のための文書一五件に署名し提出準備を整えたと発表した。アッバス議長は昨年七月に中東和平交渉が再開した際、「加盟申請を控える」としていたが、パレスチナ囚人の「釈放」見送りに「イスラエルの不誠実」「約束違反」と反発、対抗措置として加盟申請書類に署名したという。

四月二日、国連報道官は、パレスチナ自治政府から一三件の申請文書を受理したことを明らかにした。この一三件の中にはヨルダン川西岸を占領しているイスラエルにとって一番懸念していた戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)への加盟申請は含まれていなかったことから、「最終局面での交渉を有利に運ぶための戦術」ではないかとの見方もあり、ICC加盟申請を留保したパレスチナの今後の「出方」が注目された。

 

(一一)イスラエルパレスチナの国際条約加盟申請に反発、和平交渉進展せず

パレスチナの国際条約加盟申請にイスラエルは反発する。イスラエルの和平交渉責任者リブニ法相は、パレスチナ囚人の「釈放実施を検討中にパレスチナが加盟申請に署名したことから釈放を取りやめたと説明。「正統な措置だ」とし、パレスチナが加盟申請を撤回せず、交渉を延長出来なかった場合、制裁措置も検討すると反論した。

二〇一四年四月三日、イスラエル政府は予定していたパレスチナ人二六人の釈放を取りやめることを正式に決定した。

四月六日、ネタニヤフ首相は閣議で、中東和平交渉を続ける用意があると断った上で、「パレスチナの一方的な動きには一方的な動きで応じる」「パレスチナ政府の出方次第では打ち切りもあり得る」と述べ、厳しい姿勢を示した。

四月九日、ネタニヤフ首相は閣僚に対し、パレスチナ側との接触を制限するよう指示した。

四月一〇日、イスラエル政府はパレスチナ自治政府に対する経済制裁を決めた。パレスチナ自治政府に代わって徴収している「関税」について、自治政府への送金を停止するという。送金停止によるパレスチナの経済的ダメージは大きい。パレスチナ側の反発は必至となった。

イスラエルではネタニヤフ首相の方針を支持、入植活動は継続されており分離壁効果も出ている今、ここで「和平交渉を急ぐ必要はない」との声が高くなった。

一方、パレスチナではアッバス議長の求心力が低下する中、「暫定政権の強化とハマスとの和解、国際世論へのアプローチが先決」との意見も強く出てきた。

 

(一二)和平交渉の期限(四月末日)迫り駆け引き激化、仲介のアメリカに焦り

パレスチナの国際機関への加盟申請行動、イスラエルパレスチナ人釈放中止決定など双方の駆け引きは激化し、真剣に和平交渉に臨もうとしているのか疑問さえ出てきた。

和平交渉期限の四月末日まであと二〇日余り、イスラエルパレスチナの駆け引きは激化、双方とも従来からの主張を譲らず、相互不信も強まり根幹となるテーマには殆ど入れない状況になってきた。

二〇一四年四月四日、アメリカのケリー国務長官は訪問中のモロッコで「アメリカが費やせる時間と努力には限界がある」と述べ、アメリカの仲介にも限界があり中東和平は「重大な局面に差し掛かっている」と警告し、イスラエルパレスチナ双方が歩み寄らなければアメリカは仲介を見直す可能性を示した。

四月六日、七日とアメリカのインディック中東和平特使は、エルサレムイスラエルのリブニ法相、パレスチナの中東和平交渉責任者のアリカット氏と三者協議を行い、打開策を探った。だが効果的な突破口を見出せなかった。

四月九日、ケリー国務長官はワシントンでイスラエルリーベルマン外相と会談し「和平交渉の決裂回避」を目指し意見交換をし、交渉継続の重要性を強調した。リーベルマン外相はパレスチナの国際機関への加盟申請を改めて批判した。

アメリカの仲介努力は続くが交渉決裂の危機も迫り、アメリカに焦りと苛立ちが出てくる。

四月一七日、インディック特使は重ねて三者協議を行い、月末に迫った交渉期限を延長し、決裂を回避するよう双方に働きかけた。

 

(一三)パレスチナファタハハマスが「統一暫定政権樹立」に合意

二〇一四年四月二三日、和平交渉期限まであと一週間。交渉が進まない中でパレスチナ自治政府に大きな変化が出てきた。主流派ファタハとガザのハマスによる「パレスチナ統一暫定政権樹立」に向けた話し合いを始めることに合意したと発表された。

パレスチナ自治区は二〇〇七年以降、ファタハ主導の自治政府が統治するヨルダン川西岸地区ハマスが実効支配するガザ地区に分裂し、その後和解に合意したこともあったが実現せず、現在も離反した状況にある。その双方がここにきて手を結び「統一政権を樹立しよう」と合意した。五週間以内に「統一暫定政権」を樹立し、暫定政権発足から少なくとも六カ月を経た後に政権関係の選挙を実施するとした。ハマスのハニヤ首相は「合意はパレスチナの人々にとって朗報だ」と述べた。

 

(一四)イスラエルパレスチナの「統一暫定政権樹立合意」に反発

二〇一四年四月二三日、ネタニヤフ首相はパレスチナの「統一暫定政権合意」への動きが発表されると直ちにこれに強く反発、ファタハハマスの合意破棄を迫り、「ファタハハマスの合意は和平を踏みにじるものだ」「アッバス議長は和平よりテロ組織のハマスを選んだ」「テロ組織ハマスが加わったパレスチナ自治政府とは交渉しない」と強く非難した。

アッバス議長は反論、「イスラエルとの和平を推進する姿勢に変わりはない」と強調した。

 

(一五)イスラエル、「和平交渉中断」を宣言

二〇一四年四月二四日、イスラエル政府は安全保障閣僚会議での全員一致で決議した「中東和平交渉の中断」を一方的に宣言し、同時にパレスチナへの経済制裁を科す方針も明らかにした。

ネタニヤフ首相は和平交渉中断の決定について「私が首相である限り、イスラム原理主義ハマスハマスに支援された政権と交渉することはない」とし、「和平交渉の再開にはアッバス大統領がハマスとの和解合意を破棄する必要がある」と強調した。

アッバス議長はイスラエルの「和平交渉中断」決定に反発した。「イスラエルがこの問題に干渉する権限は無い」「(パレスチナ内での)和解と(イスラエルとの)和平交渉は相反しない」「統一政権樹立と和平交渉は両立できる」と反論した。

和平交渉はまた新たな難問に直面し、交渉継続は見込めない状況になってきた。

ケリー国務長官は「和平交渉は双方の妥協により継続」すべきだとイスラエルパレスチナ双方に歩み寄りを求めた。交渉継続すら合意できなければ、アメリカの外交力低下が改めて印象付けられる。アメリカは何としても交渉の継続を実現したかった。

 

(一六)アッバス議長、和平交渉「延長の用意」あると表明

二〇一四年四月二六日、アッバス議長は和平交渉中断後の初めての記者会見で、和平交渉期限を延長して協議する用意はある」と述べた。しかし、交渉継続には①パレスチナ人囚人の釈放を再開し、②入植活動の凍結を継続し、③境界線の画定などの諸条件の整備が重要だと従来の主張を繰り返した。

 

(一七)パレスチナ、国際条約加盟推進方針を変えず

二〇一四年四月二七日、パレスチナ解放機構(PLO)の中央評議会は声明を採択し、国際条約への加盟を推進する方針を確認した。四月二九日の交渉期限を前に和平交渉が中断状態にある中、イスラエルへの対決姿勢を鮮明にした。

このままでは和平交渉は破綻する恐れが強まってきた。

 

(一八)和平交渉、双方の歩み寄りなく期限切れとなり「交渉中断」

二〇一四年四月三〇日、和平交渉に双方の歩み寄りは見られず、結局、中断のままとなった。

ケリー国務長官は、交渉は「中断」というよりも「休止」だとして「今の最善策は(交渉を)休止し、厳しく見直して、今後何が可能で、何が不可能かを見極めることだ」と述べ、双方が交渉の重要性を認識して歩み寄り、再び交渉への道を開くことを期待した。

国務省のサキ報道官もこれまでの交渉に一定の成果があったことを強調した上で、「双方が次に何をどうしたらよいのか答えを出すまで休止が必要だ。(交渉が)終わったとは考えていない」と述べた。

三年ぶりに今度こそはと期待されて開始された和平交渉は中断、決裂状態となり崩壊の恐れさえ出てきた。和平への希望は遠のき、国際社会は貴重な機会を逸したと失望した。

和平交渉は中断期間に入った。和平交渉の仲介に精力的に関わってきたアメリカではあるが、交渉が順調に進展しなかったことにアメリカ国内でもオバマ政権での「外交政策批判」の声も出てきた。

この状況から、結局アメリカ仲介の今回の中東和平交渉も「失敗」であった。

 

(一九)ネタニヤフ首相、「ユダヤ人国家」法整備を目指す

二〇一四年五月一日、ネタニヤフ首相はイスラエルを「ユダヤ人国家」と規定する基本法の制定を目指す考えを明らかにした。パレスチナの統一暫定政権合意に対抗する発言とみられるが、「ユダヤ人国家」と規定されればパレスチナ難民の帰還永遠に実現しなくなると懸念するパレスチナ側の反発は必至だ。

 

二〇)ネタニヤフ首相来日、安倍首相と会談

二〇一四年五月一一日、ネタニヤフ首相が公式実務訪問賓客として来日、一二日に安倍首相と会談した。

中東和平交渉が先月に中断して以降、ネタニヤフ首相が外国を訪れ、首脳と会談するのは初めてである。両国は中東地域の平和と安定に向けて協力を強化していく方針で一致した。会談で安倍首相はネタニヤフ首相に対し中東和平交渉再開へ一層の努力を要請した。

 

(二一)アッバス大統領、ケリー国務長官と和平交渉中断後初の会談

二〇一四年五月一四日、アッバス議長はロンドンでケリー国務長官と和平交渉中断後初めて会談した。ケリー長官は「交渉再開はパレスチナイスラエル次第だ」と強調、「双方に有益でない措置を控えるよう」求めた。

 

(二二)ローマ法王中東を訪問、和平共存を訴える

フランシスコローマ法王は五月二四日から三日間の予定で中東を訪問した。

二〇一四年五月二五日、法王はパレスチナ自治区ベツレヘムアッバス議長らと会談。イスラエルとの和平実現に向けた努力を促した。

五月二六日、法王はエルサレムイスラエルのペレス大統領、ネタニヤフ首相とそれぞれ会談し、パレスチナとの和平共存を訴えた。また、法王は平和祈願のためペレス大統領とアッバス議長をバチカンに招待すると明らかにした。二人は法王の招請を受け、来月バチカンを訪れる予定という。

 

(二三)パレスチナ、「統一暫定政権」発足へ、ハムダラ首相任命

二〇一四年五月二七日、ファタハハマスは統一暫定政府の内閣人事で大筋合意したと発表した。基本的にはファタハハマスのいずれの政治色も排除した実務型の布陣とし、近く閣僚人事を発表するとした。

五月二九日、統一暫定政権の首相には統一暫定政権発足に向けた環境づくりのため四月二五日に辞表を提出していたハムダラ自治政府首相が任命され、内務相も兼任することになった。

 

(二四)ケリー国務長官、「統一暫定政権」についてアッバス議長に電話

二〇一四年六月一日、ケリー国務長官アッバス議長に電話し、近く発足予定の「統一暫定政権」について「ハマスの役割に懸念している」とし、新政権がイスラエルの承認や非暴力の原則を順守しパレスチナイスラエルのこれまでの合意を受け入れるよう重ねて要求した。

アッバス議長はこれに「約束を守る」と応じたという。

 

(二五)ネタニヤフ首相、ハマスが加わる「統一暫定政権とは交渉拒否」の姿勢

イスラエルは、ハマスの加わるパレスチナの「統一暫定政権」の発足に強く反発している。

ネタニヤフ首相はパレスチナの「統一暫定政権」について、「テロ組織のハマスが属し、ハマスに依存する暫定政府を国際社会は認めてはならない」と国際社会に訴えた。また「この政権とは和平交渉をしない」と述べ、暫定政権とは交渉しない姿勢を明確にした。

 

(二六)パレスチナ、「統一暫定政権」が発足、最終統一までには曲折も

二〇一四年六月二日、ハムダラ首相が指名されパレスチナ統一暫定政権が発足した。二〇〇七年から続いた分裂状態が解消、「統一パレスチナ」に向けた重要な一歩を踏み出した。

アッバス議長は「分裂状態は終わった」「(パレスチナ)統一の始まりだ」と強調、「新たな政権はイスラエルの国家としての承認を含め、これまでの国際合意を順守するとともに、パレスチナ政府は引き続き和平交渉を求めている」と述べた。

ハマス側も内閣成立を歓迎した。しかし、ハマスは引き続きガザ地区を実効支配しており、ハマスの軍事部門の一部には統一暫定政権に不満もある。イスラエルが統一暫定政権に反対している状況下において、パレスチナ政権が名実ともに一本化できるのは安易でなく、まだまだ曲折も懸念される。

 

(二七)イスラエル、「パレスチナ統一暫定政権発足」に強く反発、制裁も

二〇一四年六月二日、イスラエルパレスチナ統一暫定政権の発足に直ちに反発した。

二日未明、イスラエル空軍はガザの空爆をおこなった。

ネタニヤフ首相は治安閣議を開き、「テロ組織ハマスが加わる政権とは和平交渉をしない」ことを再確認した。閣議パレスチナへの制裁権限をネタニヤフ首相に付与することを決めた。

六月四日、イスラエル住宅省は入植住宅一五〇〇戸の入札を行うと発表し、アリエル住宅・建設相は「パレスチナのテロ内閣発足」への対応だと説明した。

 

(二八)アメリカなど「パレスチナ統一暫定政権発足」に好意的反応

パレスチナ統一暫定政権の発足にアメリカは好意的に反応した。

二〇一四年六月二日、サキ報道官は統一暫定政権の今後の動向を注意深く見守るとしながらも、新政府への援助再開を表明した。

六月四日、ケリー国務長官は訪問先のレバノンの首都ベイルートで「新政権が非暴力の原則やイスラエルの存在を明確にした」と語り、「アメリカが今後協力を進めても問題ない」との見解を示した。また国連、EUも新政権の発足を好意的に支持し、協力する意向を示した。

 

(二九)エジプト、新大統領にシシ前国防相

二〇一四年六月八日、エジプトの新大統領にシシ前国防相が就任した。シシ新大統領は、昨年七月の事実上のクーデターを主導、先月の大統領選挙で圧勝していた。

 

(三〇)アッバス議長とペレス大統領、バチカンで平和の祈り

二〇一四年六月八日、ローマ法王の招きでバチカンを訪問したパレスチナ自治政府アッバス議長とイスラエルのペレス大統領はバチカンで平和の祈りを捧げ対談した。

 

(三一)イスラエル、ペレス大統領の後任にリブリン前国会議長を選出

二〇一四年六月一〇日、イスラエル国会は七月に任期満了を迎えるペレス大統領の後任に、リブリン前国会議長を選出した。リブリン議長は右派与党のリクードに所属しており、今後中東和平交渉にどのような見解を示すか注目される。

 

(三二)イスラエルパレスチナの関係さらに悪化、イスラエル軍がガザ空爆

和平交渉の中断中にもイスラエルユダヤ人入植活動は止むことなく、「イスラエルパレスチナ浸食」は続き、パレスチナ人悲願の「パレスチナ人国家樹立」は遥か遠いものになっていった。

二〇一四年六月二日に統一暫定政権が発足してから、イスラエルパレスチナの関係はさらに悪化、衝突の危険さえ出てきた。イスラエルは引き続きパレスチナの統一暫定政権に強く反対している。

六月一一日、イスラエル軍がガザ北部を空爆パレスチナ人に死傷者がでた。イスラエル南部へガザからロケット弾一発が発射されたことへの報復という。ネタニヤフ、アッバス両首脳は互いに「事件の責任は相手側にある」と非難し合った。パレスチナ新政権の発足後初の攻撃であった。双方の関係はさらに悪化の方向に向かっていった。

 

(三三)イスラエルパレスチナ、双方の「少年の誘拐殺害事件」起きる

イスラエルパレスチナの関係が悪化する中、さらに対立を深める事件が発生した。イスラエルの少年が行方不明になり、その後遺体で発見された。ところがその事件から数日後、今度はパレスチナの少年が誘拐され焼き殺されるという事件が起きた。

 

イスラエルの少年三人誘拐、殺害される

二〇一四年六月一二日、イスラエルの少年三人が誘拐され、行方不明となる事件が発生した。ネタニヤフ首相は「ハマスが三人を誘拐した。責任はハマスと統一暫定政権を発足させたアッバス大統領にある」と強く主張した。イスラエル側は大規模な捜索活動を行い、その中で二〇〇〇戸以上のパレスチナ人の家宅捜査などを行ったほか、四〇〇人以上のパレスチナ人を逮捕した。何人かの死傷者も出た。

六月三〇日、イスラエル軍は行方不明となっていた少年三人の遺体をヘブロン近郊で発見したと発表した。ハマスの犯行だと主張し「報復攻撃」に踏み切る可能性も示唆、一触即発の事態となった。ネタニヤフ首相は治安閣議で「ハマスは報いを受けることになる」と強調した。

これに対してハマスの報道官は「(イスラエルが報復攻撃に出れば)地獄への扉を開くことになる」と牽制した。

 

パレスチナの少年拉致、焼殺される

イスラエルの少年三人の誘拐殺人事件でイスラエルパレスチナが揺れる中、今度はパレスチナの少年が拉致され焼殺されるという事件が起きた。

七月二日、イスラエルが占領する東エルサレムで誘拐されたパレスチナ少年の焼殺された死体が見つかった。アッバス議長はイスラエルによる犯行だと強く非難した。

七月四日、パレスチナ少年の葬儀に数千人が参列、イスラエル治安部隊と衝突が起き負傷者や逮捕者が出た。「少年は油を飲まされて火をつけられた」との報道もあり、火葬を忌み嫌うパレスチナ人にとって耐え難い行為にハマスの怒りは最高潮に達していった。

 

(三四)イスラエルハマス、「戦闘」状態に入る

双方の「誘拐殺害事件」はイスラエルパレスチナの悲惨な対立への引き金となった。イスラエルによるガザへの空爆と、ハマス側からのイスラエルへのロケット弾攻撃という「戦闘」へと発展してしまった。

二〇一四年七月七日、ガザのハマス側からイスラエルに対しロケット弾が発射された。イスラエルは治安閣議で軍事報復の強化を決め、「境界防衛策戦」を開始すると発表した。

 

戦闘の経緯

一、イスラエル軍、ガザ空爆を開始する

七月八日、イスラエルによるハマスへの本格的軍事作戦が始まった。イスラエル空軍はガザのハマスの拠点を集中空爆した。ガザからはイスラエルに向けロケット攻撃を加えるが、強力な空軍力を持つイスラエルによる空爆でガザの被害はさらに増加した。

七月九日、双方の攻撃は続いた。

七月一〇日、イスラエル空軍はガザ全域の空爆に踏み切った。

戦闘は長期化の様相となってきた。ネタニヤフ首相も「長期化」を示唆し「ガザからのロケット攻撃が弱まらない限り軍事作戦を続行する」方針を示しており、ガザでの死者はさらに増加する恐れがある。

二、国際社会は休戦を呼びかける

七月一〇日、国際社会は一斉に戦闘の悪化を懸念し双方に自制を促し、休戦するよう呼びかけた。

三、安保理は停戦を呼びかける

七月一一日、イスラエル軍レバノンからイスラエルにロケット弾が撃ち込まれことを明らかにした。戦線がレバノンにまで拡大する恐れが出てきた。本格的な軍事作戦が始まった八日から一一日までの四日間でガザは九〇〇カ所以上が空爆された。死者は一〇〇人を超え負傷者は七〇〇人以上となった。ネタニヤフ首相は「どんな国際的圧力もテロ組織への我々の攻撃を止めることはできない」と述べ、ハマスがロケット攻撃を止めるまではガザへの軍事作戦を継続する意向を示した。

七月一二日、安保理は戦闘激化に「深刻な懸念」を表明し、双方に二〇一二年一一月の停戦合意に立ち戻るよう呼び掛ける報道声明を発表した。その上で、二国家共存を前提に「包括的な和平合意」を目指す双方の直接交渉再開を、安保理として支持するとした。エジプトのシシ政権は前のモルシ政権のようにハマス側に理解を示さず仲介に消極的で、今のところ停戦仲介に乗り出すような動きを見せていない。

四、イスラエル軍の特殊部隊、ガザ北部に地上侵攻した

七月一三日、イスラエル軍の特殊部隊がガザ北部に侵攻した。イスラエルが八日に軍事作戦を本格化させた以降、地上戦が明らかになったのは初めてである。イスラエルによるガザ攻撃から一週間、戦闘は止まず、アメリカ始め欧米諸国、ローマ法王、国連の事務総長も事態を憂慮し「停戦」を呼び掛けるが攻撃の応酬が続く。

ガザの死者は一七〇人を超え、負傷者も一一〇〇人以上となった。

五、エジプトの停戦案、イスラエルは受け入れハマスは拒否、事実上決裂、双方の攻撃は続き被害は拡大

七月一四日、アメリカ政府はイスラエルに対し、ガザ地区での地上作戦停止を要請した。同日夜、エジプト政府は、イスラエルハマス双方に一五日午前九時より戦闘を段階的に縮小させ、一時間後に完全に停止、その後に双方が長期的な停戦に向けた協議を行うなどの「停戦案」を提示した。

七月一五日、イスラエル政府は午前七時に閣議を開催し対応を協議、保守強硬派のリーベルマン外相らが自国の安全保障を理由に受諾反対論を表明したが、政府として「停戦案受け入れを決定」した。一方、ハマスは停戦案をイスラエルへの降伏とみなし、「ただ戦闘止めろと求めているだけだ」として受け入れを拒否した。大きな被害を受けたまま、またイスラエルの封鎖解除など明確な「見返り」もないままでの停戦は受け入れられなかった。イスラエルは一時停戦を受け入れたもののハマスのロケット攻撃は止まず、イスラエル軍ガザ地区への空爆を再開した。停戦工作は事実上失敗、双方の攻撃は続行し、被害は拡大していく。国際社会から停戦を求める声が高まる中、トルコのエルドアン首相はイスラエルのガザ空爆を「テロ」だと非難。「トルコ以外の国はテロをやめろと声を上げていない」と憤慨した。パレスチナ側の死者は一九七人に達した。イスラエル側に初の死者が一人出た。

六、イスラエル、ガザ一〇万人に「避難勧告」

七月一六日、イスラエルは、ガザ地区北部や東部の住民約一〇万人に南部などに「避難する」よう警告した。軍事作戦の拡大、空爆の強化を進めるという。一方、ハマスは、「心理作戦だ。恐れる必要はない」と警告を無視するよう呼びかけた。ガザでの死傷者は日毎に増加し、死者は二二五人に達し、負傷者も一五六〇人以上となる悲惨な状況となった。

七、双方、国連の「人道的一時停戦」の提案を受諾するが直後また戦闘を始める

七月一七日、双方は人道支援を目的にした国連の提案を受け入れ「五時間の一時停戦」を行った。しかし、期限が終った直後また戦闘が再開された。

八、イスラエル、ガザへの「地上侵攻作戦」に踏み切る

七月一七日、イスラエルガザ地区への「地上侵攻」作戦に出た。空爆だけでなくの本格的地上戦に踏み切り新しい段階に突入した。ハマスが構築したガザからイスラエル内へ通じる地下トンネルの破壊が、空爆のみでは不十分だと判断し、ガザからの危険な侵入を防衛し、ガザ全土を占領すべきだなどの強硬意見もあり、地下トンネルの破壊が重点的に行われた。地上攻撃による徹底的破壊が目的という。

九、ガザ地上侵攻で「トンネル破壊」など被害大きい

七月一八日、オバマ大統領はネタニヤフ首相と電話会談し、「イスラエルには自衛の権利がある」とした上で、アメリカや同盟国が「戦闘悪化と罪のない市民のさらなる犠牲を深く懸念している」と伝えた。ネタニヤフ首相は「地上作戦を拡大する用意がある」と述べ、ガザへの地上攻撃を強化する可能性を示した。

七月一九日、ガザ地上侵攻から三日目、地下トンネルの破壊は一〇カ所以上、施設や住宅などの破壊も進み、ガザの死者は三〇〇人以上になった。トルコのエルドアン首相は、「イスラエルの一部の政治家はナチスヒトラーと同じ精神構造を持っている」、イスラエルの行動は「ジェノサイド(大量虐殺)だ」と述べ、イスラエルの行動を厳しく批判した。アメリカ、エジプト、そして国連なども停戦を呼び掛けるがイスラエルにその気配は全くない。

一〇、国連安保理、双方の対立を懸念、即時停戦を求める

地上攻撃が続き、民間人の犠牲者が増え続ける中、停戦を目指す国際社会の動きが本格化してきた。

七月二〇日、国連安保理はガザ情勢を非公開で協議し、事態の悪化と市民の犠牲拡大に「深刻な懸念」を表明する報道談話を発表、「敵対行為の即時停止」と「国際人道法の尊重」を求めた。ネタニヤフ首相はテレビ演説で、「イスラエルがこの戦争を選んだのではない。ハマスに責任がある」と述べ、国民に理解を求めた。

イスラエル軍の攻撃は拡大し、パレスチナ側の死者は四〇〇人以上となった。

一一、オバマ大統領、即時停戦を求める。パレスチナ側死者〇〇人を超える

七月二一日、オバマ大統領は声明を発表し、「国際社会は今、ガザの停戦に集中しなければならない」「ガザの状況に深く懸念している」と述べ、即時停戦を求めた。その上でケリー国務長官に即時停戦の実現に向けて最大限の努力を尽くすよう指示したことを明らかにした。犠牲者が増え続ける事態に国際社会の動きも活発になっている。八日からの戦闘は二週間となり、地上侵攻から五日目である。パレスチナ側の死者は遂に五〇〇人を超えた。一方イスラエル側の死者はこれまでに二四人だという。国連安保理も「速やかな停戦」を要求、パン・ギブン事務総長もイスラエルに「最大限の自制」を求めた。

一二、国連事務総長、ケリー国務長官相次いで中東入り。安倍首相、ネタニヤフ首相と電話協議

七月二一日、ケリー国務長官は停戦案を提案したエジプトへ入り、中東入りしている国連のパン事務総長と会談した。

七月二二日、ケリー国務長官はエジプトのシシ大統領、シュリク外相と会談し、その後の記者会見でエジプトの停戦案に支持を表明した。安倍首相はネタニヤフ首相と電話で協議した。安倍首相はガザの情勢に深い憂慮を表明し、「停戦実現へ勇気ある決断」を強く求めた。しかし、戦闘は続き、パレスチナ側の死者は六〇〇人を超え、負傷者も四〇〇〇人近くになった。

一三、国連人権理事会、イスラエル非難決議案可決、アメリカは決議に反対した

七月二三日、ケリー国務長官はエジプトからイスラエルに入り、停戦実現に向けネタニヤフ首相と会談し、ヨルダン川西岸ではアッバス議長と会談した。国連人権理事会(構成四七カ国)はスイスで開催した緊急会合で、イスラエル軍によるガザ地区への攻撃を非難し、人権侵害の実態を調べる国際調査団の派遣などを盛り込んだイスラエル非難決議案を審議し、賛成二九(発議者のパレスチナ自治政府アラブ諸国)、反対一(アメリカ)、棄権一七(EUや日本)で可決した。イスラエル大使は「決議案はバランスを欠き、(紛争の)火に油を注ぐものだ。人権理事会にイスラエルの自衛を止めることはできない」反発し、調査団の受け入れを拒否した。アメリ国務省のハーフ副報道官も決議案について定例記者会見で、「偏向した反イスラエル行動の一つだ」と述べ、「我々は、たとえ一国でもイスラエルのために立ち上がる」とイスラエル支持への強い姿勢を示した。

会合はイスラエル側、パレスチナ側双方が非難合戦を繰り広げ、歩み身寄りを見せなかった。この日も戦闘は続き、イスラエル軍ガザ地区唯一の発電所である火力発電所を攻撃した。ガザでの死者は七〇〇人を超えた。

一四、「学校」が砲撃される。パレスチナ側死者はさらに増え七五〇人を超える

七月二四日、イスラエル軍ガザ地区北部にある国連が運営する避難所として住民を受け入れている学校に砲撃を加え、少なくとも一五人が死亡した。死者の多くは子供であったという。他に二〇〇人以上が負傷した。国際社会からイスラエルへの停戦圧力が一段と高まる可能性がある。軍事作戦開始から一七日目、ガザでのパレスチナ人死者は七五〇人を超え、八割以上が一般市民で、子供も多いという。

一五、ケリー国務長官、一週間の停戦案を示すが不調。パレスチナ側死者八〇〇人を超える

ケリー国務長官は七月二三日のイスラエル訪問で「一週間の停戦案」を示したとされるが双方とも主張に妥協し難い条件を設定しており、合意は遠かった。こうした中でも闘争は続き、ガザでの死者は八〇〇人を超え、イスラエル側の死者は民間人三人を含む三六人になった。

一六、イスラエル、ケリー長官案を拒否、「一二時間の一時停戦」を決める

七月二五日、イスラエル政府は同日夜、治安閣議を開き、ケリー長官の「一週間停戦案」を拒否することを決め、人道目的で「一二時間の一時停戦」をするとした。

一七、一二時間の人道的停戦、駆け引き続く。衝突は続きパレスチナ側の死者は、一〇〇〇人を超える

七月二六日、ハマス側は「一二時間停戦」を受け入れ、「午前八時から午後八時まで一二時間」の一時停戦に入った。ケリー長官は、パリでフランス、トルコ、カタールの外相らと停戦について協議し、「一二時間停戦」を延長するように求める声明を発表した。イスラエルは「停戦を四時間(二七日午前〇時まで)延長する」と発表した。ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区では、イスラエルのガザへの軍事行動に抗議しデモが発生しており、イスラエル軍との衝突が起きている。イスラエルは同日夜、国連要請に応じ、停戦をさらに二四時間(二八日午前零時まで)延長する」と明らかにした。ところが、ハマスは最初の一二時間の停戦が終わった時点で延長を拒否。「イスラエルの装甲車がガザから撤退しない限り、人道的停戦は無効だ」として、イスラエルへのロケット弾攻撃を開始した。イスラエル軍攻撃によるパレスチナ人の死者は二六日、一〇〇〇人を超えた。一方、イスラエル側の死者は、これまでに四三人である。

七月二七日、イスラエル軍もガザへの軍事行動を再開した。ここにきてハマスは国連の要請に応じ、人道支援を目的に「二七日午後二時から二四時間の一時停戦」に応じると表明した。しかし、ガザからのロケット弾攻撃は止まず、イスラエルハマスを非難し、ガザ攻撃を再開した。「一時停戦は崩壊」し、双方の駆け引き、心理戦はさらに激しくなっていった。

一八、オバマ大統領、ネタニヤフ首相に「即時無条件の停戦」を求める

国際社会は停戦をめぐり大きな動きを示してきた。オバマ大統領はネタニヤフ首相と電話協議し、空爆や地上侵攻などでの死傷者増大への懸念を改めて示したうえで「人道上即時無条件の停戦を実施することが必要だ」と伝え、早期の停戦実施に向けて尽力するよう求めた。

一九、イスラエルのガザ攻撃に各国で非難デモ

七月二五日のイラン七七〇都市での「ガザ攻撃抗議デモ」に続き、二六日、二七日にはイスラエルのガザ攻撃を非難する大規模なデモがベルギー、パリ、ロンドン、オタワなどでも行われ、大きく注目された。

二〇、国連安保理、「即時無条件の停戦」を求める議長声明を発表

七月二八日、国連安保理は緊急総会を開催し、七月二二日にヨルダンから提出されていたイスラエルハマス双方に「即時無条件の人道的停戦に入ることを求める議長声明」について協議し、アメリカを含む安保理一五カ国の全会一致でこれを採択した。声明は一時停戦を求めた上で、エジプト仲介案を基に持続的な停戦への取り組みを要求した。国連パン事務総長も各勢力が人道的停戦に深い関心を示していると述べ、停戦への強い実行を期待した。このような国際社会の要請が高まる中でも戦闘は止まず、ネタニヤフ首相は「軍事作戦はハマスの地下トンネルを破壊するまで終わらない」、「長期戦に備えなければならない」と述べ、軍事作戦の続行を表明するなど、戦闘はさらに激化、拡大の恐れさえ出てきた。

二一、イスラエル、ガザを猛攻発電施設破壊、住民生活混乱、パレスチナ側の死者一一〇〇人を超える

七月二九日、イスラエルのガザへの軍事作戦は四週目に突入、猛攻は続き長期化の様相となってきた。ガザ唯一の火力発電所は砲撃を受け破壊、大規模停電は電力の供給停止、病院、学校、汚水処理対応、燃料不足などガザ住民の生活に大きな支障となった。ガザ中部の難民キャンプ攻撃で死傷者も出た。八日の軍事作戦開始からガザの死者はさらに増加し一一〇〇人を超えた。イスラエルへの国際社会の非難も続く。イランの最高指導者ハメネイ師は、イスラエルを「狂犬」だと非難。「これは大量虐殺だ」としイスラエルが主張するハマス武装解除に反対する姿勢を示した。南米のチリとペルーはイスラエルのガザ攻撃への抗議として、それぞれ駐イスラエル大使を召還することを決めた。既に、ブラジルとエクアドルも大使を召還しており、イスラエル中南米の関係にも影を落としている。

二二、イスラエル、学校などの非難施設を砲撃。パレスチナ側の死者は一三〇〇人を超える

七月三〇日、ガザ北部で国連が住民の避難所として開放している学校に砲撃があり、少なくとも一九人が死亡した。学校砲撃をうけて、国連パレスチナ難民救済事業機構(UNRWA)は「イスラエル軍による深刻な国際法違反を非難する」と表明した。UNRWAが運営する学校は七月二四日にも砲撃を受け死傷者がでている。パン国連事務総長は「眠っている子供を攻撃するほど恥ずべきことはない」、「今回の攻撃は重大な国際法違反であり、加害者は責任を取らなければならない」と異例の強い口調で非難した。ガザ東部でも攻撃で一五人が死亡するなど、八日からの戦闘でのガザの死者は一三〇〇人を超えた。イスラエル政府は治安閣議で「地下トンネル破壊完了まで軍事作戦の継続」を決定、作戦の長期化は必至だ。一方、ハマス側も「イスラエルの侵略とガザ封鎖の解除なくして停戦は無い」として徹底抗戦の構えを崩していない。

二三、停戦の展望見えず過去最長の軍事作戦となる。パレスチナ側の死者は一四〇〇人を超え過去最悪

七月三一日、今日で戦闘開始から二四日目に入り、双方の軍事作戦は過去最長となり、ガザの死者も子供や女性を含む一般人が多数を占め、一四〇〇人を超え過去最悪となった。長引く戦闘と多数の犠牲者が出ているガザの惨状に欧米で「反イスラエルデモ」などの動きが拡大してく。トルコのエルドアン首相は「イスラエルがしていることと、ヒトラーがしたことはどこが違うのか」と強く批判、多くの子供や女性が殺害されたことを「大虐殺」だと糾弾した。停戦が実現せず、なぜここまで双方の闘争が激化しきたのか。理由は主に三点あるといわれる。

第一は、「国家対国家」の戦争でなく、「国家対武装組織」の戦いになっていること

第二は、双方が互いに相手を承認しておらず、直接交渉の意思がないこと

第三は、その両者の間に立って停戦を説得できる有力な調停役がいないこと

などである。

そして双方の戦闘の主目標も見えてきた。

イスラエルは「ハマス武装解除」である。ロケット弾と地下トンネルを徹底的に破壊し、ハマスの攻撃能力を奪い、再び攻撃が出来ないように大打撃を与えることである。一方ハマスは「ガザ地区の封鎖解除」と「イスラエルにより身柄拘束中のパレスチナ人の解放」である。これまでの戦闘で大勢の犠牲者が出ているだけに封鎖解除などガザの人々への「成果」があり、「勝利」の実感がなければ「停戦」はできない状況もある。

二四、「七二時間の人道的停戦」に合意、しかし、停戦発効後すぐに合意崩れ戦闘が再開、パレスチナ側の死者は一六〇〇人を超える

八月一日未明、アメリカのケリー国務長官と国連のパン・ギブン事務総長は共同で「イスラエルハマスが七二時間の人道的停戦に合意した」と発表した。「一日午前八時から停戦に入り、直ちに双方の代表がエジプトのカイロで本格的な停戦交渉に入る」、「その間に死者の埋葬や負傷者の治療、食料の補給など人道的支援を進める」という。しかし、「停戦」はすぐ「崩壊」してしまった。「停戦」発効の直後、地下トンネルでの衝突が起き、イスラエル兵が一人死亡、一人が誘拐されたため、ハマス側の停戦違反だとしたイスラエル軍がガザ南部を砲撃。戦闘が開始されガザ市民に多くの死傷者がでた。双方とも相手が先に停戦違反行動に出たのだと非難し合った。互いに責任が相手にあると非難し合う状況に、停戦を仲介したオバマ政権は大きな衝撃を受けるが、オバマ大統領は「極めて困難で、時間も掛るであろうが仲介努力を続ける」と述べ、停戦の必要性を訴えた。国連としては「人道的停戦を順守するよう双方に影響力を持つ国々の働き掛けを要請する」とし、停戦に期待するが、国連としての停戦への限界に無力感もでている。先月八日以降の戦闘でパレスチナ側の死者は一六〇〇人以上、負傷者も七〇〇〇人を超え、一方イスラエル側の死者は民間人三人を含め六六人となったという。

二五、カイロで「停戦交渉」を予定、パレスチナ側交渉団がカイロ入り

八月二日、国連とアメリカの呼びかけによる「停戦交渉」が予定された。仲介にあたるエジプトのシシ大統領は「流血に歯止めをかける真のチャンスだ」と強調し、双方の代表団のカイロ入りを待った。

八月三日、本格的な停戦に向け、ハマスなどパレスチナ側の交渉団はエジプトカイロに入り、エジプト政府と交渉への調整に入った。一方、イスラエルの交渉団にカイロ入りの動きは無い。イスラエル代表団が交渉の席に着き、本格的な停戦に向けた協議が開始されるか予断を許さない。

二六、イスラエル地上部隊がガザ撤退を始める。戦闘は続きパレスチナ側の死者は一七〇〇人を超える

八月三日、イスラエル軍地上部隊はガザ地区の地下トンネルの破壊がほぼ完了したとしてガザ北部から撤退を始めた。しかし、ネタニヤフ首相は「トンネル破壊の目的達成までは軍事作戦は続ける」として停戦の気配はない。ガザ南部での戦闘は続き、イスラエル軍はガザ南部ラファで国連が運営する学校付近を空爆し、少なくとも一〇人が死亡、約三〇人が負傷したという。学校にはパレスチナ難民が避難している。国連やアメリカはイスラエル軍による空爆を厳しく非難。民間人の犠牲拡大にイスラエルへの風当たりはさらに強まってきた。ガザで連日、子供を含めパレスチナ人の犠牲者が増加している惨状に心を痛める市民の怒りの声は、世界各地に広がっていった。フランスのパリで一万人以上が参加するデモが起きるなどヨーロッパ各地やアメリカ、中南米諸国、そして日本の東京でもガザでの「即時停戦と平和」を訴える動きは続き拡大した。イスラエルに対する非難の声が多い中、戦闘開始からガザでの死者は一七〇〇人を超え、負傷者も九〇〇〇人以上となった。

二七、イスラエル、「七時間停戦」を発表、パレスチナ側の死者は遂に一八〇〇人を超える

八月四日、イスラエル軍は午前一〇時から、人道目的の「一方的な七時間停戦」を行うと発表した。トンネル破壊はほとんど完了したとして既に地上部隊の大半をガザから撤退させており、今後は空爆中心の作戦に軸足を移すとみられる。しかし、ハマス側は「イスラエルの停戦表明は、虐殺行為から関心をそらすための策略だ」と不信感を示し、戦闘を続けるとした。ガザでの死者は遂に一八〇〇人を超えた。

二八、「七二時間停戦」に合意、イスラエル軍ガザ撤退、イスラエル交渉団がカイロ入り

八月五日、カイロでの本格停戦協議に入る前イスラエルパレスチナ双方は「八月五日、午前八時から改めて七二時間の停戦に入ることに合意」したとエジプト当局者が明らかにした。イスラエル軍は、ガザに展開していた「地上部隊を撤収」させた。今度こそ真の「停戦」の実行となるか期待は高まった。「午前八時から七二時間の一時的停戦」に入った。八月八日の午前八時が停戦期限である。イスラエルの停戦交渉団は五日夜にカイロ入りした。

二九、エジプト仲介の本格停戦に向けた協議が始まる

八月六日、パレスチナの停戦交渉団は既にカイロ入りしている。イスラエルの停戦交渉団はエジプト政府と交渉への調整を始めた。仲介役のエジプト政府は、先ず双方の要求を調整し相手に伝える形をとることになる。ハマス側としては、「経済封鎖の解除」は譲れない一線である。ガザはイスラエル、エジプトの両国との境界がそれぞれ封鎖された状態であり、燃料や建材が不足、公務員の給与遅配も頻発など市民生活での困窮は著しく、不満の矛先はハマスに向けられつつある中で、ハマスが求める最大の焦点は「経済封鎖解除」である。またイスラエルに拘束されているパレスチナ人の釈放、破壊されたガザ空港の建設などもハマスにとって重要だ。一方イスラエルは以前からハマスの「武装解除」を強く要求してきており、リーベルマン外相らの「ハマスの非武装化強硬意見」はさらに強く、ネタニヤフ政権の安定にも「ハマス武装解除」は譲れない。本格的停戦に向け双方の対立は深く、ともに譲歩は困難であり、エジプト仲介の交渉に難航も予想される。

三〇、「七二時間の一時停戦」期限が切れ双方攻撃再開、イスラエル代表団は帰国、パレスチナ側死者一九〇〇人に

八月六日、パレスチナ側の死者は一八〇〇人を超えた。

八月七日、ハマスはガザ封鎖解除などの条件が認められない場合、攻撃を再開すると宣言した。五日に発効した七二時間の停戦は八日の午前八時に期限を迎えるが現状から不安である。

八月八日、続いていた七二時間の一時停戦期限が午前八時に迫る。イスラエルはさらに期限の延長に前向きであるが、ハマスは経済封鎖が解除されない限り次に進むことは拒否している。午前八時、停戦期限が切れた。双方の攻撃が再開した。イスラエル空爆ハマスはロケット弾を発射した。七月八日からの戦闘による死者はパレスチナ側で民間人を中心に一九〇〇人にもなり、イスラエル側は六七人となった。カイロで続けられていた本格停戦協議も双方共に譲歩困難で行き詰まり、イスラエル代表団は「戦闘が行われている状況の下では交渉は不可能」として帰国した。パレスチナ代表団はカイロに留まった。

三一、イスラエル、「ハマス打倒、ガザ占領」の強硬論もでる

八月九日、ハマスはロケット弾四〇発を発射し、イスラエル軍はガザのモスクなど五一か所を空爆した。イスラエル国内では、「ハマスからのロケット弾攻撃が続けばハマスを打倒し、ガザを占領すべきだ」との強硬論もでてくる。イスラエルの軍事作戦に抗議するデモがロンドン始め世界各地で頻発した。

三二、双方の対立の中、イスラエル代表団がカイロに戻り交渉を再開する

八月一〇日、ネタニヤフ首相は「目的達成まで攻撃停止はしない。攻撃されている状況では停戦交渉はしない」と主張した。一方パレスチナ代表団は「イスラエルが無条件で交渉に戻らなければカイロを去る」と反論した。イスラエル代表団はカイロに戻り、交渉を再開することになった。

三三、エジプトの仲介で再び「七二時間の停戦」に合意

八月一一日、ここにきて双方はエジプトの要請を受け、「一一日午前〇時過ぎから七二時間の停戦」をすることに合意した。八月一四日の午前〇時が停戦期限である。

三四、停戦中に交渉は開始されたが進展なし

八月一二日、交渉は一一時間以上に及んだが進展がない。双方の主張に隔たりが大きく協議は難航している。

三五、エジプトの「一時停戦をさらに五日間延長する」提案に双方が合意した。パレスチナ側の死者は二〇〇〇人近くになる

八月一三日、今回の停戦期限は明朝一四日午前〇時である。何か対応が出来ないとまた戦闘が再開される恐れがある。エジプト政府は双方の調整を行い「一時停戦をさらに五日間延長することに双方が合意した」と発表した。今回の停戦は「一九日午前〇時までの五日間」である。この間にもガザでの負傷者の死亡や遺体の発見などでパレスチナ側の死者は二〇〇〇人近くになった。

三六、交渉団は協議を再開したが進展しない

八月一七日、双方の交渉団は協議を再開、停戦期限の一九日午前〇時までの合意を目指し協議を重ねたが今回も進展がない。

三七、エジプトは「一時停戦をさらに二四時間延長」することを提案、双方が合意した

八月一八日夜、双方は仲介のエジプトの要請を受け、「一時停戦をさらに二四時間延長」することに合意した。この合意で「八月二〇日午前〇時までの停戦」となるが、今まで何回となく「停戦」合意は守られず、すぐ戦闘が再開されてしまう状況の繰り返しに「今回が最後の延長だ」とする声も出る。

三八、「停戦期間中」にもかかわらず戦闘再開、ガザ空爆、交渉決裂、パレスチナ側の死者は二〇〇〇人を超えた

八月一九日、停戦期間中である。イスラエル軍は「ガザからロケッ弾三発が発射されイスラエル南部に着弾した」と明らかにした。ネタニヤフ首相はロケット弾発射が「明確な合意違反」だし、ガザ攻撃を指示、軍はガザ北部を空爆した。さらに首相は「戦闘中は交渉しない」として「交渉団のカイロ引揚げ」を指示した。今まで双方の本格的交渉はカイロで断続的に続けられていたが、ここに来て交渉は暗礁に乗り上げ決裂状態に陥った。イスラエル軍の攻撃によりガザは再び戦火に包まれた。停戦延長合意はどこかへ飛んでしまった。パレスチナ側の死傷者は続出し、これまでの死者は二〇〇〇人を超え、負傷者は一〇〇〇〇人以上になり医師や薬品不足も続いている。

三九、延長された交渉期限が切れ、パレスチナ側の交渉団はカイロを去る

八月二〇日、延長された交渉期限は切れ、パレスチナ側の交渉団は、「協議は失敗した」として仲介役のエジプト政府に新たな停戦への案を提示してカイロを去った。

四〇、戦闘は激化しガザ空爆は続く。ハマスの軍事部門幹部三人死亡、ハマスは内通容疑で三人を処刑

八月二一日、イスラエル軍によるガザ空爆は続き、少なくとも二六人が死亡した。ハマスのガザからのロケット弾攻撃も止むことなく、双方は再び激しい戦闘状態に突入した。ハマスの軍事部門カッサム隊はイスラエル軍の攻撃で指揮官三人が死亡したとの声明を出した。同じ日に三人もの中心幹部を失ったハマスには大きな痛手となった。ハマスは当方の情報がイスラエル側に漏れている疑いがあるとして内通容疑で三人を処刑した。

四一、ハマス、内部の情報管理を強化、パレスチナ側の死者は二〇九二人となる

八月二二日、ハマスイスラエルに内通していたとしてガザに住むパレスチナ人一八人を処刑した。同じ日に三人もの幹部を失ったショックは大きく、昨日の処刑を含め二一人も処刑したハマス側の行動は、「情報管理の強化を徹底しなければならない」とする危機感の表れであった。イスラエルではガザからの砲撃で四歳の男児が死亡した。軍事作戦が始まってからイスラエルの子供が死亡したのは初めてであり、ネタニヤフ首相は「ハマスは高い代償を払うことになる」と警告した。これでイスラエル側の死者は民間人四人、兵士六四人となり、合わせて六八人となった。一方、パレスチナ側の死者は二〇九二人となった。

四二、エジプトは双方に「攻撃を停止し、本格的に停戦に向けた協議を再開するよう」呼びかけた

八月二三日、エジプト政府はイスラエルパレスチナ双方に対し「攻撃を停止し、本格的に停戦に向けた協議を再開するよう」呼び掛けた。同日、アッバス議長はエジプトのシシ大統領と会談後「一刻も早い交渉再開」を訴えた。またアッバス議長はこの日、「国際刑事裁判所(ICC)に加盟申請することを認める書類に署名した」とも報道された。ICCへの加盟に向けて議長の最終判断が注目される。

四三、イスラエル軍ハマス幹部狙い」を強化、ハマス財政担当トップを空爆で殺害

八月二四日、双方の攻撃は止むことは無い。イスラエル軍ハマスの財政担当トップを空爆で殺害したと発表した。イスラエルは二一日にもハマスの軍事部門幹部指揮官三人も殺害しており、「ハマス幹部」を標的とする作戦を強化している。こうした中でハマスと連携する武装組織の活動が活発になってきている。昨日レバノン領内から迫撃砲イスラエル北部に発射されたのに続き,今日はシリア領内からイスラエルが占領中のゴラン高原迫撃砲弾が飛んだ。ヒズボラの動きでさらに戦線が拡大する兆しもある。

四四、エジプト、交渉進展への「新たな停戦案」を提案か?パレスチナ側の死者は二一三四人となる

八月二五日、パレスチナ側からのものとして交渉が進展しそうな情報が発表された。仲介役を務めるエジプトが検問所を開け、ガザ再建のための建設資材搬入を認めることにつながる可能性のある「新たな停戦案」を提案したという。パレスチナは「イスラエルが受ければ、我々も受け入れる」との姿勢を示した。ガザ封鎖解除につながる有効な提案になるか注目される。双方の戦闘は今日も続いている。今までにパレスチナ側の死者は二一三四人、負傷者は一万九一五人、イスラエル側の死者は六八人となった。

 

(三五)イスラエルハマス、「停戦(長期的停戦)」に合意する

イスラエルハマスが本格的長期停戦に合意

二〇一四年八月二六日、エジプト政府は「イスラエルハマスが期限を設けず停戦し、一カ月以内に和平に向けた交渉を始めることで合意した」と発表した。七月八日の戦闘開始から五〇日目で終結に向けた重大な局面を迎えた。

ハマス側が、痛手を受け、乏しい成果の中で停戦合意を受け入れたきっかけの一つは、先日ハマス軍事部門幹部三人が殺害されたことにより組織が弱体化に向かい、さらにイスラエル軍が他の幹部殺害作戦にポイントを絞ってきたことだともみられる。さらに戦闘が長期にわたりロケット弾の手持ちが少なくなっていたともいわれる。ハマスにとっては不利な状況下の停戦であった。

 

停戦合意内容の骨子

停戦合意は二段階になっており、概ね次のようである。

第一段階では双方が軍事行動を即時停止する。停戦は二六日午後七時(日本時間二七日午前一時)に発効し、期限は無期限とする。イスラエルは封鎖している検問所を開放し、救援物資や建設資材などの搬入を容認する。ガザ市民に対し、ガザ沖合での漁業規制を緩和するとしている。

さらに第二段階としては、その後一カ月かけ長期的な本格停戦とガザ封鎖解除などに向けた条件、例えばハマスが求めていた空港や港湾の建設やイスラエル側が要求していたハマス武装解除などを含め諸問題について協議を重ねるとしている。

 

(三六)「長期的停戦」の合意後も不安定な諸状況続く、国際社会の懸念高まる

七月、八月と続いた今回の戦闘は「長期的停戦」という形で終息したが、特にパレスチナ側の受けた被害は実に大きく、一四〇〇人以上の民間人を含め二二五〇人を超える死者を出した悲惨な現実は、停戦合意後の双方の協議に深い傷として残っていく。イスラエルハマスとは二〇〇八年からの六年間で三度の大規模な軍事衝突(ガザ戦争)を起こしたが、今回の戦闘でガザは最大の被害を受け、住民の生活に大きな不安を残した。

 

イスラエル、「実質勝利の停戦」とするが「戦闘を継続すべきであった」との声も高い

二〇一四年八月二七日、ネタニヤフ首相は勝利宣言をした。イスラエルの世論の大勢は今回のガザ侵攻を支持しているが、一連の軍事作戦で確かな成果が得られなく停戦に至ったことに「戦闘を継続すべきであった」との声も高い。

 

ハマス、屈辱の大きな被害を残しての「停戦」であり武装解除など難問が山積

ハマスにとっては大きな被害を受けた後であり、屈辱の停戦であった。

八月二八日、ハマスのメシャル最高指導者は記者会見でハマス武装解除について「誰もハマスから武器を取り上げられない」と述べ、今後の交渉でハマス武装解除を議題とすること自体を受け入れないとする姿勢を示した。

 

イスラエルヨルダン川西岸の「土地接収」計画

八月三一日、イスラエル政府は占領地ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区内の土地約四平方キロを一方的に国有地だとして接収すると発表した。過去三〇年で最大規模だという。

パレスチナ側はユダヤ人入植地拡大につながり「イスラエルパレスチナ双方の関係に大きな不安定化を招く」として強く非難した。

 

国際社会、イスラエルの入植計画に非難続出

イスラエルの入植活動に国際社会からも相次いで非難の声が上がった。

九月一日、国連のパン事務総長は「国際法違反にあたり、二国家構想を追求する解決策に完全に逆行する」と非難した。イギリス、イスラエル平和団体「ピース・ナウ」なども強い懸念を示した。

九月二日、アメリカは、サキ報道官名でパレスチナが将来の首都とする東エルサレムでのイスラエルの接収計画に、「二国家共存を実現する行方を阻害するものだ」と深い懸念を表明し撤回を求めた。さらに双方に和平を阻害する「一方的な措置」を取らないよう求めた。

 

ガザ復興への支援の動き

九月四日、パレスチナ自治政府イスラエルとの五〇日間の戦闘による被害で、ガザ復興に七八億ドル(約八二〇〇億円)が必要となる見込みだと明らかにし、「費用の多くは国際社会からの支援に頼ることになる」と述べた。

九月九日、国連とパレスチナ自治政府は、ガザの再建に約五億五〇〇〇万ドル(約五八〇億円)の支援を国際社会に求める声明を出した。同日、エジプトはガザ復興のため支援国会合を一〇月一二日にカイロで開催すると表明した。

 

アッバス、ネタニヤフ両首脳が国連で演説、対立する主張を展開

九月二六日、アッバス議長は国連総会での一般討論で、イスラエルのガザ攻撃を「完全な戦争犯罪だ」と強く非難し上で、イスラエルとの和平交渉について「明確な行程表がなければ意味がない」と指摘、イスラエルの占領地撤退に期限を設ける国連安保理決議案を準備していることを明らかにした。また「ガザを苦しみから解放するには、イスラエルの占領終了とパレスチナ国家の独立以外にはない」主張した。

九月二九日、ネタニヤフ首相も国連総会で演説し、イスラム過激派やイランの核兵器開発を放置すべきでないとした上で、ハマスも同じだと断じた。またパレスチナとの和平交渉については「イスラエルにとっては最優先事項ではない」との立場を示した。

 

アメリカ、イスラエルの入植活動を強く批判。ネタニヤフ首相は不快感を示す

一〇月一日、オバマ大統領とネタニヤフ首相の対談が開かれた。その対談の直前にイスラエル平和団体が「イスラエル政府が東エルサレムでの二六一〇戸の住宅建設を最終承認した」とする声明を発表した。アーネスト大統領報道官は「(入植活動は)国際社会の批判を招き、イスラエルと最も緊密な同盟国でも距離を置く」強い口調で非難した。

入植問題は両首脳の会談でも取り上げられたとみられるが、会談後ネタニヤフ首相は同行記者団に「(入植計画は)二〇一二年に承認されており(今回の承認は)単なる行政手続きにすぎない」と語り、不快感を示した。

しかしアメリカは、入植活動が続けばイスラエルパレスチナの対立が激化しかねないと懸念を深めている。ユダヤ人社会が一定の発言力を持つアメリカでは、歴代の政権が中東政策をめぐり、ほぼ一貫してイスラエルへの配慮を示してきた。しかしオバマ、ネタニヤフ関係はイランの核開発やイスラエルによるガザ攻撃に関してたびたび衝突してきており、両首脳の距離から「これまでで最も離れた距離のある同盟関係」だとの見方も出ている。

 

パレスチナ暫定政権、ガザで初閣議

一〇月九日、パレスチナ暫定政権は、政権発足後初めてパレスチナ自治区のガザで閣議を開いた。ハムダラ首相はガザ再建が最優先事項だと強調した。カイロで一〇月一二日にガザ復興のための「支援国会合」が開催されるのを控え、国際社会に対し、統一政権がガザの統治を担っていることを示す狙いがあるとみられる。

 

ガザ復興の「支援国会合」開催。復興が具体的に動き出す

一〇月一二日、荒廃したガザ復興について話し合う国際会議がノルウェーとエジプトの共催によりカイロで開催された。五〇以上の国や地域、機関の代表らが参加、アッバス議長はガザ復興には「四〇億ドル(約四三〇〇億円)が必要だ」と述べ、国際社会に支援を求めた。

 

国連事務総長、「和平協議」推進を促す

一〇月一三日、国連のパン・ギブン事務総長はパレスチナ自治区のラマラでパレスチナ統一暫定政権のハムダラ首相と会談、エルサレムではネタニヤフ首相と会談した。事務総長は両者に対し、ガザの戦闘を繰り返さないためにも「ガザの不安定さの根本的原因を取り除くことに取り組まなければならない」と述べ、イスラエルパレスチナの二国家共存による抜本的解決の必要性を強調し、「和平交渉に戻る」よう呼びかけた。

事務総長はネタニヤフ首相との共同記者会見で、イスラエル政府が占領地での「新たな入植計画」を承認したことについて「入植計画は正しいメッセージを送らない。イスラエル政府はこうした活動を止めるべきだ」と強く非難した。また事務総長は一〇月一四日、ガザ東部を視察し「筆舌に尽くし難い破壊状況だ」と述べ、二〇〇八年末からの戦闘被害よりも深刻な状況だと憂慮を示した。

 

イギリス下院、パレスチナを「国家」と承認すると議決

一〇月一三日、イギリス下院は「パレスチナ自治区を国家として承認する」と決議した。「協議されている二国家共存による解決案を支持するため、イスラエル国家と並んでパレスチナ国家を承認すること」に対し賛否を問い、賛成二七四、反対一二の大差で承認された。この決議に法的には拘束力はなく、政府政策に直ちに影響は無いものとみられる。

 

ネタニヤフ首相、東エルサレムで一〇六〇戸の住宅建設計画を承認

一〇月二七日、ネタニヤフ首相は占領地の東エルサレムで新たにユダヤ人住宅一〇六〇戸の建設計画を承認した。パレスチナ側は「このような一方的な行動は(パレスチナ人の)爆発につながる」と強く反発し、パレスチナ自治政府のハムダラ首相は「東エルサレムを首都としないパレスチナ国家などあり得ない」とイスラエル側の行為を非難した。

 

エジプト、ガザの境界沿いに緩衝帯設置へ

一〇月二九日、エジプト政府はシナイ半島とガザの境界沿いに、ガザからのイスラム過激派の侵入を防止するための緩衝帯を設ける作業を始めた。シナイ半島北部で二四日、イスラム過激派がガザ武装勢力の支援を得て兵士三〇人以上が死亡する自動車爆弾事件が起きており、これを受けた措置だという。エジプトはハマスと自国内のテロ組織とのつながりを分断して監視を強化し、ハマスの影響を排除する狙いがある。

 

スウェーデンパレスチナを正式に「国家」と承認

一〇月三〇日、スウェーデン政府はパレスチナを正式に「国家」と承認した。EU主要国での最初の承認であり、和平交渉や他の未承認国の動向に影響を及ぼす可能性もある。

イスラエルは反発し、駐スウェーデン大使を召還し、スウェーデンとの外交関係の格下げも考えているという。

 

(三七)ヨルダン川西岸、特に「エルサレム」をめぐり高まる緊張と衝突

二〇一四年一〇月下旬からヨルダン川西岸での対立が高まり、エルサレム旧市街地の「聖地」での衝突事件が頻発、「長期的停戦」後の不安定状況が現実味を帯びてきた。

 

「聖地」をめぐる対立

イスラム教の聖地「ハラム・アッシャリーフ」はまたユダヤ教の聖地「神殿の丘」である。この地は、かつてイスラム教徒が占めるヨルダンが統治していたという歴史的経緯から今もヨルダン側の手で管理されており、無用な対立を防ぐためユダヤ教徒はここで祈ることを認められていない。しかし、特に右派ユダヤ教徒の「聖地」での祈りにかける想いは強く、イスラム教徒との衝突は何度も起きてきた。そのような状況の中、近年イスラエル治安当局とパレスチナ人の対立が強まり、死傷事件も度々起きている。

 

イスラエル、「神殿の丘」を封鎖

二〇一四年一〇月二九日、この聖地で事件が起きた。ここで祈りを強行した右派のユダヤ教徒パレスチナ人の男が襲撃、重傷を負わせた。イスラエル警察はこのパレスチナ人が反撃の発砲をしたとしてこの男を射殺した。

翌三〇日、イスラエル治安当局は、パレスチナ側の反発を避けるための予防措置として事態の鎮静化を図るため「神殿の丘」を約一四年ぶりに封鎖した。パレスチナ側は「パレスチナ人への宣戦布告だ」と強く非難した。エルサレムをめぐり双方の対立は陰険な状況になっていく。

 

イスラエル、ガザに通じる全ての検問所を封鎖

一一月二日、イスラエル政府はガザに通じる全ての検問所を封鎖すると発表した。ガザ地区から一〇月末にロケット弾が発射されたことへの対抗措置という。

ガザ地区ではエジプトに通じる検問所も封鎖されている状況にあり、封鎖が長引けばガザをめぐる緊張が再燃する恐れもある。

 

エルサレムでまた双方が衝突

一一月五日、エルサレムでまた事件が起きた。聖地をめぐりイスラエル治安部隊とパレスチナ人の緊張が高まっている中で、パレスチナ人の男の運転する車が歩行者に突っ込み、イスラエル治安部隊員一人が死亡、九人が負傷する事件が発生した。イスラエル警察はハマスによる「ひき逃げテロ」だと非難し、この男を射殺した。

これに対しパレスチナ側の不満は高まっており、ハマスは男を称賛する声明を出した。またヨルダンは一連のイスラエルの行為を「イスラム教徒の権利を侵害し、聖域でのかってないエスカレートした行為」だと非難し駐イスラエル大使を召還した。大使召還は一九九四年の両国の平和条約締結以来初めてであり、今後の関係が懸念される。

 

EU加盟国を中心にパレスチナへの理解深まる

一一月八日、欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表(EU外相)は訪問先のパレスチナ自治区ラマラで記者団に対し「エルサレムは(イスラエルパレスチナ)二国家の首都にするべきだ」と述べ、改めてエルサレムの帰属に関するEUの立場を表明した。

また最近、中東情勢をめぐり、欧州連合(EU)加盟国の間でパレスチナを「国家」として承認する動きが強まっており、二国家共存を目指すEU加盟国の議会などで決議が採択されるケースが増している。一〇月三〇日にはスウェーデンパレスチナを国家として承認している。

決議に法的な拘束力はないが、承認をテコにユダヤ人入植地問題などで強硬姿勢を続けるイスラエルに圧力をかけたい考えだ。ただ、その効果は未知数だともいわれる。専門家からは「いくつかの加盟国の承認だけでは流れを変えることはできない」との見方もあり、また加盟国も一枚岩でなく、ドイツは「イスラエルパレスチナ双方の交渉でしか問題は解決できない」と否定的だといわれる。このようにパレスチナへの国際的理解は次第に高まってきた。

 

アッバス議長、アラファト前議長の死去から一〇年式典で「東エルサレムパレスチナの首都」と発言

一一月一一日、パレスチナ自治政府アラファト前議長の死去から一〇年の式典が自治区のラマラで開かれた。アラファト前議長が目指したパレスチナ国家樹立への道はまだ遠く、和平交渉も四月に中断したままだ。

アッバス議長は追悼式典で「東エルサレムは私たちが樹立するパレスチナ国家の首都だ。私たちはエルサレムと聖地を守る」と宣言、「イスラエルは占領をやめるべきだ」と述べた。

 

ネタニヤフ首相、「テロ撲滅」の発言

ネタニヤフ首相は一一日夜の演説で「全土で治安対策を強化し、テロリストの家を破壊する。石や火炎ビンを投げる者には厳罰を科し、その親には罰金を払わせる」との方針を発表した。さらに「アッバス議長は暴力行為を助長している」として無責任だと非難した。

 

イスラエルパレスチナの衝突事件続発

イスラエルパレスチナの衝突は長期的停戦後も頻発し、死傷事件は後を絶たなかった。

一一月一二日早朝、パレスチナ自治区ラマラの近郊で、イスラム教礼拝所のモスクが放火された。また、イスラエル北部のアラブ人都市では、ユダヤ教礼拝所のシナゴーグに火炎瓶が投げ込まれるなど双方の対立は続きますます治安上の不安感が高まってきた。

 

イスラエル、国連調査委員会の調査に協力拒否

一一月一二日、イスラエル外務省は、国連人権理事会の独立調査委員会が今年七月から八月にかけてのガザ戦闘に関して調査するとしていることについて、「人権理事会は歴史的にイスラエルに対して敵意を持っており、調査のための委員会ではなく、イスラエルを有罪とする結論を決めつけている委員会だ」として「国連の調査への協力を拒否する」と発表し、調査委員会メンバーの入国を拒否した。調査委員会はガザでの戦争犯罪などについて調査し、二〇一五年三月に報告書を人権理事会に提出することになっている。

 

ケリー国務長官アッバス議長、ヨルダンのアブドラ国王と会談

一一月一三日、アメリカのケリー国務長官はヨルダンの首都アンマンでアッバス議長、ヨルダンのアブドラ国王とそれぞれ会談した。和平交渉の再開、パレスチナでの対立問題などについて話し合われた。

 

ネタニヤフ首相、ケリー国務長官らと会談

一一月一三日夜、ネタニヤフ首相は、ケリー国務長官、ヨルダンのアブドラ国王と会談し、エルサレム旧市街でのイスラエルパレスチナの対立について、沈静化を図ることで合意した。

 

イスラエル、封鎖している「神殿の丘」への入構を緩和

一一月一四日、イスラエル当局は、先月末より封鎖している「神殿の丘」への入構を緩和するとした。しかし、礼拝可能なのは東エルサレム在住者など一部に限られるという。

 

ヨルダン川西岸地区で双方の衝突激化、新しいインティファーダの恐れも、エルサレム聖地の緊張続く

イスラエルパレスチナの対立は「聖地」をめぐり宗教的にもますます激しくなってきた。衝突は聖地エルサレムだけでなくヨルダン川西岸の各地で発生、先月よりイスラエル治安当局とパレスチナ民衆、中でも若者らとの衝突が頻発し、殺人事件も出てきた。イスラエル側の入植計画はさらに進み、パレスチナ側の反発は激しくなっていた。次の新しいインティファーダへの恐れも出てくる。

一一月一六日、エルサレムでパレスチ人のバス運転手が担当車両の中で死亡しているのが見つかり、パレスチナ側はユダヤ人に殺害されたと主張したがイスラエル当局は自殺と断定した。

一一月一七日、イスラエルの主張に反発したパレスチナ住民らが警察と衝突、運転手の葬儀には数千人が参列し「復讐」を叫ぶなどパレスチナ住民の怒りは頂点に達してきた。

 

パレスチナ人、ユダヤ教礼拝所を襲撃。イスラエルは犯人の自宅破壊など「報復」を

一一月一八日早朝、エルサレムユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)がパレスチナ人に襲撃される事件が起きた。銃と斧を持ったパレスチナ人の男二人がシナゴーグに侵入、礼拝中だったユダヤ人に襲いかかりユダヤ教聖職者(ラビ)を含む五人が死亡、警察官を含む六人以上が負傷した。犯人の二人は駆けつけた警察官により射殺された。事件をめぐりパレスチナ解放機構(PLO)の反主流派「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)」が犯行を認めた。ハマスは今回の襲撃を「バス運転手事件の報復だ」と称賛、新たなインティファーダの始まりだとしさらなる報復攻撃を呼びかけた。若者らとの衝突が頻発し、殺害事件も相次いだ。

ネタニヤフ首相は事件を受け、「パレスチナ自治政府ハマスが対立を煽った結果だ」と非難、容疑者の自宅の破壊を命じるとともに、これまでの「テロ犯」の自宅破壊も急ぐよう指示した。この作戦は二〇〇〇年から始まった第二次インティファーダの時にテロ防止目的で多用された。二〇〇五年、国際社会による批判の高まりなどを受けて中止されたが政府はこの再開を決めた。

 

オバマ大統領一連の事件を憂慮

オバマ大統領は礼拝所での殺傷事件など一連の対立を最大限の言葉で非難し、「過去数カ月であまりにも多くのイスラエル人、パレスチナ人が命を落とした」と述べ、イスラエルパレスチナ双方に緊張を緩和するよう自制を求めた。

 

(三八)イスラエル政府、「ユダヤ人国家基本法」を承認

二〇一四年一一月二三日、イスラエル政府は閣議で、イスラエルを「ユダヤ人国家」として定める基本法案を賛成多数で承認した。

ネタニヤフ首相らは「全国民の平等を保障する」と強調するが、アラブ系議員らは「人種差別的な法案だ」と批判している。批判の主な理由は、この法案が可決されれば基本法の中で、イスラエルは「ユダヤ的民主的国家」から「ユダヤ人の祖国(ナショナルホームランド)」と定義され、アラブ系イスラエル国民一七〇万人に対する差別を制度化する恐れある上、イスラエルの民主主義国家としての性格よりも「ユダヤ人国家」としての面を強調しており反民主的だとしている。また独立宣言で既に「イスラエル国ユダヤ人移民と離散民に開かれる」と謳われており改めて法案の必要性があるのかと疑問視する声もあった。

閣議は荒れ、一四閣僚は賛成したが、リブニ法相が党首を務めるハトヌアやラピド財務相が党首を務めるイエシュアティドの中道二政党の六人は反対した。

 

(三九)EUを中心に国際的にパレスチナを「国家」と承認を求める動き高まる

二〇一四年一二月二日、フランス国民議会(下院)は、パレスチナを国家として承認するよう政府に働きかける動議を賛成三三九、反対一五一、棄権六で可決した。

イスラエルパレスチナの紛争を解決し、二国家実現が和平への道だとする動きが国際的にも欧州諸国を中心に高まってきている。最近では一〇月以降でも国連のパン・ギブン事務総長の発言、イギリス下院の議決やスウェーデン政府の承認、そして今月に入ってEUの見解など二国家共存による和平への期待が強まっている。

しかし、イスラエルは「これらの動きは和平への努力を阻害するものだ」反論し、強気の姿勢は崩さない。

 

(四〇)イスラエル、「国会を解散し、来年三月総選挙実施」を決める

ネタニヤフ政権内の対立

ネタニヤフ首相の率いる右派リクードは、昨年一月の総選挙で第一党となったが過半数に届かず、ラピド財務相、リブニ法相がそれぞれ党首を務める中道二政党と極右二政党を含め五党で連立を組み、ネタニヤフ政権が発足している。

しかし連立発足後、首相ら右派、極右の政策とラピド財務相、リブニ法相ら中道の方針との対立が表面化してきている。今年春に頓挫した和平交渉、八月のガザへの軍事行動、「来年度予算の編成」、また今回の「ユダヤ人国家法案」等をめぐり意見は相違し対立を深め、連立に亀裂が生じていた。

 

ネタニヤフ首相、ラピド財務相とリブニ法相を解任。国会解散と総選挙を求める

二〇一四年一二月二日夜、ネタニヤフ首相はラピド財務相とリブニ法相の解任を発表。国会解散と総選挙の実施を求める方針を示した。首相は「両閣僚は私が率いる政権を激しく批判してきた。閣僚が内部から政権の方針や指導者を攻撃する行動は容認できない」と述べた。

 

イスラエル、国会解散と総選挙実施を決める

一二月三日、国会各会派代表は協議し、国会を解散、来年(二〇一五年)三月一七日に総選挙を前倒しで実施することに合意した。

一二月八日、イスラエル国会(定数一二〇、任期四年)は任期を二年以上残し解散した。選挙は諸情勢からリクードを中心に現在よりも右派寄りになる可能性が大きく、和平に否定的な右派勢力が優勢とみられており、今年四月に頓挫した和平交渉の再開は更に困難になりそうだ。

 

(四一)イスラエルパレスチナヨルダン川西岸やガザでの衝突収まらず

二〇一四年一二月一〇日、ラマラ近郊で世界人権デーパレスチナ人のデモ行進があり、デモ隊とイスラエル軍が衝突、参加していたパレスチナ自治政府のジャド・アブアイン入植地問題担当高官がイスラエル軍兵士により暴行を受け、病院で死亡した。アッバス議長はイスラエル側の行為を「許せない野蛮な行為だ」と激しく非難した。しかしイスラエル側は「持病による死」だとして対立した。

一二月一一日、高官の葬儀に数千人が参加、イスラエル側は治安に応援部隊を送り込みデモ隊を鎮圧した。

一二月二〇日、イスラエル軍はガザ南部のハマス施設に空爆を加えたことを明らかにした。一九日にガザからイスラエル領内にロケット弾が撃ち込まれたことへの対抗措置だという。

イスラエルによるガザ空爆は八月二六日に停戦が成立して以降初めてで、双方の対立抗争は方々で深い憎しみの中で続いていく。

 

(四二)ヨルダン、「二国家共存和平」への決議案を国連に提出も安保理否決

国連非常任理事国ヨルダン、「二国家共存につながる和平案をまとめるよう求める決議案」を国連に提出

二〇一四年一二月一七日、国連安保理非常任理事国であるヨルダンはイスラエルが二〇一七年末までに占領地から撤退し、二国家共存につながる和平案をまとめるよう求める決議案を国連に提出した。また、首都を「東エルサレム」とすることやパレスチナ難民やイスラエルに拘束されているパレスチナ人の取り扱い、水資源をめぐる双方の問題について、「公平な解決」を求めている。

 

ヨルダン提出の案、安保理で採決されるが「否決」となる

一二月三〇日、ヨルダン提出の案は国連安保理で採決に付された。これが決議されれば、大きく和平に向けて進展すると期待された。

しかし、理事国一五カ国のうち採決に必要な九カ国の支持が得られず否決された。フランス、中国、ロシアなど八カ国は賛成、アメリカ、オーストラリアの二カ国は反対、イギリスなど五カ国は棄権した。

 

アメリカは「双方の直接対話による円満合意以外道なし」と「反対」

常任理事国イスラエルを擁護しイスラエルの安全保障を重視するアメリカの反対は、採決に大きく影響した。

アメリカのパワー国連大使は採決後、「イスラエルパレスチナの和平合意は双方の円満な合意以外にはない。交渉を通して双方が包括的な合意に達するまでは、紛争が解決することはない」とし、「このような期限を設けるなど非建設的な手法では合意の達成はできない。この決議案では二国家共存を実現するための機運を取り戻す努力を損なうものでより亀裂が深まる」と否定的で決議案に反対した理由を述べた。

アメリカはこれまで和平合意に向け仲介努力を続けてきたが、目立った成果が見えない中、「和平合意は双方直接対話により円満な合意以外にはない」とし、双方が話し合いを続けるようにと仲介の限界ともとれる腰を引いた姿勢を示し始めたようにも思える。

 

パレスチナの失望

決議案の否決にパレスチナマンスール国連大使は「二国間の解決は暗礁に乗り上げ、和平は見通せない状況なのに、安保理はまたも責任を果たさなかった」と失望感をあらわにした。

 

四三パレスチナ、「国際刑事裁判所(ICC)」への加盟申請に踏み切る

パレスチナは、遂に対イスラエルへの重要なカードを切った。和平交渉の進展を期待し国際刑事裁判所(ICC)への加盟を見送っていたが、イスラエルの占領地からの撤退などを求める決議案が否決されたことを受け、対抗措置としてICCへの加盟に踏み切った。

二〇一四年一二月三一日、アッバス議長はICCへの加盟条約に署名し、来年(二〇一五年)早々に国連へ提出するための準備を終えた。

パレスチナは二〇一二年一一月、地位は「オブザーバー国家」に格上げされているが、申請資格とされる「国家」とみなされるかが注目される。

 

二〇一五年

(一)パレスチナ、「国際刑事裁判所(ICC)加盟」申請、反響大

パレスチナ、「国際刑事裁判所(ICC)加盟」申請

二〇一五年一月二日、パレスチナはICC加盟に必要な文書を国連本部に提出した。パレスチナマンスール国連大使は「法的手段を通じて正義を実現するための意義深い一歩だ」と述べた。

申請が正式に認められパレスチナがICCに加盟に加盟すれば、イスラエルによる「戦争裁判」などをICCが審査することが可能になる。

 

ネタニヤフ首相、パレスチナの「申請」に強く反発

パレスチナの「申請」に対してネタニヤフ首相は「パレスチナ当局はイスラエルと対決する道を選んだ」「我が将兵をICCに引き出させはしない」「裁きにかけられるべきなのはハマス戦争犯罪者だ」と強く反発した。

和平交渉は昨年四月に止まったままだが、再開は一層困難な情勢となった。

 

イスラエルパレスチナへの「税金送金」を凍結

イスラエル政府は一月三日までに、パレスチナ政府に代わって徴収している税金約五億シェケル(約一五〇億円)の送金を凍結する経済措置を決めた。パレスチナがICCに加盟申請をしたことへの報復措置だという。

イスラエルは、一九九四年にパレスチナと交わしたパリ協定などに基づき関税などを代行徴収し送金しており自治政府の重要な財源になっている。送金凍結が長引けばパレスチナは大きな打撃を受け経済はマヒする恐れがある。イスラエルの措置に国際的にも批判が出てくる。

 

アメリカはパレスチナの「申請」に困惑

アメリカはパレスチナがICCに加盟申請をしたことについて、「パレスチナ主権国家ではなく加盟資格がない」としており、サキ報道官も「深く困惑している」とも述べた。一方、イスラエルパレスチナへの税金の送金を凍結したことにも「緊張を高めるだけだ」と批判。両陣営に対し、直接の和平交渉再開に向け、緊張緩和に取り組むよう改めて求めた。

 

国連は申請を受理、オバマ大統領は遺憾の意を表明

一月七日、国連はパレスチナがICCに加盟申請した文書を正式に受理したことを確認した。

一月一二日、オバマ大統領は「パレスチナ主権国家ではなく、加盟資格がない」とするアメリカの立場を表明し、「パレスチナのICC加盟が建設的な前進になるとは思わない」と指摘した。

 

(二)パリで新聞社襲撃事件など「反ユダヤ的テロ」事件起きる

イスラム過激派,パリで新聞社や食料品店などを襲撃

二〇一五年一月七日、パリで風刺画が売り物の週刊新聞「シャルリー・エブド」の事務所にイスラム過激派の男三人が侵入、イスラム教を風刺したことへの報復だとして発砲、一二人が犠牲になる事件が発生した。その後、犯人二人がパリ郊外で人質を取り立てこもり発砲事件で警官が一名死亡、さらにユダヤ人向け食品スーパー襲撃事件でユダヤ系住民四人が犠牲になり一連の事件で一七人が死亡した。

 

パリで反「テロ」の「大規模追悼デモ」、テロへの対抗姿勢鮮明に

一月八日、国連安保理は「テロ行為を最大限の言葉で非難する」と表明した。各国も強烈に非難した。

一月一一日、パリでの「テロ」事件の犠牲者を悼む大規模追悼デモがパリなどで行われ、三七〇万人もの市民らが参加した。フランスのオランド大統領を始めネタニヤフ首相、アッバス議長、イギリスのキャメロン首相、ドイツのメルケル首相など各国からの首脳らの参加も多く、アメリカからは駐仏大使が参加した。今までにない大行進となった。

ネタニヤフ首相は行進に参加した後、「イスラエルは対テロで欧州を支援する。同時に欧州もイスラエルを支援する時だ」と発言、欧州での「反ユダヤ」への拡大を懸念し欧州との連携を強調し、欧州からイスラエルへの移住者を望むものが増加している傾向について「イスラエルは(ユダヤ人である)あなたたちの家だ」と述べ、移住を歓迎する声明を発表した。

エルサレムではパリでの追悼大行進に合わせ追悼集会が開かれた。

なお、一月一三日にイスラエルで行われたテロ被害者の葬儀にはリブリン大統領、ネタニヤフ首相ら数千人が参加、改めて対テロへの姿勢を示した。また、同日、フランスでは臨時招集された議会で「テロに対する戦争」を宣言し、国全体がテロリストに立ち向かう姿勢を示した。

 

(三)ムハンマド風刺画の「シャルリー・エブド紙」に対するイスラム側の反発

フランスのシャルリー・エブド紙が最新号で預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことに対する反発がイスラム教徒の住む国々でさらに広がっている。

トルコでは二〇一五年一月一四日、裁判所は風刺画を掲載するインターネットサイトの遮断を命じた。また一月一五日、ダウトオール首相は「表現の自由は侮辱の自由ではない」と痛烈に批判した。イスタンプールでは市民が抗議活動を展開した。イランは「イスラム教徒への挑発であり、過激派の火をさらに燃え上がらせる」と表明した。セネガルでは風刺画を転載した発行物の配布を禁止した。フィリピンのミンダナオ島マラウィでは一五〇〇人が抗議活動をし、アフリカのモーリタニアでも大規模なデモを計画している。また、エジプトのカイロにあるスンニ派最高権威機関のアズハルは一月一四日、イスラム教徒に「無視」するように呼びかけ、「預言者ムハンマドは偉大であり、こうしたモラルのない行為にムハンマドの偉大さは影響されない」と強調した。

 

(四)国連高官、中東情勢悪化に「和平交渉」への懸念発言

二〇一五年一月一五日、国連のトイベルグクタンゼン事務次官補(政治担当)は、安全保障理事会で開かれた中東情勢に関する公開会合で、イスラエルパレスチナの紛争について「今や未知の領域に入った。和平交渉に復帰するいかなる当面の希望も打ち砕かれたようにみえる」との認識を示し、情勢悪化に深刻な懸念を表明した。

 

(五)国際刑事裁判所、「戦争犯罪に関する予備的調査」開始

二〇一五年一月一六日、国際刑事裁判所(ICC)は、昨年夏のイスラエルハマスの戦闘などについて「戦争犯罪に関する予備的調査」を開始したと発表した。

主任検察官は「期限を設けず独立した立場で調べる」と述べ、予備的調査で犯罪の疑いが出れば裁判所の許可を得て本格的調査を開始するという。

ネタニヤフ首相は「予備的調査の開始はICCの権限を越えている。パレスチナは国家ではない」と反論した。

これに対しICCは、「自治政府は国連総会でオブザーバー資格を付与されていることから加盟は認められる」との立場を表明、「独立、公正な立場を十分保ち、調査を進める」とした。

予備調査はイスラエルの行為のみでなく、パレスチナにも及ぶが、パレスチナ側はハマスも含めICCに協力するとしている。

ただ、イスラエルはICCに加盟しておらず、イスラエルの責任を訴追してもICCの権限は直接及ばないともいわれ、今後のICCの動きが注目される。

 

(六)来日中のパレスチナ外相、「日本の支援期待」

二〇一五年二月一七日、来日中のマルキ・パレスチナ自治政府外相は、マスコミ記者会見などで当面のパレスチナ情勢や和平交渉など今後の対応について語った上で、「フランスや英国など欧州でパレスチナ国家承認へ向けた動きが加速している」とし、日本に「経済面に加え政治的な役割を求める」とも述べ、パレスチナ支援の機運を高めるよう期待した。

 

(七)ネタニヤフ首相、アメリカ共和党の招待でアメリカ訪問へ

野党共和党の招待でネタニヤフ首相が三月上旬訪米予定

ネタニヤフ首相の訪米が二〇一五年三月上旬に予定された。三月一七日のイスラエル総選挙の直前である。

今回のネタニヤフの訪米は、上下両院で多数を占める野党の共和党が、オバマ大統領の「頭越し」に招いたもので、ネタニヤフ首相は三月三日に議会での演説も予定されるという。招待した下院のベイナー議長は欧米など六カ国とイランの核協議を推進するオバマ政権に批判的な対イラン強硬派として知られる。

 

オバマ政権側は不快感、ネタニヤフ首相の議会演説予定に反発

二〇一五年二月二三日、アーネスト報道官は「オバマ大統領は三月のネタニヤフ首相の訪米時には会わない意向だ」と明らかにした。ネタニヤフ首相の訪米がイスラエル総選挙の直前であることも会談拒否の理由としているが、議会演説で首相が「イランの脅威」を強調し、オバマ大統領が推進する「イランとの核協議に反対を表明する可能性」もあるとみられることから、政権との会談を避けたものだという。また「一国の指導者が訪米する場合、大統領側と調整するのが長年の外交儀礼だ」と記者会見で不快感を示した。

オバマ大統領の任期は二年を切った。政治的なレガシー(遺産)づくりのためキューバとの国交交渉の開始に続き、イランとの和解には三月末までの枠組み合意、六月末までの包括合意を目指している。オバマ政権にとって緊張の時期にきている。

二月二五日、ケリー国務長官は下院外交委員会で、ネタニヤフ首相の行動について「正しくない判断をしている可能性がある」と批判。ライス大統領補佐官も両国関係の「破壊的な行為」だと批判した。

イラン核協議は今、三月中の政治的な枠組み合意を目指し、大詰めを迎えている。この直前でのネタニヤフ首相のアメリカ議会での演説に関しオバマ政権側の反発はさらに高まってきた。アメリカとイスラエは従来から党派の垣根を越えて理解し合う関係であったことを踏まえ、今回のネタニヤフ首相の演説は「政党政治が持ち込まれることで党派的であり、両国関係の足を引っ張るものだ」と双方の関係悪化が深まることが懸念され、オバマ政権とイスラエル関係が険悪化してきている。

 

(八)ネタニヤフ首相アメリカ議会で演説、オバマ政権との亀裂深まる

ネタニヤフ首相、「親イスラエル団体」の大会で「イラン核交渉を批判」する演説を行う

二〇一五年三月二日、ネタニヤフ首相はワシントンで親イスラエル団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の大会で、「(イラン核交渉の合意が)イスラエル生存権を脅かす可能性がある」と主張し、翌日のアメリカ議会での演説の前哨戦的な意気込みを見せた。

 

ネタニヤフ首相アメリカ議会で演説、オバマ政権の政策を批判、オバマ政権との「亀裂」決定的

三月三日、ネタニヤフ首相はアメリカ議会で演説した。

ネタニヤフ首相は予想通りイラン核協議の合意を「非常に悪い取引だ」と酷評し、オバマ政権の外交姿勢を繰り返し非難した。こうした首相の意図を察知していたアメリカ政権も上院議長を兼ねるバイデン副大統領が外国訪問を理由に異例の欠席、多くの民主党議員がボイコットした。

オバマ大統領はネタニヤフ首相と面会せず、首相の議会演説後、記者団に対し「何らの実現可能な代案を示さず、新味がない」と演説を批判した。

オバマ大統領の二〇〇九年の就任以来、ギクシャクした関係を続けてきた両氏の亀裂は、この演説で決定的になった。

両首脳が公の場で見せた異例の対立は、パレスチナ和平交渉を含む中東での諸問題の解決に努力してきたアメリカと中東隋一の親アメリカであるイスラエルとの関係のさらなる悪化を印象付けた。

民主党のリーダー、ペロシ下院院内総務は「アメリカが、持てる知見を尽くしてイランの核を止めようとしている協議を侮辱された」と声明を発表し、やり切れない思いをぶつけた。

 

ネタニヤフ演説は自身の「選挙」を意識したものか

ネタニヤフ氏のアメリカ議会での演説は、二週間後の三月一七日に予定されているイスラエルの総選挙を意識したものでもある。総選挙ではネタニヤフ首相の率いるリクードが優勢と見られていたが、選挙戦終盤にきてネタニヤフ氏に疑惑も生じ、旗色が悪くなってきていた。アメリカ議会での演説は、イランに融和姿勢を示しているオバマ氏に批判的なイスラエル国内の有権者の支持を取り付けたい狙いがあったとみられる。

イスラエル野党は、首相のアメリが議会での演説について、「イランの核兵器開発を阻止することにならない」と批判し、今回の演説の結果「対米関係を悪化させ、イスラエルは孤立する」とも批判し手厳しい意見も出てきた。

イスラエルでは近年、貧富の差が拡大し物価が高騰、軍事費のしわ寄せなどから病院などでの公共サービスの低下も著しく、市民生活の向上を求める声が高まっている。このような国内情勢の中、ネタニヤフ首相のアメリカ議会での挑発的な発言は「選挙の論点を安全保障問題にすり替え、内政や経済問題から市民の目をそらそうとしている」「対米関係をさらに悪化させるだけだ」との批判も出ている。

 

(九)イスラエル総選挙、与野党選挙戦の攻防

反ネタニヤフの野党陣

イスラエル総選挙(定数一二〇)は、二〇一五年三月一七日である。

二〇一五年三月七日、イスラエルでの中道左派政党関係者やその支持者が中心となり、テルアビブでネタニヤフ首相を批判する約五万人の大集会が開催された。

三月九日、イスラエル総選挙まで一週間、野党はネタニヤフ首相の経済政策を批判し、イランの核問題をめぐって、同盟国アメリカとの関係を損ない国際的に孤立していると批判している。野党中心のシオニスト・ユニオンは労働党のヘルツォグ党首、ハトヌアのリブニ党首で組んだ統一会派政権交代を狙っている。ネタニヤフ首相がアメリカ議会で演説後も与党リクードの支持率は伸び悩み傾向。与野党接近の状況だが、野党が「反ネタニヤフ」でまとまれば、与野党逆転も予想される。世論調査では優勢だとみているが差は僅かである。現地メディアの世論調査では「接戦、中道左派の野党陣営が僅差でリード」としている。

 

ネタニヤフ側終盤の攻勢、「パレスチナ国家の樹立に反対」「入植活動継続」の強硬姿勢

リクード中心の政権側は、負けることは許されない。

ネタニヤフ首相は選挙戦の終盤、自身の率いる右派与党リクードの劣勢が伝えられ危機感を募らせていた。首相は支持基盤を強化し右派層の票を確保するため、最後の攻勢に出た。パレスチナ問題やイラン核開発問題など安全保障問題を前面に出し、強硬姿勢を鮮明にした。

ネタニヤフ首相はリクードが政権にあり自身の首相続投が決まった場合、その任期中は「パレスチナ国家を認めない」とパレスチナ国家の樹立を拒否、「それを認めればイスラエルを攻撃するイスラム過激派に領土を与えることになる」と危機感を煽った。さらに「入植活動を継続する」と表明し、これまでの施策の強化拡張を主張した。またアラブ系イスラエル人の動きを警戒する姿勢も示し右派層の不安を煽った。

 

(一〇)イスラエル総選挙、ネタニヤフ与党勝利、中東に広がる失望感

右派与党リクード勝つ。ネタニヤフ右派強硬政権継続の可能性濃厚

二〇一五年三月一七日、イスラエル総選挙が実施された。即日開票の結果、選挙戦終盤に粘ったネタニヤフ首相が率いる右派与党リクードが三〇議席を獲得し第一党となった。優勢かとみられていた中道左派シオニスト・ユニオンは二四議席と伸びなかった。単独過半数を得た党はなく連立政権となる見込みだ。

三月一八日、一二〇の議席数がほぼ固まった。リクード三〇、シオニスト・ユニオン二四、アラブ統一会派一三、イエシュアティド一一.クラヌ一〇、ユダヤの家八、シャス七、我が家イスラエル六、その他宗教政党など一一となった。右派、宗教系の議席がほぼ半数を占めており、「再選されればパレスチナ国家樹立を認めない」と明言した通算四期目を目指すネタニヤフ首相の続投が濃厚だ。リクード中心の右派強硬政権が成立すれば、選挙前より右派傾向は強くなるとみられ、パレスチナとの緊張はさらに高まることは必至だ。

 

中東和平を願った中東に失望感

選挙結果はイスラエルパレスチナとの関係に大きな影響を与える。二国家解決案をめぐる双方の交渉の行く先は見えなくなった。中東和平を願った中東に失望感が広がった。

 

一一オバマ大統領、「イスラエルとの関係を見直す」とイスラエルを牽制

ネタニヤフ首相のアメリカ議会での演説でイスラエルアメリカ両国間の亀裂が深まった上に、選挙中に首相が「パレスチナ国家を認めない」との立場を表明したことを受け、イスラエルパレスチナの和平交渉を仲介していたアメリカ側を強く刺激した。

二〇一五年三月一九日、オバマ大統領はネタニヤフ首相に電話し、総選挙で同首相率いるリクードが勝利したことに祝意を伝えた上で、「両国関係について政策の選択肢を再検討しなければならない」と述べ、両国の関係見直しを示唆した。

アーネスト報道官も三月一九日の記者会見で「アメリカの(対イスラエル)政策を再検討する必要が生じた」と強調した。また「二国家共存はアメリカ政策の根幹だった」とも指摘し、イスラエルを支持してきた国連での立場の変更も示唆した。イスラエルアメリカの関係に生じた亀裂がどこまで深くなるか目が離せない。

 

(一二)オバマ政権、ネタニヤフ首相への不信感拭い去れず

ネタニヤフ首相は、アメリカとの関係に摩擦を生じてきたことに関し、選挙後、強硬発言を修正するかのような発言をした。

二〇一五年三月一九日、ネタニヤフ首相はアメリカテレビのインタビューに臨むと「二国家による持続可能で平和的な解決を望んでいる」と述べ、前言を事実上撤回したともとれる発言をした。しかし、「そのためには状況が変わらなければならない」とも付け加え、パレスチナ側が武装解除することやイスラエルユダヤ人国家であると認めることが条件だとする従来からの立場を繰り返し述べた。

 

アメリカ、ネタニヤフ首相の釈明への不信感

アメリカは、ネタニヤフ首相の「前言撤回」ともとれる釈明発言があったとは言え、アメリカのイスラエルに対する不信感は残ったままだ。

三月二三日、マクドノー大統領首席補佐官は「約五〇年間に及ぶ(イスラエルによるパレスチナの)占領を終わらせなければならない」と訴え、「パレスチナ主権国家の持つ権利がある」と強調。「私たちは、(ネタニヤフ首相の)発言が無かったように振舞うことはできない」と強調し、首相の態度を批判した。

三月二四日、オバマ大統領はホワイトハウスの記者会見で、パレスチナ国家の樹立に反対しているネタニヤフ首相との対立について「自分と首相の個人的な関係の問題ではなく、現実的な(政策の)問題だ」と強調した。また「首相の一連の発言からパレスチナ国家の樹立をどのように達成できるかを描くのは困難だ」と改めて批判した。アメリカ政権のネタニヤフ首相への不信感は払拭されていない。イスラエルとの関係見直しにも言及したアメリカとイスラエルの亀裂は深まっていく。

 

一三イスラエルパレスチナへの税金送金を再開すると発表

イスラエル政府は今年一月からパレスチナ自治政府への税金の送金を凍結しており、これを非難する声は続いている。

二〇一五年三月五日、パレスチナ解放機構(PLO)の中央評議会はヨルダン川西岸でのイスラエルとの治安協力を停止することを決めた。イスラエルパレスチナ政府への税金の「送金凍結」をしたことへの対抗措置と見られるが、実際に治安協定が停止されれば異例の事態で、パレスチナ武装勢力によるイスラエルへの武力攻撃などが頻発する恐れがある。

三月二七日、イスラエル政府は「送金を再開する」と発表した。「人道的配慮と現時点におけるイスラエルの利益を全体的に考慮した」という。当面の混乱は避けられた。税金の送金についてはアメリカなどから再開するよう圧力が掛けられていた。

 

(一四)イランの核問題包括協議始まる、ネタニヤフ首相は一貫して反対

イランの核問題をめぐっては、二〇一三年にイランに保守穏健派のロウハ二政権が発足して以来、欧米など六カ国とイランが包括解決に向けた交渉が積極的に開始され、二〇一三年一一月には、「第一段階」に位置付けられる合意が成立している。その後も交渉期限を延長して協議が続けられてきた。しかし、イスラエルは歴史的にイランを敵視し、特に最近のイランの核をめぐる欧米など六カ国とイランの交渉に反発、ネタニヤフ首相はイランの核の脅威を訴え、一貫して強い姿勢で「合意を阻止する」とする言動を続けている。

二〇一五年三月一九日、オバマ大統領は電話でのネタニヤフ会談でイラン核協議について、「核保有を阻止する包括的な取り決めを追求する方針」を重ねて示した。また同日、オバマ大統領はイランへの声明で「この問題を解決する歴史的な機会を逃すべきではない」と強い決議を示した。

三月二〇日、イラン核協議の解決を目指す主要六カ国とイランはスイスのローザンヌでの協議を終え、一定の前進があった。しかし、経済制裁の解除などで対立が解けず、三月二五日に協議を再開した。

三月三一日、枠組み協議の最終日であるが、一日延長して更に詰めることとした。

四月一日、協議は最終の合意文書の起草に入った。

 

(一五)イラン核協議「最終合意の枠組み」で合意、「最終合意」へは難航も

二〇一五年四月二日、イランの核問題についてイランと安保理常任理事国にドイツを加えた六カ国は、「最終合意の枠組み」で合意し、共同声明を発表した。

精力的な協議を続けてきた結果、最終合意に向けた枠組みの合意ができた。イランは核爆弾の製造につながるウラン濃縮活動を大幅に縮小し、欧米はイランの合意履行を確認した上で、独自の経済制裁を凍結する。国連安保理の決議に基づく制裁も解除する。

イラン核協議は枠組みで合意できた。しかし、六月三〇日が期限の最終合意には技術的な細部を詰める必要があり、さらなる難航も予想される。

アメリカのオバマ大統領は「歴史的な合意だ」と称賛の声明を出した。だが共和党は最終合意について「議会の承認が必要だ」と主張し、オバマ政権に揺さぶりをかける動きもある。

四月三日、イランのロウハ二大統領は演説で、核協議の枠組み合意を「国民の歴史的な記憶として残る」と評価した.同時に国政全それには般の決定権を握る最高指導者ハメネイ師の指導に感謝を示した。大統領は、六月末までの最終合意を目指すが、それにはハメネイ師の了解が必要である。イラン国内の強硬派には核開発の制限に対する不満もある。

四月九日、枠組み合意後のほぼ一週間沈黙を守っていたハメネイ師は、「最終合意への署名と同時にすべての経済制裁が解除されるべきだ」との立場を明らかにし、アメリカの主張を牽制した。「アメリカの譲歩」を引き出す狙いとの見方もある。アメリカは制裁解除の時期を「核関連のすべての主要な措置が取られたと国際原子力機関IAEA)が立証した後」、「最終合意が履行される中で段階的に経済制裁が解除される」とし、「イランが義務履行を怠れば、制裁は即時復活する」としている。

枠組み合意に対し、反イランのサウジアラビアイスラエルは強く反発した。特にネタニヤフ首相は「イスラエルの(国家としての)存続の脅威になる」と強い懸念を示した。

 

(一六)パレスチナ国際刑事裁判所に正式加盟、イスラエルは反発

パレスチナは二〇一五年一月までに国際刑事裁判所(ICC)への加盟に必要な手続きを終えている。

四月一日パレスチナ自治政府は正式加盟した。これに対してもイスラエルアメリカは反対である。自治政府のマルキ外相が裁判所で開かれた式典に出席した。パレスチナはICCに正式に加入したことにより、イスラエルに国際的な圧力を加えることも可能になる。特にイスラエルが占領しているヨルダン川西岸地区への入植活動や前年夏のガザ侵攻で二〇〇〇人以上が死亡した件など「戦争裁判」について、イスラエル側を追及することも可能になり、イスラエル側の反発は必至である。

イスラエルのネタニヤフ首相はパレスチナのICC加盟を批判し、「(パレスチナ自治政府の)加盟は容認できない」としており、双方の対立激化が懸念される。

 

(一七)イスラエル、第四次ネタニヤフ政権発足

ネタニヤフ首相、党で連立合意

イスラエルのリブリン大統領は、選挙結果を受けリクードを率いるネタニヤフ首相に組閣を要請した。組閣期間は六週間、首相は各党との協議を開始し五月初旬に協議を終えた。

二〇一五年五月六日、ネタニヤフ首相は右派、極右、宗教政党と連立内閣を樹立することに合意した。交渉は難航したがようやく定数一二〇の半数を上回った。連立を組むのは右派リクード(三〇)、中道右派クラヌ(一〇)、極右ユダヤの家(八)、宗教政党のシャス(七)とユダヤ教連合(六)の計五党で六一議席となった。僅差の過半数では不安定であり、ネタニヤフ首相は連立の拡大を図ろうと他の政党と交渉する意向を示した。

 

第四次ネタニヤフ政権発足、外交は一段と強硬に

五月一四日夜(日本時間一五日未明)、通算四期目となるネタニヤフ首相率いる新連立政権が発足した。連立には中東和平に積極的な政党は加わっておらず、昨年春に頓挫した和平交渉が再開される可能性は低い。今後、極右政党の存在感が強まるのは確実で、イランやパレスチナに対する外交姿勢は一段と強硬になりそうだ。

 

(一八)ネタニヤフ首相、改めて「二国家構想支持」と発言

二〇一五年五月二〇日、ネタニヤフ首相は欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表(外相)とエルサレムで会談した際、パレスチナとの和平について「私は二つの国家という構想を支持する」と述べた。ネタニヤフ首相は三月に「二国家による持続可能で平和的な解決を望んでいる」と発言しており、今回の発言は改めて二国家構想を支持するとしたものである。

 

(一九)オバマ大統領、ネタニヤフ首相の「二国家構想支持」発言に不信を示す

二〇一五年六月二日、オバマ大統領はイスラエルの民放チャンネル2のインタビューで、「(ネタニヤフ首相の二国家構想支持の発言があったとされるが)国際社会は既に、パレスチナとの二国家共存に対するイスラエルの真剣さを信じていない」と述べ、イスラエルがどこまで真剣に二国家共存を考えているか改めて「真剣さを疑う」と批判した。国際社会もネタニヤフ首相の支持発言にパレスチナに受け入れられないような条件を示しており首相の真意がどこにあるか疑問の声も上がっている。

 

(二〇)パレスチナ暫定内閣総辞職、ハムダラ首相は再度組閣へ

二〇一五年六月一六日夜、アッバス議長はファタハの革命評議会の会合で「パレスチナ政府は二四時間以内に解散する」と発表した。ハマスが実効支配しているガザ地区における内閣の運営について、ここ数カ月間にわたって内部亀裂が深まっており解散が検討されてきたが今回合意ができたという。

六月一七日、パレスチナ暫定内閣は総辞職した。新内閣の組閣に当たってはハマスを含むパレスチナ各派と協議するとし、再度組閣を要請されたハムダラ首相は組閣に取り組んだ。

 

(二一)フランス外相、「和平交渉の早期再開」を訴える

二〇一五年六月二一日、中東訪問中のフランスのファビウス外相は、ネタニヤフ首相とアッバス議長とそれぞれ会談した。外相はイスラエルパレスチナの和平交渉の早期再開に向けたフランス主導の取り組みについて説明し、「イスラエルの安全を保障し、パレスチナに国家を持つ権利を与えなければならない」と訴えた。アッバス議長はフランスの取り組みを歓迎し、パレスチナ側は交渉再開に前向きであることを強調した。一方、ネタニヤフ首相は「和平は外部から押し付けようとする国連決議案からは生まれない」と牽制し、「和平当事者間の交渉によってのみ実現できる」と述べ、フランスの提案を拒否した。

 

(二二)エジプト、三年ぶりに駐イスラエル大使復帰の見通し

二〇一五年六月二一日、エジプトのシシ大統領は、新しい駐イスラエル大使を任命した。約三年ぶりに大使復帰の見通しとなった。二〇一二年一一月に当時のモルシ大統領がイスラエルによるガザへの攻撃に抗議し、大使を召還したままの状態が続いていた。シシ大統領就任以来、両国は急速に接近しており、ネタニヤフ首相は新大使任命を「歓迎する」と述べた。

 

二三)国連人権委員会、昨年のガザ戦闘の「戦争犯罪」について報告

二〇一五年六月二二日、国連人権理事会の独立調査委員会は、前年の七~八月のガザでの戦闘について報

告書を発表し、イスラエルハマスの双方が「戦争犯罪」を行った可能性を指摘した。報告書はイスラエルハマスによる国際人権法などの「深刻な違反」を示す「かなり多くの情報」を入手したとし、「違反行為が戦争犯罪に相当し得る」ケースがあったと結論づけた。また報告者によるとパレスチナ側の死者は二二五一人(うち民間人が一四六二人)、イスラエル側の死者は兵士を中心に七三人であったとしている。ネタニヤフ首相は、調査委員会の報告書について「イスラエルの破壊を求め、複数の戦争犯罪を行っているテロ組織から自国を守っただけだ」と主張し、「戦争犯罪に当たらない」と反論した。

 

(二四)アッバス議長、新政権発足に向け協議を進める意向

パレスチナ暫定政権発足から一年以上が経過したが不安定で統一政権の成果が見られない。二〇一五年六月二三日、アッバス議長は幹部会合を開き、機能不全に陥っている統一暫定政権に代わる政権を近く発足させる方針を決めた。委員会を立ち上げ、組閣に向けて全政治勢力と協議すると述べた。

 

(二五)パレスチナ、ICCへ「戦争犯罪」に関する資料を提出

二〇一五年六月二五日、パレスチナのマルキ外相はオランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)本部を訪れ、イスラエルの「戦争犯罪」などに関する資料を初めて提出した。ICCの検査官が進めている予備調査を補完し正式捜査につなげたい考えだ。

 

(二六)「イスラム国」(IS)、ネット動画で「ガザ」など「世俗派」制圧宣言

過激派組織「イスラム国」(IS)が中東や北アフリカで過激的なテロ活動を強化している。ますます支配範囲を拡大し勢力を誇示してきた「イスラム国」は、ガザのハマスなどにも矛先を向け、ガザにイスラム国を建設するとまで主張してきた。

二〇一五年六月三〇日、「イスラム国」(IS)がハマスイスラエルを打倒すると「宣戦布告」した「動画」をインターネット上で公開した。動画はハマスなどがシャリア(イスラム法)を厳格に適用していないとして非難し、シャリアを守らない「不要な世俗派」であると指弾し絶滅させると宣言している。約一七分間の動画は銃を持った覆面の兵士が登場。「イスラム国」がダマスカス南部の難民キャンプを制圧したことに言及した上、同じようにガザ地区で行うとし主張し、ガザ制圧を宣言している。

 

(二七)エジプト、シナイ半島で過激派と軍が衝突、テロの拡大続く

二〇一五年七月一日、シナイ半島北部でエジプト軍の複数の検問所が同時に襲撃される事件が発生した。「イスラム国」(IS)傘下の「イスラム国シナイ州」による襲撃であり、エジプト軍が反撃し過激派戦闘員一〇〇人以上を殺害したが軍兵士も一七人が死亡した。二〇一三年七月のクーデター以降、同胞団支持者の一部が過激化している。先月二九日には首都カイロでバラカート検事総長が暗殺される事件が起きたばかりであり、テロの脅威はさらに拡大する懸念がある。

 

(二八)イラン核協議、「最終合意」なる

二〇一五年七月一四日、イラン核問題を協議していたイランと欧米など六カ国は、解決に向け最終合意に達した。国際原子力機関IAEA」監視下で一定のウラン濃縮を認め、イランの核開発を長期にわたり制限するわりに、安保理や欧米などが科している経済制裁を段階的に解除するという。国際社会の大半は核拡散に歯止めがかかり外交上大きな成果であり、中東の安定にもつながると歓迎している。イランとアメリカは断交三五年、ここに両者が歩み寄った歴史的意義は大きい。イラン市民は歓迎し、経済制裁解除に期待する。

 

(二九)イラン核協議、イスラエルサウジアラビアは猛反発

イラン核協議の最終合意発表に、対立するイラン周辺諸国は反発した。特にイランと敵対するイスラエルサウジアラビアは直ちに正面から強烈に反発した。イスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的な誤りだ」と即座に批判、サウジアラビアの当局者も「この地域をより危険な状態にする」と反発した。合意内容はイランの核開発活動を制限しているが、イランがIAEAの目をすり抜け、核兵器製造につながるウラン濃縮を続け、事実上の核保有国となりこの地域と世界の脅威となるとして強硬に非難した。

 

(三〇)イラン核協議、最終合意を受けてのアメリカ議会承認の「壁」

イラン核協議は最終合意に達したが、実行までには高いハードルがある。最終合意を受けて、アメリカ議会は合意内容の審議を行い承認する必要がある。上下両院で多数を占める共和党は核協議自体に反対してきた経緯もある。イランに科す経済制裁についてはその可否を判断することとなる。アメリカは一九七九年のテヘランアメリカ大使館人質事件後、対イラン制裁に踏み切っており、経済制裁解除は国内外の政策に大きな影響が出てくる。合意はイランの核開発は制限する。だが関連施設の保有は認めるとしている。このため、共和党の中には「中東での核拡散は防ぐが、代わりに世界の核開発競争に油を注ぐことになる」との声もある。オバマ大統領は「最終合意実行の障害になる(不承認の)議決には拒否権を発動する」としている。しかし、両の三分の二以上の賛成で拒否権が覆されれば、制裁解除は見送られることとなる。その場合、イランが最終合意を「ほご」にする可能性も出てくる。オバマ大統領はイラン核合意の成果を誇示した。一年半の任期を残し政権の遺産(レガシー)づくりを求めた執念が実ったとも言われる。しかし、今後に解決すべき問題は極めて多い。

 

(三一)アメリカのカーター国防長官、イスラエルを訪問し防衛協力を確認

二〇一五年七月二〇日、アメリカのカーター国防長官はイスラエルを訪問、ヤアロン国防相と会談し同盟関係を確認した。

翌二一日、カーター国防長官はネタニヤフ首相と会談した。カーター長官はイラン核協議の最終合意を「歴史的誤り」と反発するネタニヤフ首相対し、アメリカによる防衛協力を改めて確約したとみられる。

 

(三二)イスラエルパレスチナの対立、また激化

二〇一五年七月下旬になってきてもイスラエルパレスチナとの対立は止むことなく、衝突は各所で発生、双方の関係はさらに悪化してきた。

七月二三日、ヘブロンパレスチナ人が殺害されたことを受け、パレスチナ人デモ隊とイスラエル軍が衝突した。

七月二九日、ネタニヤフ首相はヨルダン川西岸の入植地ベイトエルに住宅三〇〇戸の建設を承認した。また、東エルサレムに約五〇〇戸の建設計画を承認した。これに対し、アッバス議長は「和平プロセスを再開させようとする国際社会の努力を壊すものだ」と反発した。

八月、九月になっても双方の衝突は続いた。

 

三三)「エルサレム」をめぐり対立激化、新たなインティファーダの恐れ

二〇一五年九月一三日、エルサレム旧市街のハラム・アッシャリーフ(ユダヤ教での「神殿の丘」)をめぐりパレスチナ人とイスラエル治安当局と衝突が起きた。エルサレムをめぐる衝突は激化、死者も続出する状況になってきた。緊張状態は旧市街からヨルダン川西岸やガザ地区にも拡大した。

一〇月四日、ヨルダン川西岸で一八歳のパレスチナ少年が射殺され、一〇月五日にはベツレヘム近郊の難民キャンプで一〇代のパレスチナ少年が殺害された。また、一〇月一一日にイスラエルによるガザ空襲でパレスチナ人妊婦と娘が死亡するなどの事件もあり対立は収まらない。テロや襲撃事件が急激に拡大してきた。ヨルダン川西岸でのパレスチナ人がユダヤ人を殺害する事件が起きると触発される形でイスラエルの抑圧に対するパレスチナ人の怒りが爆発、対立の炎は西岸全土に広がった。衝突殺人事件が続発、ガザからのイスラエルへの報復空爆が続いた。

一〇月中旬には一九八七年と二〇〇〇年に発生したインティファーダ次ぐ「新たなインティファーダ」の危険険性も出てきた。

一〇月に入って急速に拡大した衝突による双方の死傷者は、イスラエル側は死者八人、負傷者約七〇人、パレスチナ側は死者四四人、負傷者は約一八〇〇人以上に達している。アメリカのケリー国務長官は、ネタニヤフ、アッバス両首脳と対立の沈静化について個別に協議した。

 

三四)ネタニヤフ首相のホロコースト発言、内外で非難される

二〇一五年一〇月二〇日、ネタニヤフ首相がエルサレムで開催された世界シオニスト会議の会合で講演、一九四一年のホロコーストに関する発言がパレスチナ人からだけでなくイスラエル人からも非難された。首相が「ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)は、パレスチナ人のイスラム教指導者であったハジ・アミン・アルフセイニ師がヒトラーユダヤ人を焼き殺せと進言したために起きたものだ」と発言した。さらに「当初ヒトラーユダヤ人を皆殺しにする意思はなく、追い出したかっただけだ」と述べ、宗教指導者のヒトラーへの「扇動」がなければ大虐殺はなかったと語った。この発言に専門家からも「事実と異なる」と指摘があるほか、ネット上でも発言の直後から「不正確で、ヒトラーの責任を軽視する発言だ」との批判が続出した。

アッバス議長は、ネタニヤフ首相の発言は「歴史がいかに歪められ、利用されるかを示すものだ」と非難した。

 

(三五)EU、ユダヤ人入植地産品に「入植地産」と表示する方針を決める

二〇一五年一一月一一日、EUはユダヤ人入植地で作られた製品について「入植地産」と表示する方針を決め、EU域内で販売する際、「イスラエル産」ではなく「入植地産」とするよう加盟国に求めた。占領地での入植活動は国際法違反だとされ、欧州ではイスラエルパレスチナ政策に抗議するため、イスラエルの入植地製品を買わないよう呼びかける市民運動が起きていた。ネタニヤフ首相は「EUは自らを恥ずべきだ」と強く反発し、損害を受けるのはイスラエルではなく、入植地で働くパレスチナ人だと指摘した。

一方、パレスチナ側は「入植地製品の不買運動に向けた重要な動きだ」と歓迎した。

 

(三六)パリで同時多発テロ事件発生

二〇一五年一一月一三日、フランスのパリ市街と郊外(バンドー)のアン・ドニ地区の商業施設において「イスラム国」(IS)の戦闘員とみられる複数のグループによる銃撃および爆発が同時多発的に発生し、死者一三〇名、負傷者三〇〇名以上となるテロ事件が起きた。

イスラム国」(IS)の勢力はシリアやイラク地域から、中東全体、北アフリカ、そして今回のフランスまでもその範囲を拡大し、世界中のどこにおいても発生するテロの脅威となってきている。

 

(三七)チュニジア四団体にノーベル平和賞

二〇一五年一二月一〇日、今年度のノーベル平和賞チュニジア民主化を後押しした「国民対話カルテット」に贈られた。

チュニジアでは二〇一一年の独裁政権崩壊後、対立するイスラム勢力と世俗派の動きに危機感を強めた労働団体弁護士会、人権団体、経営者団体の四組織が二〇一三年、「カルテット」を結成。憲法制定などの工程表を示して両者を仲介し、立憲主義と民主的な選挙に道を開いた。