第一九章 二〇一六年から二〇一八年までの中東情勢

アメリカにドナルド・トランプ氏が新大統領として登場してくる。

二〇一六年(平成二八年)から二〇一八年(平成三〇年)までの主なイスラエルパレスチナ情勢について年を追って見ていく。

 

二〇一六年

(一)トルコとイスラエル、両国の関係改善へ大筋合意

トルコとイスラエルの国交関係は、二〇一〇年のイスラエル軍によるトルコのガザ支援船襲撃事件を受けて悪化していたが、正常化へ向けて話し合いが進められていた。

二〇一六年一月二日、トルコの各紙は、エルドアン大統領が「イスラエルはトルコのような国を必要としている。トルコもイスラエルを必要だと認めなければいけない」と述べ、両国の関係改善に意欲を示したと報じた。

昨年末、両国は召還していた互いの大使の再派遣やイスラエルのトルコへの補償金の支払い、トルコ拠点を置くハマス幹部の追放、イスラエル沖の天然ガス油田に関する両国間協力の模索などが盛り込まれた和解案に合意していた。

 

)核開発を制限し始めたイランに対し、「経済制裁」解除へ

二〇一六年一月一六日、昨年七月のイランの核開発に関する合意が履行され、イランに対する経済制裁解除が発表された。IAEAが、イランは約束通り核開発を制限しているか調査した結果、約束が果たされているとの結論を受け、欧州各国は制裁を解除した。アメリカは国内法の関係で少し遅れるという。

イスラエルサウジアラビアは制裁解除の動きに警戒を強めた。

 

(三アッバス議長、モスクワでプーチン大統領と会談

二〇一六年に入ってもイスラエルパレスチナの対立は続き、各所で双方の衝突が起き死傷者も出ている。

和平交渉が頓挫している中、パレスチナアッバス議長は現状を打開し、和平推進に向け「新しいメカニズムを作りたい」とするなど努力を重ねた。

二〇一六年四月一八日、アッバス議長はモスクワを訪れプーチン大統領と会談した。プーチン大統領は「中東和平の努力を支援する」と表明。アッバス議長は中東和平の国際会議をモスクワで開催するよう要請した。

 

(四)「サイクス・ピコ協定」から一〇〇年、「IS」を中心に中東の混乱続く

二〇一六年五月、第一次世界大戦中に英・仏が密かに結んだ「サイクス・ピコ協定」から一〇〇年が経った。シリア東部やイラク西部の地域では不自然な国境線の設定から、スンニ派シーア派は対立してきた。過激派組織「イスラム国」(IS)は二〇一四年六月にカリフ制国家の樹立を一方的に宣言し、「サイクス・ピコを破壊した」と主張した。かれらの強硬姿勢はさらに過激な活動に発展し中東は混乱していった。

 

(五)イスラエル連立政権、極右政党「わが家イスラエル」が加入

ヤアロン国防相辞任

ネタニヤフ首相は昨年三月の総選挙を受け、自ら党首を務める右派リクードを中心に連立政権を発足させているが、連立は国会定数(一二〇)の半数をわずかに上回る六一議席にとどまっている。ネタニヤフ首相は政権与党の勢力拡大を模索し、「わが家イスラエル」の政権加入を模索していた。

二〇一六年五月二〇日、イスラエルのヤアロン国防相は、「過激勢力がイスラエルリクードを乗っ取った」「(首相の最近の振る舞いによる)首相への信頼を失ったため、政府と議会から退く」との意向を表明し、政界を引退した。国防相職を「わが家イスラエル」のリーベルマン党首に提示したことが背景にあるとみられる。

 

わが家イスラエル」が政権入り

五月二五日、ネタニヤフ首相とリーベルマン党首が合意し、「わが家イスラエル」が政権入りした。「わが家イスラエル」は極右政党として知られ、リーベルマン党首は対パレスチナ政策で厳しい。これでネタニヤフ政権の議席は六六議席に増加した。また、「わが家イスラエル」は念願の国防相ポストを獲得しリーベルマン党首が国防相に就くこととなった。イスラエル政権に極右政党が加わったことで和平に大きな影響が出ることが懸念される。

 

)「パレスチナをめぐる国際会議」、パリで開催

二〇一六年六月三日、パレスチナをめぐる国際会議がパリで欧米や中東など約三〇カ国の外相らが出席して開催された。ネタニヤフ首相は「(イスラエルパレスチナ)両者の直接交渉のみに応じる」とし、このような国際会議は「和平を遠ざける」と反対、会議への出席を拒否している。パレスチナも会合には出席していない。会議の冒頭フランスのオランド大統領はパレスチナ問題をはじめとする中近東問題の混乱について、放置すれば「過激主義やテロの台頭につながる」と指摘した上で、「最終的にはイスラエルパレスチナが平和のために勇気ある決断を下すことが必要だ」と両者に歩み寄りを求めた。会議を主導したフランスのエロー外相は会議終了後の記者会見で、「事態が手遅れになる前に急いで行動を起こさなければならない」と強調し、両者が直接協議できる環境を年内にも整えたい意向を示した。

 

)トルコとイスラエル、「関係正常化」で合意

二〇一六年六月二七日、トルコとイスラエルは外交関係を正常化することで合意した。発表は、トルコはユルドゥルム首相が首都アンカラで、イスラエルはネタニヤフ首相が滞在中のローマで、同時に行われた。今回の合意を受け,ガス輸出入など経済関係の改善や大使派遣など両国関係を全面的に正常化させることとなる。

 

)米、ロ、EU、国連のカルテット、「中東和平交渉の再開」を求める

アメリカが仲介したイスラエルパレスチナに関する和平交渉は、二〇一四年に事実上決裂し、頓挫したたままである。

二〇一六年七月一日、アメリカ、ロシア、欧州連合(EU)、国連で構成する中東和平に関するカルテットは、イスラエルパレスチナ双方に対し、頓挫している「中東和平交渉の再開」に取り組むことを求めた報告書を発表した。報告書はイスラエルパレスチナの「二国家共存」が「持続的な平和を実現する唯一の方策だ」と強調、市民への暴力・テロ攻撃の停止やユダヤ人入植地の拡大停止に向け、関係当事者に積極的な措置を取るよう求めた。

 

(九)トルコとイスラエルの関係改善、トルコのガザ支援船イスラエルに寄

トルコとイスラエルの関係改善が進み始めた。

二〇一六年七月三日、イスラエルのガザ封鎖が続いている中で、トルコのガザ支援船が食料品や小麦粉、米、砂糖、おもちゃなど一万一〇〇〇トンを積んでイスラエルの南部のアシュドットに寄港した後ガザに向かった。トルコは関係正常化の条件としてイスラエルに封鎖解除を求めていたが、イスラエル側が「ハマスが軍事利用する恐れがある」として拒否。結局トルコ側が譲歩して、支援船を「イスラエルの港を経由させる」ことで合意してこのようなガザ支援が可能となった。

 

(一〇)トルコ、クーデター未遂事件

二〇一六年七月一五日、トルコでクーデター未遂事件が発生した。軍の一部が反乱を起こしボスボラス海峡に架かる二本の橋を封鎖し、アタチュルク空港に戦車を乗り入れ、空港を一時閉鎖した。国営テレビ局を占拠して「国の全権を掌握した」とアナウンスさせた。続いて戒厳令と外出禁止令を宣言した。

エルドアン大統領は休暇でトルコ西南部のマルマリスにいたが素早く反応し、「兵士よ、基地に帰れ」、「市民は(軍の行動に抗議するため)街頭へ繰り出そう」などと呼びかけさせた。呼応した多数の市民が街の広場や通りに繰り出し反乱軍に抗議の声を上げた。休暇先から急遽イスタンプールに戻った大統領は市民の大歓迎を受け反乱軍は投降した。クーデターは未遂に終わった。一連の政権転覆計画には、アメリカに在住するエルドアン大統領の政敵、イスラム指導者フェトフッラー・ギュレン師が関わっているとされ、アメリカ政府にギュレン師をトルコに引き渡すよう要求した。

 

(一一)トルコ国会、イスラエルとの国交正常化を承認

二〇一六年八月二〇日、トルコの国会はイスラエルとの国交正常化を承認した。イスラエルは六月末に閣議でトルコとの国交正常化を承認しているが、トルコは先月に発生した軍の一部によるクーデター未遂事件のため承認手続きが遅れていた。

 

(一二)オバマ・ネタニヤフ会談、オバマ氏「ユダヤ人入植活動」の懸念表明

オバマ大統領の任期は残り四カ月となってきた。大統領は頓挫したままの和平交渉を進展させたかった。

二〇一六年九月二一日、オバマ大統領とネタニヤフ首相の会談がニューヨーク市内のホテルで行われた。オバマ大統領はヨルダン川西岸でのユダヤ人入植活動に「深刻な懸念」を表明した上で、和平交渉の進展にネタニヤフ首相の最大の努力を要請した。イスラエルの入植活動は国際的に強い批判にも関わらず今年に入ってからも建設地の土地を広範囲に接収すると決めるなど終わることなく続けられている。

 

(一三)アメリカ大統領選までカ月、トランプ候補のイスラエル寄り姿勢

アメリカ大統領選は二〇一六年一一月に実施される。民主党ヒラリー・クリントン氏と共和党ドナルド・トランプ氏が激しく争っている。残された期間は一カ月余り。両氏は最終の追い込みに入っている。

二〇一六年九月二五日、トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相とニューヨークにトランプ氏が所有する超高層ビルトランプ・タワー」で非公式に会談した。トランプ氏は親イスラエルとして知られ、大統領選期間中もイスラエル寄りの発言を続けている。

トランプ陣営の声明によると、トランプ氏はネタニヤフ氏との会談で、エルサレムは三〇〇〇年以上にわたりユダヤ人の永遠の首都であり続けると認識しているとし、「(自身が大統領に選出されれば)エルサレムイスラエルの不可分の首都というアメリカ議会の以前からの決定についてこれを「承認する」と述べたという。

アメリカ議会は一九九五年一〇月に、エルサレムイスラエルの不可分の首都と認め、テルアビブからのアメリカ大使館の移転を承認する法律を可決したが、歴代の大統領(ビル・クリントンジョージ・W・ブッシュバラク・オバマ)は民主党共和党とも外交政策に関する行政府の権限侵害に当たるとしてこの法律を施行していない。トランプ氏が大統領に選出された場合、イスラエルアメリカ大使館はエルサレムへ移転される可能性が高い。しかし、エルサレムの最終的地位が定まっていない今、移転には曲折も予想される。トランプ候補の動きが注目された。

 

(一四)ペレス前イスラエル大統領死去、国葬オバマ大統領ら参列

二〇一六年九月二八日、イスラエルシモン・ペレス前大統領がテルアビブの病院で死去した。九三歳だった。

九月三〇日、国葬エルサレムで営まれ、アメリカのオバマ大統領、クリントン元大統領、パレスチナ自治政府アッバス議長ら、多数の国や地域の首脳や要人が参列した。アッバス議長のイスラエル訪問は、ネタニヤフ首相との会談が物別れに終わった二〇一〇年九月以来六年ぶりであった。アッバス議長とネタニヤフ首相は握手をし、短い言葉を交わした。

 

(一五)各国首脳ら、ペレス氏の「和平推進への尽力」に敬意を表わす

二〇一六年九月二八日、ペレス氏の葬儀に参列した首脳らはペレス氏が生前中東和平に尽力した功績を讃え、その死を悼んだ。ネタニヤフ首相は追悼式典で、「イスラエルと世界にとって偉大な人物だった」と功績を称賛。ペレス氏は(生前)「和平が実現すれば、安全保障につながる」と言っていたと述べた。

オバマ大統領は式典でペレス氏が深く関与した「二国家共存」に向けた尽力を讃えた上で、和平交渉が暗礁に乗り上げる中、アッバス議長が参列したことに触れ、「(中東の)和平の努力が終わっていないことを思い出させる」と強調した。

 

(一六)イスラエル世論調査パレスチナとの「和平は無理」が三分の

イスラエルパレスチナの和平プロセスは二〇一四年四月に中断後、暗礁に乗り上げたまま進んでいない。このような中で和平についての世論調査がアラブ系を含むイスラエル人六四六人を対象に行われた。

二〇一六年一〇月二日、世論調査の結果がニュースサイト「ワラ」に掲載された。それによると約三分の二(六四%)が「絶対に実現しない」と回答した。また、二四%は「和平は実現可能だが五年より長くかかる」と答え、「五年以内に実現可能」との回答は僅か四%であった。

 

(一七)アメリカ、イスラエルの入植計画を異例の非難、イスラエルは反論

二〇一六年一〇月五日、アメリ国務省のトナー副報道官は声明を発表し、イスラエル政府が先月下旬、ラマラ北方に約三〇〇戸の入植住宅を建設する計画を承認したことに「強く非難する」と述べ、友好国のイスラエルを異例の厳しい表現で批判した。その上で、「二国家共存」による紛争解決に「さらなる打撃を与える」と指摘した。またトナー氏は、アメリカがイスラエルへの三八億ドル(約三兆九〇〇〇億円)の軍事支援を決めた後にこの計画が承認されたことに不快感を表明。さらに、オバマ大統領や世界中の指導者が中東和平を推進したペレス前イスラエル大統領の死を悼んでいる時にこの計画が進められたことにも「失望している」と述べた。また、この計画について「新たな入植地は建設しないというイスラエル政府の公式表明に反している」として強く非難した。

イスラエル外務省は、アメリカ政府の非難声明に対し「新たな入植地ではない」と反論した。また、「中東和平への本当の障害は入植地ではなく、パレスチナが一貫してユダヤ国家の承認を拒否していることだ」と訴えた。

 

(一八)アメリカ大統領選挙、トランプ氏が勝利

二〇一六年一一月八日、アメリカ大統領選は全米各州で投票が行われ、全世界が注視する中、開票は東部から始まった。開票は進みトランプ氏がヒラリー氏をリードした。

一一月九日未明、当選を確実にしたトランプ氏は支持者を前に勝利演説をした。獲得選挙人総数は、トランプ氏が三〇六人、クリントン氏が二三二人であった。トランプ氏の予想を覆しての勝利のニュースは世界中を駆け回った。

 

(一九)トランプ氏の大統領選勝利、中東の首脳らは直ちに反応

トランプ氏の勝利に中東諸国の指導者らは直ちに反応した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、最大の祝意を表し歓迎した。「トランプ氏はイスラエルの真の友人だ」と讃え、「真の友との連携を楽しみにしている」と声明を出し協調姿勢を示した。

エジプトのシシ大統領は、電話で祝意を伝え、「あらゆるレベルでアメリカとエジプトの協力関係が促進されることを期待している」と述べた。

サウジアラビアのサルマン国王は、トランプ氏が「中東や世界の安定をもたらすことを望む」と歓迎のメッセージを出した。

パレスチナ自治政府は、「いかなる大統領とも協力する」と述べるにとどめ、アリカット和平交渉担当者は、アメリカが主導した中東和平交渉が二〇一四年から中断したままであることを受け「アメリカ新政権は(イスラエルパレスチナの)二国家共存による解決に向けた協議を実行に移してほしい」と訴えた。

トルコのエルドアン大統領は、トランプ氏に電話で祝意を伝え、両者は二国間関係を強化し、「テロとの戦い」を含む地域・国際問題に関して協力を続けることで一致した。また、ユルドゥルム首相は、今年七月にトルコで起きたクーデター未遂の首謀者される在米イスラム指導者ギュレン師の身柄をアメリカが引き渡せば「トルコとアメリカの友情の新しいページが開かれる」との考えを示した。

イランのロウハニ大統領は、トランプ氏が選挙運動中からイラン核合意の破棄に言及していることを念頭に「核合意は一つの政府により変更される可能性はない」「合意が覆されることはない」と述べた。また、ザリフ外相は、オバマ大統領の外交成果の一つである核合意に関し、「最も重要なことは、将来のアメリカ大統領が合意を守ることだ」とくぎを刺した。

 

(二〇)トランプ氏の親イスラエル姿勢鮮明、イスラエルが大歓迎

イスラエルは親イスラエルのトランプ氏が次期アメリカ大統領に就任することに大歓迎で大きな期待を寄せている。

トランプ氏はネタニヤフ首相とは旧知の中で、両国関係が冷え込んでいたオバマ政権より親イスラエルになると見られる。トランプ氏は大統領選挙戦の期間中にも中東情勢に強い関心を持ち、テルアビブにあるアメリカ大使館を「エルサレムに移す」などとも述べ、「イスラエルは中東唯一の真の民主主義国であり、人権擁護者で、希望の光だ」と讃えて親イスラエル姿勢を鮮明にしている。

二〇一六年一一月一一日、トランプ氏はイスラエルの政府寄りの日刊紙イスラエル・ヨハムに送ったメッセージで中東和平交渉について、「わたくしの政権は正しく持続的な和平実現に大きな役割を果たせると思う」と従来通りアメリカが交渉の仲介役を務める意向を示した。また「和平は他人から押し付けられるものではなく、両者が直接交渉でなければならない」とも指摘した。

一一月一七日、イスラエルのダーマー駐米大使はニューヨークでトランプ氏と会談した。大使は会談後、記者団に「トランプ氏はイスラエルの真の友人であることに疑いはない」と述べ、トランプ政権で主席戦略官・上級顧問に起用されるスティーブン・バノン氏について「協力していくことを楽しみにしている」と語って次期アメリカ政権との良好な関係に期待を寄せた。

 

(二一)イスラエルとトルコ、関係正常化し互いに大使を任命

イスラエルとトルコは、二〇一〇年に起きたガザ支援船襲撃事件を受けて関係が悪化していたが二〇一六年六月、国交正常化に合意をした。

二〇一六年一一月一六日、イスラエルとトルコは互いに大使を任命した。

 

(二二)パレスチナ自治区ラマラに「アラファト博物館」開館

二〇一六年一一月一〇日、パレスチナ自治政府議長であった故ヤーセル・アラファト氏の足跡を紹介する博物館がヨルダン川西岸のパレスチナ自治区のラマラにオープンした。「アラファト博物館」はアラファト氏の遺品や関連資料のほか、パレスチナの歴史の関する資料などが展示されている。特にパレスチナ問題が生まれたイスラエル建国当時から現代に至る一連の出来事に関する写真や映像の展示、アラファト氏が晩年イスラエル軍によって軟禁状態に置かれていた議長府の部屋での状況なども復元されており、パレスチナ人自身を知る教育・文化施設となっている。

 

(二三)パレスチナファタハ総会開催、引き続きアッバス氏を議長に

二〇一六年一一月二九日、パレスチナファタハは七年ぶりに「ファタハ総会」を自治区のラマラで五日間の予定で開幕した。ファタハは最高意思決定機関である中央委員会のメンバー二三人のうち一八人と、中央委員会に次いでの意思決定機関である革命評議会の議員一三二人のうち八〇人を選出する。初日はアッバス氏を全会一致で引き続きファタハ議長に選出した。アッバス氏は、中東和平でイスラエルとの交渉が頓挫していることに関連し、トランプ次期アメリカ大統領に対し、次期政権も将来のパレスチナ国家樹立を支持するよう求め、中東和平政策で「公平な解決策を提示してくれることを望む」と呼び掛けた。

 

(二四)フランス、中東和平再開へ向け三者会談提案、ネタニヤフ首相は拒否

フランスは中東和平交渉の再開に国際的な協力を呼び掛け、今年六月の協議開催に続き年内に約三〇カ国の外相らを招き協議する予定をしている。それに向けフランスのオランド大統領は環境整備のため、ネタニヤフ首相とアッバス大統領との三者会談を提案した。

二〇一六年一二月八日、ネタニヤフ首相はオランド大統領と電話会談し、同大統領提案の三者会談について、「国際会議でなければ前提条件なしでアッバス大統領と直接会談に出向く」と述べ、事実上拒否した。ネタニヤフ首相は「こうした国際会議は和平実現に寄与しない。イスラエルは出席しない」としている。

パレスチナ側は、一貫してフランスの提案を受け入れる意向を示している。

 

(二五)トランプ氏、駐イスラエル大使に親イスラエルフリードマン氏指名

トランプ次期アメリカ大統領は、大統領選挙中からエルサレムイスラエルの首都と認め、「アメリカ大使館をエルサレムに移す」などと述べていたが、政権構築に向け具体的に動き出した。

二〇一六年一二月一五日、トランプ氏は弁護士のデビッド・フリードマン氏を駐イスラエル大使に指名すると発表した。フリードマン氏はトランプ氏の友人で選挙戦でも顧問を務め、親イスラエルで入植活動支持派である。イスラエル右派はフリードマン氏のイスラエル大使指名を歓迎した。フリードマン氏は大使の指名を受けて「(イスラエルの)永遠の首都エルサレムで仕事することを楽しみにしている」と声明を出した。

一方、パレスチナ側にはフリードマン氏の「駐イスラエル大使」の指名に懸念の声が出ている。

 

(二六)ネタニヤフ首相、トランプ氏の大統領就任は「和平への好機」と期待

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏が次期アメリカ大統領に就任することについて「好機」と捉えている。

二〇一六年一二月二〇日、ネタニヤフ首相は年末恒例の外国人メディアとの記者会見で、「トランプ氏の大統領就任は素晴らしいことだ。新たなアイディアを進める機会となる。トランプ氏がホワイトハウスにいる間に新しいアイディアを提案し、共に(中東和平に向けての)紛争を解決に導けるか考えるつもりだ」と述べた。中東和平の在り方が大きく変わる可能性もあり今後の展開が注目される。

 

(二七)安保理、「ユダヤ人入植活動の即時停止を求める決議」を採択

二〇一六年一二月二三日、安保理ヨルダン川西岸と東エルサレムでのイスラエルによる「ユダヤ人入植活動の即時停止を求める決議」を一五カ国中一四カ国の賛成多数で採択した。アメリカは「棄権」した。

決議の要旨は、

一、入植は国際法に違反しており、迅速かつ完全に中止すべきである。

一、一九六七年四月の国境線を変更することは認められない。

一、テロや挑発、破壊行為など市民への暴力を防止することを求める。

一、そしてすべての参加者に対し、中東和平に向けた交渉の開始にたゆまぬ努力をすべきだなどとしている。

 

(二八)アメリカ、安保理での「入植停止決議」採決に拒否権を行使せず「棄権」

アメリカは安保理での決議を「棄権」した。イスラエル寄りの立場をとってきたアメリカが決議に際し拒否権を行使せず「棄権」したことは、イスラエル非難決議を実質的に「容認」した異例の棄権であったとされる。オバマ政権が採決を「棄権」した背景には、親イスラエルの立場を明確にするトランプ次期大統領への牽制などいくつかの要因が絡む。ケリー国務長官アメリカが「棄権」したことについて声明を発表し「(和平は)二国家共存こそが唯一の解決策というのがアメリカの長年の立場だ。しかし入植拡大などによって棄権にさらされている」として入植活動がこれ以上拡大すれば中東和平交渉に深刻な影響を与えると訴えた。オバマ政権はトランプ次期政権の親イスラエルの姿勢に警鐘を鳴らそうとしている。

トランプ氏は親イスラエル色が強く過去のアメリカ政権以上にイスラエル寄りで、ネタニヤフ首相の政策に理解を示す政策を進める可能性がある。トランプ次期政権のキーパーソンと目されるクシュナー氏はユダヤ系のアメリカ人であり長女イバンカさんの夫である。イバンカさんもユダヤ教に改宗しているなどトランプ氏の周辺はイスラエル寄りである。またトランプ氏は国連の動きやオバマ政権の判断に不満を強めている。「(自分が大統領に就任する)来年一月二〇日以降事態は変わることになるだろう」とツイッターに投稿して「決議案には拒否権を行使すべだ」と主張しており、オバマ政権より一層イスラエル寄りの政策をとることを示唆している。

 

(二九)安保理決議にイスラエルは強く反発、パレスチナは評価

イスラエル政府は安保理での採決に直ちに反応、「この恥ずべき反イスラエル決議を拒否し、従うつもりはない」と声明を発表し、強く反発した。

ネタニヤフ首相はアメリカが拒否権を行使しなかったことについて、「オバマ政権は国連での集団攻撃からイスラエルを守れなかったどころか裏で結託していた」と主張し、「トランプ次期大統領やアメリカ議会の友人たちと協力し、この馬鹿げた決議による悪影響をなくすべく取り組んでいくことを楽しみにしている」とオバマ大統領を批判すると同時にトランプ氏に期待を示した。

一方、パレスチナ側は「イスラエルの政策への大きな一撃だ」と今回の決議を歓迎し、「ユダヤ人入植について国際社会が一致して批判したことになる。二国家の平和的共存による解決を支援する強い姿勢が示されたものだ」と評価した。

 

(三〇)オバマ政権残り一カ月、イスラエルの「入植活動」継続を強く非難

ケリー国務長官イスラエルの「入植活動」継続を非難

二〇一六年一二月二八日、ケリー国務長官はワシントンで中東和平の将来像について講演し、イスラエルユダヤ人の入植活動を継続していることを非難し、「二国家共存の実現が中東和平を成し遂げる唯一の方法だ。ネタニヤフ政権はイスラエルの歴史上もっとも右翼的で、他の政権よりも入植活動を進めてきた。アメリカ歴代政権は入植活動に反対してきた。イギリス、フランス、ロシアなど世界のあらゆる国も反対だ」と異例の強い表現で非難、イスラエルを擁護する姿勢を鮮明にするトランプ次期大統領を牽制し批判を強めた。その上で、和平交渉を再開するための指針として、一九六七年の境界に基づく国境画定、パレスチナ難民への補償、エルサレムは二つの国家の首都、イスラエルの安全確保など六項目の原則を示した。事実上の同盟国で歴史的に強く結びつくイスラエルに対し、公然と非難するのは異例である。

 

ネタニヤフ首相、反論

ネタニヤフ首相は「深く失望した。イラエルが外国の指導者から和平の重要性を教えられる必要はない」と発言。「問題の本質は、パレスチナイスラエルユダヤ人国家として承認しないことである。イスラエルの立場を反映していない偏った見方だ」と強く反発した。

トランプ氏はツイッターで「イスラエルに無礼・軽視な扱いを続けてはいけない。(大統領就任の)一月二〇日はもうすぐだ」と中東政策を転換する意向を示しオバマ政権を批判している。また国連についても「問題を解決せず、問題を引き起こしている。時間とお金の無駄だ」と記者団に不満を述べるなどイスラエルを擁護した。

パレスチナ自治政府は「イスラエルが全ての入植活動を停止した時点で和平交渉を再開する用意がある」と声明を発表した。

 

二〇一七年

(一)アメリカ下院、安保理の「入植停止決議」に反対する決議案を可決

二〇一七年一月五日、アメリカ下院は安保理が先月に採択したイスラエルによる「入植停止決議」に反対する決議案を賛成多数で可決した。安保理決議にオバマ政権は拒否権を行使せず棄権にまわり、イスラエルを擁護しなかったとして共和党などが反発していた。下院の決議は「一方的な反イスラエル安保理決議には今後、反対して拒否権を行使すべきだ」とし、親イスラエル傾向が鮮明である。

これに対し、オバマ大統領は、(民主、共和)両党の歴代大統領が進めた二国家共存の政策を慎重に考慮して対応したと述べた。またアーネスト報道官は記者会見で「イスラエルの入植活動と(パレスチナとの)対立による継続的な暴力行為が、二国家共存の解決を一層難しくしている」と指摘した。

 

(二)イラン、ラフサンジャニ元大統領死去、ロウハニ現大統領の改革路線痛手

二〇一七年一月五日、イランの保守穏健派の重鎮、ラフサンジャニ元大統領が死去した。ラフサンジャニ師の強力な支援を後ろ盾として改革路線を進めてきたロウハニ現大統領にとって大きな痛手で、五月に予定される大統領選にも影響を及ぼす可能性がある。ロウハニ師は核合意に伴う経済制裁の解除を実現させた。保守強硬派の反対を押し切ることができたのはラフサンジャニ師の支援があったからだといわれる。

アメリカでは、イランの敵対国であるイスラエル寄りの姿勢を鮮明にするトランプ氏が間もなく大統領に就任する。トランプ氏はこれまで制裁解除に伴うイランの核合意を「破棄すべきだ」と主張している。トランプ政権がイランにこのまま強い態度で臨めば、イランが強硬姿勢に転じることもあり得る。ラフサンジャニ師の死去は今後のイランの行方に大きな影響を与える。

 

アメリカ大使館のエルサレムへの移転問題急浮上、移転へ懸念の声沸く

アメリカ大使館のエルサレムへの移転問題

トランプ氏は選挙運動中からイスラエル寄りの姿勢を鮮明にし、エルサレムイスラエルの首都だとして、アメリカ大使館を「エルサレムに移転する」と明言している。二〇一七年に入りアメリカ大使館のエルサレムへの移転案がトランプ新政権の発足を前に急浮上してきた。

アメリカ大使館のエルサレム移転については、歴史的にはアメリ連邦議会で一九九五年に「エルサレム大使館法」で一九九九年五月までに大使館をエルサレムに移転することを規定している。しかし、その第七項は大統領に対してアメリカの安全保障上の利益のために必要ならば半年ごとに同法の履行を差し止める権限を付与している。クリントン政権以降、歴代大統領は半年ごとにこの権限を行使することで移転の実施を先送りしてきた。オバマ大統領は二〇一六年一二月に、一七年五月までの移転先送りを決めている。

アメリカを含めイスラエルにある各国の大使館は、イスラエルが「首都」とするエルサレムではなく、イスラエル最大の都市テルアビブに置いている。イスラエルは一九六七年の第三次中東戦争で占領した東エルサレムを含むエルサレム全体を「イスラエルの永遠の首都」と主張しているが、国際社会はエルサレムを「イスラエルの首都」と認めていないし、パレスチナ自治政府も東エルサレムを将来の独立国の「首都」と主張している。現在もエルサレムの国際上の地位は未決定であり、エルサレムの帰属は「二国家解決」の和平問題の中心的課題になって今も争いが続いている。「移転」についてトランプ氏はこの大統領令が失効する前に「新しい決定」を発表するだろうとの観測もあり、移転問題が再燃する可能性がある。大使館をエルサレムに移すとなれば、イスラエルが主張する「エルサレムイスラエルの首都」と認めることになり世界中のイスラム教徒の猛反発も予想され、イスラエルパレスチナ自治政府の関係悪化など中東情勢の不安定化がさらに拡大するのは必至である。大使館移転問題はパレスチナ問題についてアメリカの関与を考える上で、重要な要素の一つであるのは確かだ。

間もなく任期を終えるオバマ政権もトランプ氏の「移転」の動きにくぎを刺している。ケリー国務長官は「地域全体でひどい爆発が起こるだろう」と述べ、「イスラエルと国交を持つヨルダンやエジプトとの関係も損なうことになる」と指摘している。

 

アッバス議長、アメリカ大使館の「移転」の動きに懸念を示す

二〇一七年一月九日、パレスチナ通信は、パレスチナ自治政府アッバス議長がトランプ次期アメリカ大統領に書簡を送り、アメリカ大使館をエルサレムに移転しないよう訴えたと報じた。

アッバス議長は別のインタビューでも「(アメリカ大使館の移転計画は)アメリカが紛争解決で役割を果たす上での正当性を奪うばかりでなく、二国家共存の解決策を破壊するものだ」と批判した。さらに、アメリカ大使館を移転すれば「(我々は)イスラエル承認を撤回せざるを得なくなる」と警鐘を鳴らした。

ヨルダンのモマニ・メディア担当相もアメリカ大使館の移転は「レッドライン(越えてはならない一線)」と警告。「イスラム教国やアラブ諸国の反発は必至だ」として中東の大きな火種になりかねないと訴えている。

 

(四)「中東和平交渉の再開を促す国際会議」、パリで開催

二〇一七年一月一五日、パリで欧米や中東、EUなど約七〇の国や機関が参加して中東和平交渉の再開を促す国際会議が開かれた。当事者であるイスラエルパレスチナは欠席した。会議はイスラエルパレスチナ自治政府の間で対立するエルサレムの帰属問題や国境の扱いで「持続的な平和実現には二国間の交渉による解決しかない」「第三次中東戦争から続くイスラエルの占領を終わらせる」など、「二国家共存」の原則を確認し、占領終結などを含んだ共同宣言を採択して閉会した。「親イスラエル」姿勢を強めるアメリカの次期トランプ政権を牽制した形である。

フランスのエロー外相はトランプ氏がアメリカ大使館をエルサレム移転する考えを示していることについて「(エルサレムの情勢が緊迫する中での双方の対立を煽る)挑発的行為だ」と述べ自制を求めた。その上で、中東和平に関し次期アメリカ政権と率直に意見を交わす考えも示した。

パレスチナ側は「二国家共存」が確認され「イスラエルが占領をやめることの必要性を強調した会議だ」として歓迎した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「意味のない会議だった」と批判した。

入植活動をめぐっては、国連安保理が先月、即時停止を要求する決議を採択、今回の共同宣言もパレスチナ側が求める入植停止を後押しした形だ。しかし、ネタニヤフ政権は右派傾向が強い上に、トランプ次期アメリカ大統領からも支持を得ているとして入植停止に応じる見込みはないとみられる。

 

(五)トランプ氏、アメリカ第四五代大統領に就任

二〇一七年一月二〇日、アメリカ第四五代大統領に昨年一一月に大統領選を制したドナルド・トランプ氏が就任した。トランプ氏は就任演説で今後のアメリカの政策は全てアメリカを最優先にしたものになるとし、「アメリカ第一」「アメリカを再び偉大にする」と強硬な国家主義的姿勢を明確に表明した。

 

(六)トランプ大統領、積極的に外交交渉へ

トランプ大統領は就任した直後から積極的に外交交渉を始めた。

二〇一七年一月二二日、トランプ大統領イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議し、来月上旬にホワイトハウスで首脳会談を行うことで一致した。メキシコのペニャニエト大統領やカナダのトルドー首相とも会談をする方針を表明。一月二七日のイギリスのメイ首相との会談を皮切りに、各国首脳と会談する姿勢を示した。

ネタニヤフ首相との電話協議ではイスラエルとパレスチの和平問題やイラン情勢について話し合ったとみられ、親イスラエルの立場を鮮明にしているトランプ氏が今後、ネタニヤフ氏との首脳会談などを通じて、イラン核合意、「イスラム国」(IS)掃討、アメリカ大使館のエルサレム移転、ユダヤ人の入植など中東の不安定問題にどのように取り組んで行くか注目される。

 

イスラエル、「入植活動」を加速、パレスチナ側強く反発

イスラエル政権は、親イスラエル路線のトランプ氏がアメリカ大統領に就任したことを受け、これまで自粛していた占領地での入植活動を再び加速する動きを見せてきた。

二〇一七年一月二二日、イスラエル政府は東エルサレムユダヤ人住宅五六六戸の入植住宅建設計画を承認した。続いて一月二四日、ヨルダン川西岸などに二五〇〇戸を建設する計画を承認した。今回の承認はネタニヤフ首相と入植推進派のリーベルマン国防相の主導によるもので一度に承認された戸数としては二年以降で最大である。ネタニヤフ首相はフェイスブックで「これからも入植活動を続ける」と強調、リーベルマン国防相も「遂に(入植活動を続ける)通常の状態に戻った」と主張した。パレスチナ側は直ちに反発、パレスチナ自治政府の議長府は声明を出し、「地域に安全と安定をもたらそうとする試みへの障害であり、和平実現に向けた努力への障害だ」と強く主張した。国際社会はイスラエルによる占領地での入植建設を国際法違反とみなしている。イスラエルの入植政策を非難してきたオバマ政権下では、イスラエル政府は入植拡大を控える傾向にあった。アメリカの政権交で歯止めを失い入植地拡大がますます進められるものとみられる。

 

(八)トランプ大統領、大使館の移転について「まだ話すのは早過ぎ」と慎重

二〇一七年一月二六日、トランプ大統領アメリカ大使館のエルサレムへの移転について、メディアのインタビューに応じ、「まだ話したくない。時期尚早だ」と述べた。トランプ氏は選挙活動中、エルサレムへの移転を約束していたが、現況からの判断か事実上の後退ともとれる発言とみられる。トランプ氏が大使館問題についてメディアに対して言及したのは大統領就任後初めてである。大統領報道官も先に「(移転の)議論はまだ初期の段階にある」と述べており、大使館問題は慎重に進められているようだ。

 

(九)トランプ大統領、イギリスのメイ首相と会談、大統領就任後外国首脳と初

二〇一七年一月二七日、トランプ大統領ホワイトハウスでイギリスのメイ首相と首脳会談を行い、両国の通商協定や「イスラム国」掃討などめぐり協議した。これまで両国は「特別な関係」と形容されてきている。トランプ大統領は会談後の共同会見で、「イギリスとの絆を新たにした」とし、今後も関係強化に取り組む考えを示した。大統領就任後にトランプ氏が外国首脳と会談したのはメイ首相が初めてである。

 

(一〇)トランプ大統領、テロ対策などで「入国禁止の大統領令」に署名

二〇一七年一月二七日、トランプ大統領イスラム過激派などのテロリストの入国を阻止するためとして、全ての国からの難民の受け入れを一二〇日間停止する。また、難民以外の外国人も、イスラム教徒が多数を占める七カ国(シリア、イラク、イラン、リビアソマリアスーダン、イエメン)からの入国を九〇日間禁止するとした大統領令に署名した。この大統領令の波紋は、アメリカ国内の司法や国際関係に大きな混乱をもたらす危険を孕んでいると懸念された。

 

(一一)パレスチナの中東和平交渉責任者、アメリカ大使館の移転を強く牽制

二〇一七年一月二八日、パレスチナの中東和平交渉の責任者でPLO事務局長のアリカット氏はCNNの取材に対し、「トランプ政権がアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた場合、イスラエルの国家承認を取り下げる」と言明した。「アメリカが東エルサレムは(イスラエルに)併合されたと言うなら、我々はいかなる状況でもイスラエルを国家として認めない」と断言。また(大使館の)移転はアメリカがパレスチナイスラエルの「二国家共存は死滅したと認めたことに等しい」とも述べ、アメリカ大使館のエルサレム移転を強く牽制した。

 

一二)ネタニヤフ首相、「各国大使館は首都エルサレムへ」と改めて強く言及

アメリカ大使館のエルサレム移転について、トランプ大統領が「時期尚早」と述べたと報道されている中、イスラエルのネタニヤフ首相は「エルサレムへ移転を」と強く主張している。

二〇一七年一月二九日、ネタニヤフ首相は閣議で「アメリカ大使館はここエルサレムにあるべきだ。これは今も昔も私たちの立場だ」と強調。「エルサレムイスラエルの首都だ」として、「アメリカ大使館だけでなく、すべての大使館はここに来るべきだ。そのうち、ほとんどの大使館が来るだろう」と強い期待を込めてこれまで以上に熱を込めて語り、来月のワシントンで予定されるトランプ大統領との首脳会談を前に大使館の移転を改めて強く求めた。

 

一三アメリカのペンス副大統領、ヨルダンのアブドラ国王と会談

二〇一七年一月三〇日、アメリカのペンス副大統領はヨルダンのアブドラ国王とワシントンで会談した。ホワイトハウスによると、イスラエルにおけるアメリカ大使館の移転問題を含め起こりうる変化について国王の見解や和平に向けての最善策などについて協議したという。アブドラ国王は、一方的にアメリカ大使館を移転することはイスラム教徒による強い反発が予想されると懸念を持ち、エルサレム旧市街地はかってヨルダン領で、エルサレムにあるイスラム教の聖地「ハラム・アッシャリーフ一帯の維持管理など管理権をヨルダンが持つことから、こうした現地の警戒感を伝えたとみられる。

 

一四イスラエルユダヤ人入植活動をさらに強化

二〇一七年一月三一日、イスラエルのネタニヤフ首相とリーバーマン防相ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地で新たに三〇〇〇戸の住宅を建設する計画を発表した。先週、過去最大級規模の二五〇〇戸の住宅建設計画が承認されたばかりであり、入植者団体や連立政権の右派がさらに一段上の住宅建設を強硬に求めている。リーバーマン氏はフェイスブックを通し西岸地区に「本来の生活」が戻りつつあると述べ、入植活動をさらに進展させる姿勢を示した。

国際社会はイスラエルが入植計画を強めてきたことに「和平交渉再開はさらに困難になった」として懸念を強めている。

 

一五アメリカ、イランのミサイル発射実験に報復の追加制裁

二〇一七年二月一日、アメリカのフリン大統領補佐官は、先月二九日にイランが弾道ミサイルの発射実験を行ったことに対し記者会見で「イランに公式に警告した」と述べた。

二月二日、トランプ大統領はイランのミサイル実験に対し「イランは正式に(アメリカの)警告下にある」とツイッターで非難した。トランプ氏はもともとイランを「テロ支援国家」として敵視し、オバマ前大統領がまとめた核合意を強く批判。大統領選では核合意の破棄を訴えていた。

イラン側はアメリカへの反発を強めている。ロイター通信によると最高指導者ハメネイ師の側近は、トランプ氏を念頭に「経験の浅い(未熟な)人物がイランを脅迫するのは初めてではない」と指摘。「アメリカ政府はイランへの脅しは無意味だと理解するだろう。イランは自衛することにどこの国の許可も必要としない」と語り、アメリカの脅しには屈しないとの立場を強調した。また、「実験は防衛目的であり、核弾頭を搭載できる仕様ではなく、核合意に違反しない」と主張した。

二月三日、トランプ政権はミサイル発射実験を行ったイランへの報復措置として、追加制裁の実施を発表した。ミサイル開発やテロ組織への支援に関与した一二団体と個人一三人が対象だという。

 

一六アメリカ、イスラエルの入植地建設強化に懸念を表明

アメリカ、中東和平やユダヤ人入植地建設に関する声明発表

二〇一七年二月二日、トランプ政権のスパイサー大統領報道官は中東和平やユダヤ人入植地建設に関する声明を発表した。声明では、イスラエルが占領するヨルダン川西岸パレスチナ自治区などに建設した現存の入植地は許容するとしても、「新たな入植地の建設や拡大は(和平という)目標到達の助けにはならない」と懸念を表明した。声明は「政権として入植活動について、公式な立場は(まだ)示していない」とした上で、イスラエルに対し、事実上、新たな建設や拡大は自制するように求めている。トランプ政権が入植地に関し声明で見解を示したのは初めてであり、現地関係者を中心に大きな反響を呼んでいる。入植地活動に批判的なニューヨークに本部があるユダヤアメリカ人組織「イスラエル・ポリシー・フォーラム」のコプロウ代表はハーレツ紙の取材に、声明は「心強い内容だ」と評価している。その上、ネタニヤフ氏は入植地拡大を強力に推進しようとしているのではなく、「穏便な現状維持」であり、連立政権内強硬右派からの「政治的プレッシャー」を回避する力を与えるだろうと分析している。また、アメリカの前駐イスラエル大使のシャピロ氏はツイッターで、「(声明は)長年のアメリカの方針の一環である」と指摘。今回あえて声明を出したのはネタニヤフ氏が「(入植推進を求める)強硬右派の圧力を抑止するため、トランプ氏からの(入植地の新たな建設を牽制する)プレッシャーを求めているからではないか」と記している。一方、イスラエルのハーレツ紙は、トランプ政権が入植地拡大を無条件に支援すると期待していたイスラエルの右派が声明に「驚き、失望した」と報じた。イスラエルの政権内の極右を中心に入植推進派の声は大きい。

 

トランプ大統領イスラエルの入植活動に自制を求める

二〇一七年二月一〇日、トランプ大統領はネタニヤフ首相との会談を数日後に控え、イスラエル紙のインタビューに応じ、「(和平交渉について)合意に達することは可能だ」と述べ交渉仲介に意欲を示した。その上で、「(入植地の拡大は)和平の助けにならない」との認識を示し、「分別を持ってほしい」とイスラエルに自制を求める発言をした。また「イスラエルの批判はしたくない」とも述べ、親イスラエルの姿勢をも示した。

 

一七)ネタニヤフ首相、トランプ大統領と会談のためアメリカへ

ネタニヤフ首相がトランプ大統領との首脳会談に臨むためアメリカを訪れた。トランプ大統領が同盟国イスラエルの首相を迎えて、当面のアメリカ大使館の移転問題を含め「中東和平に対する根本的な姿勢」をどのように示すか。親イスラエルトランプ大統領の発言に国際社会は大きな関心を持って注視した。

 

(一八)トランプ大統領、共同記者会見で「二国家共存にこだわらない」と発言

二〇一七年二月一五日、トランプ大統領とネタニヤフ両氏はホワイトハウスで共同記者会見をした。

トランプ氏は「(イスラエルパレスチナ)双方が話し合い、和平に繋がるのであれば、二国家共存でも、一国家でもどちらでもいい。私はこだわらない」と述べ、「双方が最も良いとした方で結構だ」との意向を表明した。

歴代アメリカ政権は「二国家共存」を支持して仲介役を果たし、これが唯一の中東和平の解決策だとして来ただけに、「二国家共存にこだわらない」との発言はアメリカの中東和平政策の転換を意味し、イスラエル寄りの姿勢をより鮮明にしたものとみられる。反面、アメリカ自らが堅持してきた和平の大原則を後退させるものだとも受け止められた。

 

(一九)トランプ大統領の「二国家共存にこだわらない」との発言、大きな反響

トランプ大統領の「二国家共存にこだわらない」との発言に反響は大きい。

 

ネタニヤフ首相はトランプ発言を歓迎

ネタニヤフ首相は「トランプ氏ほどの(ユダヤ人とユダヤ人国家の)支持者はいない」と自らの立場を理解解してくれたと称賛し、トランプ氏の発言を歓迎した。イスラエル国内の右派勢力も一様に歓迎の姿勢を示した。

 

パレスチナ側は、どこまでも「二国家共存」を強く主張

アッバス議長は、「二国家共存を拒む和平実現は不可能だ。我々はこの原則に基づきパレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの平和共存を目指していく」とする声明を出し、あくまで「二国家共存」による解決への姿勢を示した。その上で、アメリカの支持を改めて強調。「和平実現に向けてトランプ政権と積極的に関わる用意がある」と述べた。トランプ大統領の声明にはあからさまな反発は見せず、トランプ政権の今後の出方を様子見しつつ解決に努めたい考えを示した。パレスチナの和平交渉責任者のアリカット氏は、アメリカの中東和平政策の転換に、「二国家共存の和平案を葬り、パレスチナ国家を抹殺するものだ」と非難した。

 

アメリカ国内での反応

アメリカ国内おいても大統領の発言に国務省の担当者さえ驚いたとも伝えられ、「中東政策もトランプ流」だと評された。またアメリカのヘイリー国連大使はトランプ発言の翌日、「二国家共存を支持する」と発言し注目を浴びた。ヘイリー氏は中東情勢をめぐる国連安全保障理事会の会合に出席後、記者団のインタビューに応じ、歴代アメリカ政権の基本路線を踏襲する「二国家共存を(トランプ政権も)アメリカも支持する」「揺るがない」と強調し、イスラエルパレスチナが協議の席に着く方法を「従来型にとらわれず、新鮮な点で考える」と述べた。

 

(二〇)アラブ連盟諸国、改めてパレスチナ国家樹立、二国家共存支持を主張

二〇一七年二月一六日、アラブ連盟のアブルゲイト事務局長はグテレス国連事務総長とカイロで会談後声明を出し、「(パレスチナ国家樹立による)二国家解決が必要だ」と指摘した。

二月二一日、エジプトのシシ大統領とヨルダンのアブドラ国王はカイロで会談し、「パレスチナ国家の独立」と「二国家共存」を目指す方針を改めて確認した。イスラエルとの関係が深い両国が歩調を合わせ、「単一国家」案に反発した形となった。また、エジプト大統領府によると両首脳は中東和平交渉の行き詰まりを打開するため、トランプ政権を含めて連携していくことで合意し、一九六七年の第三次中東戦争前の境界線に基づき、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を樹立する方針を確認した。

 

二一トランプ大統領アッバス大統領に「アメリカ訪問」を招請

二〇一七年三月一〇日、トランプ大統領は大統領就任後初めてパレスチナ自治政府アッバス大統領と電話会談し、アッバス大統領のホワイトハウスへの早期公式訪問を招請した。ホワイトハウスの発表によるとトランプ氏は、「和平は中東地域のみならず世界情勢にも大きく影響する。そのためにはイスラエルパレスチナによる直接交渉が必要でありアメリカも交渉に関与していく」との姿勢を明確にし、交渉促進向け仲介努力に強い意欲を表明。「和平は可能であり、合意を結ぶべき時が来た」と述べた。一方、アッバス大統領の報道官によるとアッバス氏は、「イスラエルと共存するパレスチナ国家を樹立するため和平に尽力する」と応じ、「二国家共存」の実現を目指す考えを強調した。

 

(二二)ネタニヤフ首相とアメリカ外交特別代表、「中東和平」について会談

二〇一七年三月一四日、イスラエル首長府はネタニヤフ首相とトランプ政権で外交交渉の特別代表を務めるジェイソン・グリーンブラット氏がエルサレムで会談し、中東和平やイスラエルユダヤ人入植政策などについて協議したと発表した。両氏は五時間にも及び熱心に会談。パレスチナ和平やイスラエルユダヤ人入植政策を協議し、「和平と治安の実現という目標に向かった方策」を探り、「イスラエルパレスチナの真の永続的な和平を実現するため、共に尽力すること」を再確認したという。グリーンブラット氏は同じ三月一四日、パレスチナ自治区ラマラでアッバス議長とも会談した。

 

(二三)イスラエル軍機、シリア空爆国間関係緊張

二〇一七年三月一七日未明、イスラエル軍機がシリアの複数の目標に攻撃を加えた。シリア側も地対空ミサイルで応戦した。イスラエル側はシリア国内のイスラムシーア派原理主義組織ヒズボラが標的であったとするが、ここ数年来で二国間の最も深刻な事態となった。

三月十九日、イスラエルリーベルマン国防相は、「シリアがまた我が国の航空機に対し防空システムを使ったら、次はためらうことなくシステム全体を破壊する」と述べ、次回に同じような動きがあれば直ちに報復すると警告した。

 

(二四)ペンス副大統領、「トランプ大統領は大使館移転を真剣に検討している」

二〇一七年三月二六日、アメリカのペンス副大統領は、ワシントンで開催された親イスラエルロビー団体アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の会合で演説し、「(トランプ)大統領はテルアビブにあるアメリカ大使館のエルサレムへの移転を真剣に検討している」と述べた。トランプ氏は、大統領選で「移転」を公約していたが、パレスチナアラブ諸国の猛反発もあり大統領就任後は「時期尚早だ」と述べるなど、実行するかどうか明言を避けている。

 

(二五)アラブ連盟首脳会議、「二国家共存」を支持、和平交渉の再開を求める

二〇一七年三月二九日、アラブ連盟(二一カ国・一地域)の首脳会議がヨルダンの死海沿岸の地で開催された。会議ではイスラエルと将来のパレスチナ国家の「二国家共存」を支持し、和平達成の期限を設けた上での中東和平交渉の再開を求める共同宣言を採択した。また、トランプ政権が検討中とする大使館の「エルサレム移転」計画を念頭に「世界各国が自国の大使館をエルサレムに移転したり、エルサレムイスラエルの首都と認めたりしないように求める」と訴えた。

アラブ連盟は、二〇〇二年の首脳会議でサウジアラビアから提案された対イスラエル包括和平案、①イスラエルが一九六七年の第三次中東戦争で占領した土地から撤退し、②パレスチナ国家の樹立を受け入れれば、③アラブ連盟諸国がイスラエルとの関係を正常化するとした「アラブ和平イニシアティブ」を採択している。今回の共同宣言はこの方針を再確認し、二国家共存に基づく和平がアラブ世界の戦略的選択であるとした。

首脳会議でアッバス議長は「二国家共存は和平を達成する唯一の解決策だ」とし、「イスラエルの占領地への入植活動の拡大が共存による解決の土台を崩している」と訴えた。イスラエルと国交もあり、会議の主催国のヨルダン国王も、「二国家共存による解決なくしてこの地域の平和と安定はない」と強調した。

首脳会議では共同宣言のほか、シリア内戦の政治的解決、過激派組織「イスラム国」(IS)対策、リビアの安定化などが協議された。

なお、首脳会議の前日の三月二八日、アラブ連盟の外相らはパレスチナ問題に関し協議した。「二国家共存」による解決案の支持、在イスラエルアメリカ大使館のエルサレムへの移転案に反対、一九六七年の占領域の返還、入植地拡大反対、イランのアラブ諸国への介入反対などを表明した。

 

(二六)イスラエル安全保障閣議、入植地の「新規建設」を承認

イスラエルユダヤ人入植活動は終わることがない。

二〇一七年三月三〇日、イスラエルの安全保障閣議ヨルダン川西岸にユダヤ人入植地を新たに建設することを全員一致で承認した。イスラエルは入植の拡大計画を続けてきたが新規入植地の建設は過去二〇年以上にわたり行ってこなかった。新入植地は二月に最高裁の命令に基づき西岸の無許可入植地アモナの強制撤去を実施した対象住民らの受け地にもするという。

 

(二七)トランプ大統領、エジプトのシシ大統領と初会談

二〇一七年四月三日、トランプ大統領ホワイトハウスでエジプトのシシ大統領と初の首脳会談をした。

テロ対策での協力強化を確認し、オバマ政権下で冷え込んでいた両国関係の改善を強調した。トランプ氏はシシ氏を手厚くもてなし、シシ氏に対し「アメリカは非常に良き友で同盟国だ。私自身もそうだ」と述べ、さらに「シシ氏は非常な難局に素晴らしい仕事をしてきた」と讃えた。シシ氏もトランプ氏が「対テロで断固とした態度をとっている」と称賛し、「エジプトと私は効果的なテロ対策で(アメリカと)協力する」「問題の解決に向けて(トランプ氏を)非常に強く、熱烈に支持する」と語った。

ホワイトハウスによると両氏は中東和平について、永続的な平和に向かうようにイスラエルパレスチナを支援していくことが、アメリカ、エジプト両国の「共通の利益」になると確認したという。

 

(二八)イスラエル刑務所収監のパレスチナ人受刑者、ハンガーストラキ始める

イスラエルパレスチナの交渉の中で、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人受刑者の解放の問題がある。現在、数か所の刑務所に六五〇〇人程のパレスチナ人が収監されているという。

二〇一七年四月一七日、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人受刑者一〇〇〇人以上がハンガーストライキを開始したとパレスチナ自治政府が明らかにした。今回のストライキはマルワン・バルグーティー受刑者が「パレスチナ人受刑者の日」に合わせて呼び掛けたものだという。バルグーティー受刑者は、第二次インティファーダの際に対イスラエル攻撃に関与したとして二〇〇二年に逮捕され終身刑を言い渡され服役している。若くしてファタハの闘士となり国会議長の経験もあり、自治政府議長選挙に出馬すれば勝利するとの予想もあるほどパレスチナでは人気の高い指導者である。

 

(二九)トランプ政権、シリア内戦でのアサド政権側を非難

二〇一一年に起きたシリア内戦はさらに混迷を深めつつ、今年で七年目となる。ロシアやイランへの依存を高めるアサド政権は過去一年、反体制派の都市部の拠点を次々に奪還して優位に立ってきた。

二〇一七年四月四日、アサド政権側がシリア北部で住民側に化学兵器を使用し、多数の死傷者が出たとされる疑義が浮上した。トランプ政権は、(アサド政権側が)化学兵器を使用したことに関し、「(アサド政権は)いくつもの一線を越えた。このような極悪な行為を看過することはできない」と非難した。トランプ大統領は「(私の)シリアとアサド政権に対する考えは大きく変わった」と述べた。

 

(三〇)トランプ政権、中東関与を強めイラン包囲網の構築に動く

トランプ政権は、前オバマ政権下で二〇一五年七月に合意された「イラン核合意」の見直しに乗り出した。「核合意」についてトランプ大統領は選挙中から「史上最悪の取引」と指摘し、見直しを公約している。またティラーソン国務長官も「核保有国になる」というイランの目標達成を遅らせるだけに過ぎないと酷評している。マティス国防長官もサウジアラビア、エジプト、イスラエルなど中東五カ国を歴訪し、アラブ諸国との希薄化している関係の修復を急ぎ、イラン包囲網の構築を探っていくなどトランプ政権は「対イラン」で中東との連携の動きを強めている。

 

(三一)ハマスが新綱領発表、対イスラエル姿勢軟化を示す

二〇一七年五月一日、ガザ地区を実効支配しているハマスは、これまでのイスラエル領を含むパレスナ全領土を取り戻すとした一九八八年のハマス憲章よりも、イスラエルへの対決姿勢を軟化させた内容の新たな綱領を発表した。新綱領は、国際的に認知されている一九六七年の第三次中東戦争前のイスラエルとの境界線を認める姿勢を示し、八八年の憲章よりも対決姿勢を抑え、パレスチナ国家の建設を受け入れたものとなっている。また紛争について、ユダヤ人に対する宗教戦争ではなく、また闘争する相手はユダヤ人全体ではなく、ユダヤ人国家をつくるためにパレスチナを占領するユダヤ人だと説明し、対イスラエルで強硬路線から柔軟路線へと現実路線に転換する可能性を示す内容になっている。

 

(三二)トランプ大統領アッバス議長と会談へ

トランプ大統領アッバス議長と二〇一七年五月三日にワシントンで初めて会談する予定だ。親イスラエルへの姿勢を見せるトランプ大統領は就任直後の二月、(アッバス議長より先に)ネタニヤフ首相と会談している。その会談でトランプ氏は、「(イスラエルパレスチナの)二国家共存」に必ずしも固執しない姿勢を示した。またトランプ氏は今回の会談に先立ち、ロイター通信のインタビューで「イスラエルパレスチナの和平が見たい」と述べ、和平交渉の仲介に意欲を見せた。

パレスチナ内では、最近ハマスに対イスラエル「現実路線」への変化が見られる。こうした中での会談でアッバス氏は、トランプ氏と「戦略的協力関係」を構築し、中東和平実現に向けてトランプ政権が新機軸を打ち出すことを期待している。

 

(三三)トランプ・アッバス会談、トランプ大統領「中東和平仲介」に意欲

二〇一七年五月三日、トランプ大統領アッバス議長とホワイトハウスで会談し、中東和平に向けた共同声明を発表した。

共同声明でトランプ氏は、アメリカが和平実現に積極的に関与する姿勢を示し、「喜んで仲介者になる」「最後の、最も重要な和平合意に署名できるように支援したい」と強調して、中東和平交渉の仲介に意欲を示した。ただ、具体的な和平案や交渉再開などには踏み込まなかった。

これに対しアッバス氏は、「我々の戦略的選択は、二国家共存に基づいて和平をもたらすことだ」と強調。トランプ氏の「勇気ある指導力、見識、素晴らしい交渉力」に期待すると述べた上で、「歴史的な和平条約をもたらす真のパートナーになれる」と述べた。

トランプ氏はこれで、ネタニヤフ、アッバスの両氏との会談を終えた。中東和平交渉の仲介に意欲を示しているトランプ氏が、次にどのような手を打ってくるかが注目される。

今回の会談の成果を評して(和平を目指す姿勢は示されたが、和平協議の再開など具体策までの言及はなく)「今後の和平推進に期待と不安の交錯する会談であった」とする声もある。

 

(三四)トランプ大統領初外遊、サウジアラビアイスラエルなど訪問へ

二〇一七年五月四日、アメリホワイトハウストランプ大統領が今月下旬にサウジアラビアイスラエルバチカンを訪問すると発表した。五月二五日にブリュッセルで開かれる北大西洋条約機構NATO)首脳会議と二六日~二七日にイタリアのシチリア島で開かれる主要国首脳会議(G7)の出席に合わせて訪問するという。トランプ氏にとって大統領就任後初の外国歴訪で、イスラム教、ユダヤ教キリスト教の中心地を一気に訪問することになる。

サウジアラビアではサルマン国王らと会談し、イランとの核合意などをめぐりオバマ前政権下で悪化していた両国関係の修復を図る。サウジアラビアはトランプ氏の初訪問が自国に決まったことについて、「アメリカがイスラム諸国とパートナーシップを結べるという非常に明快なメッセージだ」(ジュベイル外相)と歓迎。この機にアラブ及びイスラム諸国の首脳らを招き「核合意問題」「イスラム国」(IS)への対応などについてトランプ大統領と話し合うという。またトランプ氏の訪問は聖地メッカを擁する「イスラム教のスンニ派の盟主」としての威信を内外に誇示する絶好の機会だとしている。

イスラエルでは、対イラン問題、中東和平問題が主要議題となるが、アメリカ大使館のエルサレムへの移転ついての言及が注目される。さらにパレスチナではアッバス議長らとの会談が予定されるという。「二国家共存」に対するトランプ氏の真意がどのような形で示されるか、中東政策が揺れている中での訪問に各国は動向に注視する。

バチカンではローマ法王との会談が予定されている。

 

(三五)ハマス、新指導者にハニヤ氏を選出、孤立解消の「現実路線」へ転換か

二〇一七年五月六日、ハマスは最高評議会を開催し、新指導者となる政治局長に任期満了となったメシャル氏の後任としてイスマイル・ハニヤ氏を選出した。ハニヤ氏は二〇〇六年にパレスチナ自治政府の首相になった経歴を持つ。中東和平の実現にはパレスチナ内部の対立解消が先だとの意見もある中で、ハマスは先日「新綱領」を発表した。ハニヤ氏は孤立を解消する「現実路線」を取るとの見方も出ている。

 

(三六)イスラエルアラビア語公用語から外す法案を閣議決定

二〇一七年五月七日、イスラエル政府は閣議で、自国を「ユダヤ人の民族的郷土」と定義し、アラビア語公用語から外すとする法案を承認した。イスラエル人口の約一八%はアラブ系住民だという。アラビア語公用語でなくなった後の諸対応に懸念の声がある。

 

(三七)アッバス議長、「ネタニヤフ首相と会う用意がある」と発言

二〇一七年五月九日、アッバス議長はトランプ大統領が近くサウジアラビアイスラエルを訪問する際パレスチナ自治区へも訪問するとの期待感を示し、トランプ氏による中東和平の取り組みの一環として、自身もイスラエルのネタニヤフ首相と会う用意があるとの考えを示した。

 

三八プーチン大統領、和平交渉への仲介意欲

トランプ大統領が中東和平仲介に意欲を示す中、ロシアも交渉の再開を目指して影響力の保持を図る方針である。

二〇一七年五月一〇日、プーチン大統領はネタニヤフ首相と電話会談し、中東和平やシリア問題について協議した。翌五月一一日にはロシア南部のソチでアッバス議長と会談した。プーチン大統領は昨年九月、ネタニヤフ首相とアッバス議長の直接対話をモスクワで開催することを提案し双方の了承を得たが、直前になってネタニヤフ氏の延期の主張により、実現しなかったという。

 

(三九)イラン大統領選、ロウハニ師が再選

二〇一七年五月一九日、イランの大統領選挙において保守穏健派で現職のハッサン・ロウハニ師が、保守強硬派のイブラヒム・ライシ前検事総長を破り当選した。影響力を増すイランは中東に安定をもたらすのか、危機を強めるのか。核合意による制裁解除で国際社会への復帰が期待される一方、その軍事的台頭にアメリカやその周辺国が警戒を強める。二期目のロウハニ政権の行く手は厳しい。

 

(四〇)トランプ大統領、中東・欧州歴訪

二〇一七年五月一九日、トランプ大統領サウジアラビアイスラエルなどの歴訪に出発した。

 

サウジアラビア

最初の訪問国、サウジアラビアの首都リヤドに到着、サルマン国王らの出迎えを受けた。

五月二一日、トランプ大統領は、リヤドで開催されたイスラム諸国五〇カ国以上の首脳らが出席した国際会議で演説した。イスラム教を「世界で最も偉大な信仰の一つ」と呼び、テロや過激主義に立ち向かう必要性を訴えた上で、この闘争は「異なる信仰や、宗教、文明間の戦いではない。善と悪との戦いだ」と強調。過激派組織「イスラム国」(IS)などを念頭に、「テロリスト、過激派を駆逐せよ」と連携と共闘を呼びかけた。また、中東諸国は「アメリカの力を待つのではなく、自分たち国のため子供たちのために、どのような未来を望むのか、自力で決めなければならない」と述べ、それぞれの国による取り組みを促した。

なお、アメリカ政府はイランの脅威に対抗するため、サウジアラビアへ一一〇〇億ドル(約一二兆円)にのぼる巨額の防衛用兵器を売却することを発表。トランプ大統領とサルマン国王は会談し、武器売却契約に署名した。

 

イスラエル

五月二一日、ネタニヤフ首相はトランプ大統領イスラエル訪問を翌日に控え、イスラエル第三次中東戦争で東エルサレムを占領してから五〇周年を祝う式典で演説し、「エルサレムは、これまでもこれからも、常にイスラルの首都だ」と述べた。また、「神殿の丘」と「嘆きの壁」についても「今後も常にイスラエルの主権の下にある」と言明した。トランプ大統領は二二日にイスラエルを訪問し、「嘆きの壁」を訪れる予定がある。

五月二二日、トランプ大統領イスラエルに入った。空港でネタニヤフ首相らの歓迎の出迎えを受けた後、リブリン大統領と会談した。

ネタニヤフ首相との会談では、対イラン問題や中東和平問題について話し合われた。トランプ氏はイランについて、(一九一五年に結んだ)核合意によってイランが「強気になった」との認識を示し、「イランに富と繁栄を与えてしまった。アメリカにとってはひどいものだ」と述べ、「イランに決して核兵器を持たせることはない。断言する」と主張し、イランの核開発を阻止する姿勢を重ねて強調した。中東和平については中断している交渉の再開に向けた仲介に積極的に役目を買って出る意向を改めて表明した。トランプ氏は会談前に「嘆きの壁」を現職大統領として初めて訪れ、壁に手をついて祈りを捧げ、親イスラエルの姿勢をアピールした。会談後には「イスラエルとの壊れることのない絆を再確認した」と語り、「(中東和平は)最も難しいディール(取引)だと聞いている。だが、最後には達成できると感じている」と展望を述べた。

 

パレスチナ

五月二三日、トランプ大統領パレスチナ自治区ベツレヘムアッバス議長と会談した。会談後の記者会見でトランプ氏は「和平実現に向け私にできることはすべてやる」と仲介への意欲を重ねて示した。また、「和平を進めるには暴力を止めよ」「暴力を容認したり、資金を援助したり、報いたりする環境には、和平は決して訪れない」と述べ、パレスチナ全体で暴力やテロを支援する行為を断つよう課題を示した。

アッバス氏は和平再開によるパレスチナ国家の建設、その際の国境を第三次中東戦争前の境界に基づくこと、パレスチナの首都は東エルサレムにすることなどを改めて求めた。またイスラエルに収監されているパレスチナ囚人の待遇問題などにも詳しく言及し、イスラエルの「占領」を批判。アメリカのイスラエルへの対応に期待を寄せた。

トランプ氏は、中東を離れる直前にエルサレムイスラエル博物館で演説した。「アラブ諸国イスラム圏とともに、安定や安全をもたらす協力関係を構築する」と述べ、「和平実現は簡単ではない」と認めた上で、「双方が厳しい判断を迫られるだろう。しかし、決意と歩み寄り、和平は可能なのだという信念があれば、イスラエル人とパレスチナ人は合意に至れるはずだ」と力説して、中東訪問を締めくくった。博物館での演説を終えたトランプ氏は次の訪問国バチカンに向かった。

 

バチカン

五月二四日、トランプ大統領バチカンを訪れ、ローマ法王フランシスコと会談した。法王はトランプ氏に平和の象徴とされるオリーブの木の彫り物と環境保護の重要性について記した書物を贈呈し、「この木のように平和をつくってほしい」などと要請。また地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への残留を促した。トランプ氏はパリ協定の扱いについてはなお検討中との認識を表明。「私たちは平和の力を使うことができます。あなたの言葉は忘れません」と語り、法王に黒人指導者マーチィン・ルーサー・キング牧師の著書を贈呈した。

トランプ氏はバチカン訪問で予定通り三宗教のゆかりの地を同時に訪れたことになる。

 

北大西洋条約機構NATO)首脳会議と主要国首脳会議(G7

バチカン訪問を終えたトランプ大統領は、二五日にブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構NATO)首脳会議、二六日~二七日にイタリア南部シチリア島タオルミナで開かれた主要国首脳会議(G7)に出席した。

五月二七日、九日間にわたる中東、欧州の歴訪を終え帰国したトランプ大統領は、「各国首脳との絆を深める旅だった」と述べ、歴訪の旅の成果を総括した。

 

四一イスラエル、東・西エルサレムを結ぶロープウェーの建設を決める

二〇一七年五月二八日、イスラエル政府は、ユダヤ人が多く住む西エルサレムからアラブ系住民の多い東エルサレムの旧市街を結ぶロープウェーの建設を閣議で決定した。ロープウェーは全長一・四キロメートルで「嘆きの壁」に近い糞門に駅を設けるという。パレスチナ側の反発や国際社会からの批判を招くのは必至とみられる。

 

四二トランプ大統領、大使館のエルサレム移転の「半年先送り」指示

二〇一七年六月一日、トランプ大統領イスラエルにあるアメリカ大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を六カ月延期する指示書に署名した。トランプ氏は大使館移転を公約にしており、その判断が注目されていた。ホワイトハウスは声明で「中東和平交渉の成功の可能性を最大限にし、アメリカの安全保障上の利益を守るためだ」と理由を説明し、「単に時期の問題で移転方針そのものは変更しない」としている。

この決定にイスラエルの首相府は、「落胆した」と反発した上で将来の移転を期待した。一方、パレスチナ側は「移転は和平交渉を瓦解させるものだ」と長年警告をしており、「延期の決定は和平にチャンスを与えるものだ」と一定の評価をした。

 

四三サウジアラビアやエジプトなどアラブ四カ国、カタールと断交

二〇一七年六月五日、サウジアラビアとエジプト、バーレーンアラブ首長国連邦(UAE)はカタールとの国交を断絶すると発表した。各国は「カタールがテロ組織を支援している」と主張し、安全保障上の措置だとしている。「アラブの春」以降、パレスチナのガザの窮状支援に手を差し伸べるべきだという活動を進めていたカタールは、国交を断つとの措置に「事実に基づかない不当な措置だ」と反発している。この断交により空路は大混乱し経済活動にも影響が出てきた。

六月六日、トランプ大統領は、サウジアラビアのサルマン大統領に電話し、ペルシャ湾岸諸国が団結することが重要だと呼びかけた。

六月一三日、トルコのエルドアン大統領は、「カタールを孤立させることは残酷で、イスラムの価値観に反する大きな過ちだ」と断交した国々を批判し、カタールを支持する姿勢を示した。

 

四四ハマスガザ地区実効支配から一〇年、パレスチナ内紛解消なるか

ガザがハマスの実効支配に入って一〇年、ガザの苦悩

二〇一七年六月一四日、パレスチナ自治区ガザ地区イスラム原理主義組織ハマスの実効支配下に入ってから一〇年になる。この間、イスラエルとの数度にわたる大規模な交戦、イスラエルによる封鎖策、パレスチナの内紛での政治経済の荒廃などにより、ガザ地区の市民生活は落ち込んでいる。さらにカタールアラブ諸国との断交問題も影を落とす。ハマスにとってカタールは強力な後ろ盾だが、サウジアラビアなどは「カタールハマスなどテロ組織を支援している」と非難。今回の断交問題はガザの市民の暮らしに新たな打撃となっている。ガザの苦悩は続いている。

 

パレスチナ内紛の解消は

ガザ地区の現状は実に厳しい。だが、少し明るさも見えてきた。ハマスは先に新綱領を発表し対イスラエル政策に軟化の姿勢を示し、また、新指導者にも現実路線を取るであろうハニヤ氏を選んでいる。近々パレスチナ内でのファタハとの関係も改善される協議が始まる気配だ。和平交渉が進展するためにもファタハハマスの対立解消が何よりも先に必要だと指摘される。

 

四五イスラエルヨルダン川西岸で新たな入植地建設開始、パレスチナ反発

二〇一七年六月二〇日、イスラエル政府は、ヨルダン川西岸のラマラ北部のシロ入植地の近くで、新たなユダヤ人入植地の建設を始めた。新入植地の建設ついてはは本年三月、安全保障閣議で承諾を得ているもので一九九二年以来二五年ぶりだという。

入植の進む状況を批判し続けているパレスチナは、今回の新たな入植地の建設に猛反発。アッバス議長は声明で、「(和平交渉の仲介に意欲を示している)トランプ大統領の努力を妨害する行為だ」と反発している。

 

四六アラブ諸国カタールに「関係正常化条件」を示すがカタールは拒否

二〇一七年六月二二日、サウジアラビアなどアラブ諸国は断交したカタールに対し、関係正常化の条件として一三項目の要求を示し、一〇日以内に対応を求めた。主な要求は「イランとの外交関係縮小」、「(サウジに批判的なカタールの)衛星テレビ、アルジャジーラの閉鎖」、「(ムスリム同胞団アルカイダヒズボラなど)テロ組織との関係断絶」、「(カタールにある)トルコ軍基地の閉鎖」、「賠償金の支払い」などとしている。

七月二日、アラブ諸国の求めた一〇日間が過ぎる。カタールにとってはアラブ諸国の示す条件は厳しいもので到底受け入れられない。アラブ諸国カタールが要求を拒否したのを受け、七月二日の期限を二日間(四八時間)延長し、カタールの譲歩を待った。この日、トランプ大統領サウジアラビアのサルマン国王やカタールのタミム首長と電話で協議し、断交問題への懸念を表明した。ただ、カタールには中東で最大のアメリカ軍基地がある一方、以前からサウジ寄りの姿勢であるトランプ氏の仲介の効果は弱い。

七月五日、アラブ諸国カタールとの国交を断交して一カ月となるが関係は好転しない。アラブ諸国はカイロで外相会議を開き、「カタールは否定的な返答しかしていない」と非難。関係を断絶した状態を今後も続けていくと言明し、追加制裁に踏み切る考えを示唆した。断交の長期化は避けられない情勢だ。

トランプ大統領は、エジプトのシシ大統領と電話会談し、サウジアラビアなどがカタールと断交した問題の解決の向け、全関係国による協議を継続する必要があると訴えた。

 

(四七)ユネスコ、「ヘブロン旧市街」をパレスチナ世界遺産に登録へ

パレスチナ自治区ヘブロンにはイスラム教で「アブラハム(イブラヒム)・モスク」、ユダヤ教でマクペラの洞窟」などがあり、イスラム教、ユダヤ教共通の聖地がある場所とされている。

 

ユネスコヘブロン旧市街をパレスチナの遺産と分類し、世界遺産に登録へ

二〇一七年七月七日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)はヘブロン旧市街をイスラム教、ユダヤ教キリスト教を加えた「三つの宗教の巡礼地」などとし、紛争や災害などからの保護が必要な「危機遺産リスト」に入れ、パレスチナの遺産として分類し世界遺産に登録すると決めた。

 

イスラエルは猛反発

イスラエルユネスコが「ヘブロン旧市街」をパレスチナの遺産に分類したことについて、「ここはユダヤ人の祖先の墓のある聖地だ。ユダヤ教徒との関わりが考慮されていない」と強く反発。ネタニヤフ首相は、「ユネスコの新たな妄想的な決定だ」と猛反発し、国連への拠出金を一〇〇万ドル減らすと決めた。

 

(四八)イラク、「イスラム国」(IS)支配のモスル解放を宣言

過激派組織「イスラム国」(IS)対策も中東地域問題の大きな課題だ。

二〇一七年七月九日、イラクのアバディ首相は声明を発表し、二〇一四年六月に「イスラム国」(IS)が制圧し、イラク最大の拠点として支配した北部モスルの解放を宣言した。「イスラム国」(IS)打倒を最優先課題の一つに掲げ、イラクを支援してきたアメリカや国際社会にとっても大きな戦果となる。モスル奪還を追い風に「イスラム国」(IS)掃討への攻勢は一段と高まっていく。

 

(四九)エルサレム旧市街で銃撃事件、イスラエル警官二人死亡

二〇一七年七月一四日、エルサレムの旧市街のハラム・アッシャリーフ(ユダヤ教の呼称「神殿の丘」)入り口付近で、アラブ系イスラエル人の男三人がイスラエル警官を銃撃し、警官二人が死亡、一人が負傷した。実行犯は射殺された。エルサレムで死傷者が出る衝突事件はここ数年相次いで起きているが銃による襲撃は稀である。事件を重大視したイスラエル政府は敷地一帯を封鎖し、金曜礼拝を休止した。イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府アッバス議長は事件を受け直ちに電話で協議した。ネタニヤフ首相は「敷地の治安を守るため、必要な全ての措置を取る」と表明し、アッバス議長は「聖なる敷地、祈りの場での事件であり暴力に対する拒絶と非難」を表明し、双方が非難した。

 

(五〇)イスラエル側が聖地入り口に金属探知機設置、パレスチナ側強く反発

二〇一七年七月一六日、イスラエル側は「神殿の丘」の入り口付近に検問所を設け金属探知機を設置、敷地内で礼拝をする際、ここを通ることとし警備を強化した。パレスチナ側は強く反発している。

 

(五一)フランスのマクロン大統領、和平交渉再開に向け「努力する」と発言

二〇一七年七月一六日、フランスのマクロン大統領はパリの大統領府でイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、中東和平交渉の再開について「あらゆる外交努力をする」と約束した。ただし、イスラエルが進めるユダヤ人の入植活動については「交渉再開や和平の妨害になってはならない」と注文を付けた。マクロン氏は記者会見で、将来的にイスラエルと独立したパレスチナの「二国家共存」を目指す従来の立場と変わりがないことを強調しつつ、「エルサレムを首都として国境を画定し、両国が隣り合って暮らせる解決を導きたい」とした。一方、ネタニヤフ首相は、中東の紛争が解決しないのは、「パレスチナユダヤ人国家を認めようとしないことに原因がある」と改めて主張した。

 

(五二)トランプ氏の支持率、三六%に低下

二〇一七年七月一六日、アメリカの成人一〇〇一人を対象にしたワシンントポスト紙とABCニュースの共同調査によるトランプ大統領の支持率が発表された。就任から一〇〇日頃の四月には四二%だった支持率は三六%に低下、不支持率も五八%と五ポイントも上昇した。歴代の大統領の支持率と比較しても低いという。

 

(五三)金属探知機設置からエルサレム聖地で衝突拡大、死傷者多数

イスラエルが設置した金属探知機の撤去をめぐりイスラム教徒らの反発がささらに高まり、パレスチナや聖地を管理するヨルダン当局は「現状変更だ」と反発している。

二〇一七年七月二一日、イスラム教の金曜礼拝の日である。数千人のデモ隊がイスラエル治安部隊と衝突した。聖地入り口付近では「我々の聖地だ。占領を許さない」と金属探知機を通ることを拒絶し、敷地外で礼拝を行っている。イスラエル側が金属探知機を撤去しないことからアッバス議長は「金属探知機が撤去されるまでイスラエルとの全てのレベルで接触を停止する」と発表した。抗議行動は旧市街地のほかヨルダン川西岸などで起きイスラエルの治安部隊と衝突。パレスチナ人三人が死亡し、数百人が負傷した。同日夜、ラマラ北部のユダヤ人入植地でパレスチ人の男がイスラエル人の民家に押し入り、刃物で四人を刺し、うち三人を殺害する事件が起きた。犯行の動機は聖地への出入り規制への反発だという。犯人は銃で撃たれ重傷を負った。抗議はイスラム教徒が多い国に広がり、イスラエル批判はますます高まった。ヨルダンでは数千人のデモが発生した。

七月二三日、ヨルダンの首都アンマンにあるイスラエル大使館が襲撃されて銃撃戦となり、ヨルダン人二人が死亡し、イスラエル人一人が負傷した。大使館周辺は立ち入りを禁止され、大使館の職員を退避させている。イスラエルとヨルダンとの関係も、一九九四年両国が平和条約を結んで以来最も深刻な事態の一つとの見方も出ている。

 

(五四)イスラエル、金属探知機を撤去、代替策を導入する方針

二〇一七年七月二四日夜、イスラエル政府は治安閣僚会議を開き、国際社会からの問題解決への圧力もあり、批判の広がりや衝突の拡大を懸念し、設置していた金属探知機を撤去することを決めた。代替策として「高性能の監視カメラなど先端技術を使ったセキュリティー検査システム」を導入する方針を示しており、一方的に新たな対策を導入すればパレスチナ側の怒りを増幅させる恐れがある。情勢がさらに悪化し大規模な衝突が起これば、新たな二〇〇〇年のようなインティファーダ(民衆蜂起)の勃発につながりかねないと懸念される。

 

(五五)イスラム教徒、イスラエルの金属探知機撤去の代替案も許さず

二〇一七年七月二五日、イスラエルは金属探知機を撤去したが、聖地をめぐる問題が沈静化する気配はない。イスラエルが発表した大胆案を含め「あらゆる変更を許さない」「七月一四日の事件以前の聖地の状態に戻すべきだ」との立場を崩さない。アッバス議長は立ち入り規制につながるあらゆる機器の撤去を求めた。また、現地のイスラム教指導者は「礼拝敷地に入らず街頭で礼拝を行う」よう示唆し、イスラム教徒は敷地外での礼拝や抗議デモを続けた。敬虔なイスラム教徒であるトルコのエルドアン大統領は、「イスラエルがテロ対策を名目に聖地を奪おうとしている」と主張。世界のイスラム教徒に向け「全員がエルサレムを訪問すべきだ。皆でエルサレムを守ろう」と呼びかけた。同日夜、アッバス議長はパレスチナ指導部の会合で、「私たちの聖地を損なおうとする者への正当な反応だ」とし、イスラエル当局との治安協力の一時停止を継続すると発表した。

 

(五六)イスラエル、全ての警備機器を撤去

二〇一七年七月二七日、イスラエル当局は聖地に導入した治安対策のための装置を全て撤去したことを明らかにした。これを受けて、アル・アクサ・モスクを管理するワフク(宗教協議会)は二七日午後から敷地内での礼拝を再開すると発表した。これに応じて多数のイスラム教徒が敷地内になだれ込み、イスラエルの治安部隊と衝突。一〇〇人以上の負傷者がでた。

七月二八日、イスラム教の金曜礼拝の日である。イスラエル当局が五〇歳未満のイスラエル人の聖地への入場を制限。多くのパレスチナ人は敷地外の路上で祈りを捧げ、イスラエル当局の措置に抗議の声を挙げた。

 

(五七)アラブ四カ国、カタールとの断交で強硬姿勢崩さず

二〇一七年七月三〇日、カタールと断交したサウジアラビアやエジプトなどアラブ四カ国は、バーレーンの首都マナマで外相会議を開き、イランとの関係縮小やテレビ局アルジャジーラ閉鎖など一三項目の要求を改めてカタール側に求めた。四カ国は、「カタールが誠実に応じれば、対話の用意はある」と強調した。カタールはこれに応じる気配はなく、断交の長期化は避けられない。

 

(五八)聖地騒乱は一応沈静化、しかし対立の根幹は変わらない

聖地をめぐる騒乱は、イスラエル側が警備機器を撤去したことによりひとまず沈静化した。ただ、一連の衝突はイスラエルによる長年の圧力で高まったパレスチナの不満が容易に大規模な衝突に発展しかねないことを示したとも言える。また、機器撤去はイスラエル側の「譲歩」であり、パレスチナ側は「大きな勝利」だとするが、実態は七月一四日の事件以前の状況に戻ったのみの現状維持で、旧市街がイスラエルの実効支配下にあるという事実には変わりはない。

 

(五九)ハマスファタハとの分裂状態解消に前向きに協議する声明出す

二〇一七年九月一七日、ハマスは声明を出し、「行政委員会」を解体しパレスチナ自治政府との分裂状態の解消に向け協議する意向を示した。声明はまた、パレスチナ評議会選挙の実施を「受け入れる」と述べた。ファタハハマスの声明を歓迎する姿勢を示している。だが、イスラエルアメリカなどはハマスを「テロ組織」と認定しており、また、これまでも対立解消の試みに失敗しているだけにこれからの進展が大いに注目される。

九月一八日、アッバス議長とハマスの最高責任者ハニヤ氏がほぼ一年ぶりに電話会談をし、双方の和解について協議した。今まで対立が激しかった双方の責任者がこれを契機により協議を重ねることが期待される。

 

(六〇)ファタハハマス、分裂解消へ、ハムダラ首相ガザで協議

二〇一七年一〇月二日、パレスチナのハムダラ首相はハマスとの対立解消に向け協議を本格化させるためガザを訪問した。閣僚らを伴ってガザを訪れた首相は「分断の痛みを終わらせ、和解と統一の実現や、ガザ再建のために戻ってきた」と強調した。最大の焦点はハマスの軍事部門の扱いだとされる。アッバス議長は「一つの国家、一つの武器」と述べ、同部門が統率下に入るよう要求している。しかし、ハマスの最高指導者ハニヤ氏は「(イスラエルによる)占領が続く限り武器を持ち抵抗する権利を持つ」と述べており、協議が成功するか注目される。アメリカやイスラエルパレスチナ側で和解が実現してもハマスの軍事部門の扱いに問題を投げかける。イスラエルのネタニヤフ首相は「偽りの和解を受け入れる用意はない」としており「軍事部門への対応」が今後の進展の鍵になる。

 

(六一)ファタハハマス、分裂解消で合意、ガザ行政権を自治政府に移譲へ

二〇一七年一〇月一二日、ファタハハマスの代表者は「和解協議で合意した」と発表した。和解協議はエジプトの仲介で、「二〇一一年の和解案」を土台に首都カイロで一〇月一〇日から行われていた。合意は一二月一日までにガザの行政運営をハマスから自治政府に完全に移管し、その後、総選挙を行い正式な統一政府の樹立を柱としている。アッバス議長は「分裂を解消するための最終合意」として歓迎する意向を示しており、一カ月以内に一〇年ぶりにガザを訪問する予定という。ハマスのハニヤ氏も「エジプトの支援で合意に達した」との声明を発表した。しかし、今回の和解文書にはハマスの軍事部門の取り扱いは盛られておらず、「ハマス武装解除」が今後の焦点である。

 

(六二)アメリカ、「ユネスコ脱退」を表明、イスラエルも続いて脱退表明

二〇一七年一〇月一二日、アメリ国務省ユネスコからの脱退方針をユネスコ側に通知したと発表した。脱退の理由について、ユネスコでの(分担金の)滞納の増大やユネスコの根本的な組織改革の必要性、反イスラエル的な姿勢が続いていることなどへの反感があるという。二〇一八年一二月末までに正式脱退するとし、一九年からはオブザーバー国として関与するとしている。

イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカの脱退表明に続きイスラエルも脱退することを表明した。ネタニヤフ首相は今年七月、ユネスコイスラム教とユダヤ教の共通の聖地を擁するヘブロン旧市街をユダヤ教との関係を考慮せず、パレスチナ世界遺産に登録したことに猛反発していた。

 

(六三)イスラエル、「ハマスが加わったパレスチナ統一政府とは交渉しない」

二〇一七年一〇月一七日、イスラエルは治安閣議を開き、パレスチナファタハハマスが統一政府を発足させてもハマスの軍事部門の解体などの条件を満たさない限り和平交渉をしない方針を決めた。イスラエル政府は和平交渉をする条件として、テロ組織ハマスの軍事部門の解体、ハマスによるイスラエルの承認、ハマスとイランとの関係断絶、ガザ地区でのパレスチナ自治政府による完全な治安管理など七項目の条件を挙げた。

これに対しハマス側は「内政干渉だ」と猛反発しており、パレスチナ自治政府側も「イスラエルがいかなる発言をしても和平を前進させるパレスチナの公式な立場は変わらないとしている。

 

(六四)アメリカ、パレスチナの和解協議に「ハマスの非武装化」要求の声明

二〇一七年一〇月一九日、トランプ政権で中東和平担当のグリーンブラッド外交交渉特別代表は、パレスチナファタハハマスの和解協議について「いかなるパレスチナ(統一)政府も明確に非暴力を約束し、イスラエル国家を承認するとともにテロリストの武装解除を含め過去の合意事項の履行義務を受け入れ、平和的交渉を支持しなければならない」との声明を出した。

 

(六五)ハマス、「ハマス武装解除を強制することは誰にもできない」と強調

二〇一七年一〇月一九日、ハマスガザ地区指導者シンワル氏は、「ハマス武装解除を強制することは誰にもできない」と協調。「議論は最早、イスラエルの承認ではなく破壊についてだ」「イランとの関係を断つと考える者は妄想的だ」とも述べ、イスラエルアメリカの主張に反発するとともに、パレスチナ自治政府アッバス議長に向けメッセージを送った形だ。ハマスはまだ強硬である。

 

(六六)ハマス、境界検問所の管理をパレスチナ自治政府に移譲

二〇一七年一一月一日、ハマスは先月のファタハと和解協議に基づき、境界検問所の管理をパレスチナ自治政府に移譲した。一二月一日までのガザの行政権移譲に向け一歩近づけた。

 

(六七)「バルフォア宣言」から一〇〇年

二〇一七年一一月二日、「バルフォア宣言」からちょうど一〇〇年経った。イギリスのメイ政権は宣言の正当性を主張する。イスラエルのネタニヤフ首相は宣言一〇〇年に合わせた形でイギリスを訪問し、メイ首相と会談し、「我々の祖先からの故郷にユダヤ人の独立国を再建する道を開いた」と宣言を称賛した。イギリス国内では野党労働党などからはこの機会をとらえ、パレスチナ国家を正式に承認すべきだとの声が上がっている。

パレスチナ自治政府は、「この宣言によって我々は大きな犠牲を払ってきた。イギリスはこの恥ずべき宣言を謝罪し、パレスチナ国家承認を含めて改善に動くべきだ」と訴えた。アッバス議長は「イギリスは歴史的な不正をただす行動を一切とらず、謝罪も補償もしていない」と強く非難し、国家承認などを改めて求めた。

 

(六八)トランプ政権、ワシントンのパレスチナ代表部閉鎖を警告

二〇一七年一一月一七日、アメリ国務省パレスチナ自治政府に対し、ワシントンにある代表部(大使館に相当)の閉鎖を警告した。自治政府イスラエルとの和平交渉に本気で応じるべきであり、一一月九日にアッバス議長が国連総会での演説でイスラエルの植民地活動などを国際刑事裁判所(ICC)が捜査し、イスラエル当局者を訴追すべきだと主張したことを閉鎖警告の理由に挙げている。中東和平交渉の再開に向けてパレスチナ側に圧力をかけた格好だ。

これに対し、パレスチナ側は「イスラエルからの圧力だ。アメリカの脅迫や圧力を受け入れることはできない」と反発している。

 

(六九)パレスチナ各派、統一政府樹立に向け協議始める

二〇一七年一一月二一日、パレスチナファタハハマスなど一三会派は、統一政府樹立に向けたエジプト仲介の協議をカイロで始めた。一一月二三日まで二〇〇七年以降続く分断統治解消のため統一政府の準備や〇六年以降行われていない評議会選の実施時期、ガザの治安体制などを協議する。一二月一日までにガザの行政権限を自治政府に移譲することを目指すが最大の焦点はガザの軍事部門の扱いである。

一一月二二日、各会派は共同声明で「二〇一八年末までに、議長と評議会(議会)選を実施するよう中央選管に要請することで合意した」と発表した。議長選は〇五年以来、評議会選は〇六年以来実施されていなかった。

 

(七〇)ハマス、行政権限移譲期限を「一二月一〇日に延期」と発表

二〇一七年一一月二九日、ハマスはガザの行政権をハマスから自治政府に移譲する期限を一二月一〇日に延期すると発表した。両者は「和解協議を確実に終わらせるための準備」に時間が必要と延期の理由を説明した。ただ、ハマスの軍事部門の武装解除のほか、電力供給不足や公務員給与の削減など両者の溝は深く、協議が難航している模様だ。

 

(七一)トランプ大統領、「エルサレムイスラエルの首都」と認定する方針

エルサレムの「首都」認定かの報道

二〇一七年一二月一日、多くの通信社がトランプ大統領が一二月六日にも演説でエルサレムイスラエルの「首都」と認める方針だと報じた。イスラエルエルサレムを「恒久的な首都」と宣言して政府機能をこに置いているが、国際社会はエルサレムイスラエルの首都と認めておらず、アメリカ、日本など各国は商業都市のテルアビブに大使館を置いている。アメリカは一九九五年、エルサレムに大使館を移転する法律を制定したが、歴代の政権は周辺アラブ諸国の反発などへの懸念を含め「安全保障上の問題」として大統領の権限(大統領令署名)で移転実施を先送りしてきた。

大使館移転について近日中にトランプ大統領の判断が示されるのではないかと注目されていたが、(移転への判断の前に)「エルサレムの首都認定」の報道は、大きな衝撃として伝わった。

 

「首都」認定方針に反発や批判続出

トランプ大統領の「首都」認定かの報道にアッバス議長始めパレスチナ側は「アメリカがエルサレムイスラエルの首都と認めれば和平プロセスは崩壊する。エルサレムへのアメリカ大使館移転と同じレベルの危険を孕み地域を不安定化させる」と強く懸念を示し、反発を強めている。ハマスインティファーダ(反イスラエル闘争)の再開をパレスチナ人たちに呼びかけると警告した。周辺アラブ諸国ムスリムイスラム教徒)も懸念の声を上げ、トルコのエルドアン大統領はィスラム教徒にとってレッドライン(超えてはならない一線)だと警告し、承認した場合イスラエルとの「外交関係の断絶」もあり得ると明言し、イスラム協力機構(OIC)の会議開催などの措置を取ることも検討していると明らかにした。また、ヨルダンのサファディ外相は「危険な結末を招く」と警告した。また、フランスのマクロン大統領などアメリカの主要な同盟国の首脳からも懸念の声が上がっている。

 

(七二)トランプ大統領、大使館の「エルサレム移転」示唆

二〇一七年一二月五日、パレスチナ自治政府の報道官によれば、トランプ大統領アッバス議長と電話会談し、大使館をエルサレムに移転する意向を伝え、明日六日に行う演説で自身の決意を表明する予定という。これに対し、アッバス議長は「(イスラエルとの)和平プロセス、そして地域や世界の治安に重大な結果をもたらす」と警告。大使館移転を防ぐため世界の首脳らとの接触を続けると表明した。ハマス各派は、六日から八日を「怒りの日」と名付け、ヨルダン川西岸全域で抗議活動を呼びかけた。同日、トランプ氏はサウジアラビアのサルマン国王、ヨルダンのアブドラ国王、エジプトのシシ大統領にも相次いで電話で協議し、大使館の移転方針を伝えた。

報道によればトランプ氏は六日午後一時(日本時間七日午前三時)、正式にエルサレムイスラエルの首都と認め、大使館の移転を発表するという。

アラブ諸国は一斉に反発。アラブ連盟(二一カ国と一機構)は「アラブ諸国と全イスラム教徒の権利に対する侵害」と批判し、「エルサレムを首都と定めると世界平和やに電話で協議し、安定の深刻な脅威になる」と声明を発表。同日緊急会合を開き、「エルサレムの法的政治的地位を変更するいかなる手段もとるべきではない」と主張した。

トランプ氏の「発表観測」は波紋を広げ、サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、トルコ、フランス、ドイツなども反対の意向を示した。

 

(七三)トランプ大統領、「エルサレムイスラエルの首都」と公式に認定

二〇一七年一二月六日、トランプ大統領ホワイトハウスで声明を発表し、エルサレムイスラエルの首都と認定し、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう指示した。

トランプ大統領は演説で、「エルサレムイスラエルの首都として公式に認める時が来た」と述べた上で、「歴代の大統領は公約を実行しなかったが私はこれを実行する」「エルサレムイスラエル政府の所在地で、国会や最高裁判所が存在する。イスラエルの首都である実態を認識する以外の何物でもない」と主張した。また、「国務省に大使館をテルアビブからエルサレムに移設するよう指示した」とし、これらの決定が「和平合意への努力から逸脱するような意図を持っていない」「アメリカはイスラエルパレスチナ両者の合意成立のためには最大の努力を惜しまず、両者が合意するならば、二国家共存解決について支持する」と述べた。

 

(七四)トランプ大統領の「首都認定」発表、国際社会から懸念や批判続出

トランプ大統領の「首都認定発表」に、国際社会から「不当で無責任」「一方的で挑発的」「国際法国連憲章に違反」「中東和平交渉に悪影響」「支持しない」などと一斉に批判や懸念の声があがった。

アッバス議長は演説で「最大の過ちであり容認できない措置だ。アメリカは和平に向けた努力を全て台無しにした。和平プロセスから仲介役を放棄したという宣言だ」と強く反発し、「地域の過激派を助長することになる」と警告。ヨルダン川西岸、東エルサレムの旧市街、ガザで治安当局と衝突が発生した。ハマスは「地域におけるアメリカの国益に対する地獄の門を開くものだ」と非難し、新たな民衆蜂起を呼びかけた。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的で重要な措置だ」「トランプ大統領の正しい判断に感謝している」と称賛した。

 

(七五)安保理、緊急会合開催

二〇一七年一二月八日、国連安全保障理事会の緊急会議が一五理事国のうちイギリス、フランス、スウェーデン、エジプト、ボリビアなど八カ国の要請で開催された。会合では「エルサレムの帰属はイスラエルパレスチナの二者間で決めるべきだ」「(アメリカの認定は)国際法やこれまでの安保理決議と矛盾する」などとアメリカを除く一四カ国が反対や懸念を表明した。アメリカのヘイリー国連大使は、「イスラエルは全ての国と同様に首都を決定する権利がある」と強調。また、「国連は長年にわたり、イスラエルに敵対的な姿勢を示してきた」と国連批判を展開。アメリカの孤立ぶりが浮き彫りになった。

 

(七六)アラブ連盟、緊急外相会議開催

二〇一七年一二月九日、アラブ連盟(二一カ国、一機構)はカイロでアメリカの「首都承認」について協議。「国連安保理決議に違反している」などとして撤回を求めた。安保理に対してアメリカの決定を非難する決議の採択を要求し、世界各国にパレスチナ国家承認をするよう呼びかけた。パレスチナ自治政府のマリキ外相は、「アメリカの決定はパレスチナ人の権利を侵害するものでアメリカへの信頼を失わせた」と批判した。

 

(七七)「エルサレム首都認定」に非難と抗議広がる

マクロン・ネタニヤフ会談

二〇一七年一二月一〇日、フランスのマクロン大統領はパリでネタニヤフ首相と会談。アメリカの「首都宣言」を受け入れない姿勢を改めて示した。その上で、イスラエルに対してユダヤ人入植地建設の凍結を求め、パレスチナとの対話による解決を促した。

一方、ネタニヤフ首相はトランプ大統領の「認定」を称賛。エルサレムについて「常に我々は(イスラエルの)首都であり続けてきた。イスラエルの首都はエルサレム以外にはない」と述べた上で、「パレスチナがより早く現実を真剣に受け止めることが必要だ。歴史的な事実を踏まえてこそ和平交渉が前進する」と強調した。

 

トルコのエルドアン大統領、「イスラエルはテロ国家」と非難。ネタニヤフ首相反論

二〇一七年一二月一〇日、エルドアン大統領は演説で「首都宣言」は無効だとした上で、イスラエルを「占領国家でテロ国家だ」と非難し、「パレスチナは抑圧された犠牲者だ」と述べた。

これに対しネタニヤフ首相は、「(トルコが敵対する)クルド人の村々を爆撃し、記者を拘束するような国家指導者(エルドアン氏)のお説教は要らない」強く反発した。

 

各地で衝突相次ぐ

パレスチナ側の報道によると、ヨルダン川西岸やガザでイスラエル治安部隊との衝突が続き、一〇日までに四人が死亡し、一二〇〇人以上が負傷した。混乱はイスラム教徒のインドネシアやマレーシアのみでなく、ベルリンやストックホルムなどでも抗議デモが発生している。

 

(七八)イスラム協力機構が緊急首脳会議開催、「エルサレム首都認定」を批判

二〇一七年一二月一三日、イスラム圏の五七カ国・地域で構成されるイスラム協力機構(OIC)の加盟首脳らはトルコのイスタンプールで緊急会議を開き、共同声明でアメリカの「エルサレム首都認定」を最も強い言葉で非難」するとし、「無効で違法」と訴え、国際社会に対し、イスラエル占領下にある「東エルサレムパレスチナ国家の首都と認定する」ようを求めた。また、今回の「危険な宣言」は和平プロセスからアメリカが手を引いたことを示すものだと指摘した。

トルコのエルドアン大統領は「アメリカはもはや公平な和平の仲介役を果たすことは出来なくなった」と指摘した。

アッバス議長は、「(アメリカは)完全にイスラエル寄りだ」「今後一切、アメリカの(中東和平の仲介者などの)役割を受け入れない」とアメリカとの決別を明言した。

今回の会議はトルコのエルドアン大統領が招集し、イラン、ヨルダン、レバノンカタール、クエートなどの首脳が出席した一方、サウジアラビアアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどは外相など閣僚級の出席にとどまった。中東の対立構造が影を落とし、イスラム圏が結束しきれていないことを映し出したともいえる。

 

(七九)ガザの行政権限移譲期限、「無期延期」に

二〇一七年一二月一三日、ハマスの幹部は「一二月一〇日まで延期」としていたガザの行政権移譲期限が「無期延期」になったと明らかにした。協議が難航している上に、「首都認定」問題の発生などにより更に協議が必要とした。

 

(八〇)EU、首脳会議で「二国家共存」支持表明

二〇一七年一二月一四日、ブリュッセル開催された欧州連合(EU)首脳会議は、「イスラエルパレスチナの二国家共存による解決策への強い支持を改めて表明する」との共同声明を採択した。

 

(八一)パレスチナ各地でデモ、治安部隊と衝突

トランプ大統領の「首都承認」宣言に対する抗議活動は依然続いている。

二〇一七年一二月一五日、イスラム教の金曜礼拝の日。パレスチナ各地で数万人のデモがあり、イスラエルの治安当局と衝突、死傷者が多くでた。パレスチナの「赤新月社赤十字社に相当)」によると、トランプ宣言以降、パレスチナ人八人が死亡し、催涙ガスやゴム弾などによる負傷者は数千人を超えているという。

 

(八二)トルコのエルドアン大統領、「東エルサレムにトルコ大使館の開設」を

トルコがアメリカやサウジアラビアとの関係を悪化させている。エルサレムイスラエルの首都と認定したアメリカを激しく非難するほか、対カタールではサウジとの関係をこじらせている。

二〇一七年一二月一七日、エルドアン大統領は「東エルサレムは(イスラエルの)占領下にある以上大使館は容易に開けないが、神の思し召しでその日は近い。我が国はそこに大使館を正式に開設するだろう」と述べ、「ユダヤ人にはイスラム教徒の中心地であるエルサレムを占有する権利はない」と強調した。

 

(八三)安保理、「首都認定」撤回案、アメリカが拒否権を発動し否決

二〇一七年一二月一八日、安保理はエルサエムをパレスチナの首都とするトランプ大統領の一二月六日の認定を無効とし、撤回を求める決議案を否決した。アメリカ以外のすべての理事国一四カ国が同案を支持したが常任理事国であるアメリカが拒否権を発動したため否決された。。決議案は首都認定に反対するアラブ諸国に一つで非常任理事国のエジプトが作成。アメリカを名指しはしていないが「エルサレムの地位に関する最近の決定の深い遺憾の意を表明する」と明言した。その上で、「エルサレムの性格や地位、人口構成を変更する目的でのいかなる決定や行為も、一切の法律的効力がなく無効で、関連する安保理決議に基づき撤回されなければならない」と指摘し、トランプ大統領が首都認定に合わせて明らかにした大使館の移転計画に関連しても「全ての国に対し、外交公館をエルサレムに設置することを控えるよう要請する」としている。

一二月一九日、安保理で首都認定の撤回を求める決議案が否決されたことを受け、アッバス議長はアメリカを強く批判し、国連総会の緊急会合を要請する方針を固めるとともに、二二の国際機関や国際条約への加盟申請書に署名した。アラブ諸国代表のイエメンとイスラム協力機構(OIC)代表のトルコが共同で「エルサレムの地位に関する最近の決定に深い遺憾の意を表明する」とし、国連総会で採決すべく緊急特別総会の開催を要請した。

一二月二〇日、トランプ大統領ホワイトハウス閣議冒頭で、「(国連総会での採決にあたり)同案に賛成する国への資金供与を削減する」と支援の停止を警告した。パレスチナ側は「アメリカは各国を脅している」と非難した。

 

(八四)国連緊急特別総会、「首都認定」撤回を求める議案、賛成多数で採択

一二月二一日、国連総会が開催され、「首都認定」方針の撤回決議案が賛成多数(加盟一九三カ国中一二八カ国)で採択された。賛成は日本やイギリス、ドイツ、フランスなど重要なアメリカの同盟国を含んでいる。反対はアメリカ、イスラエルグアテマラホンジュラストーゴミクロネシアマーシャル諸島パラオナウルの九カ国で、棄権は三五カ国、二一カ国が欠席した。アメリカのヘイリー国連大使は国の意向に沿って決議に反対し、「国連の無責任なやり口に加わらなかった国々に感謝する」と謝意を示し、賛成しなかった六四カ国を招いて来年一月三日夜、「友情に感謝する宴」を催すと表明した。

パレスチナや中東などのイスラム諸国は国連総会の採択に歓迎の声を挙げた。パレスチナ自治政府の報道官は声明で、「国際社会が正しいパレスチナ大義を支持し、いかなる決定も現実を変えられないことを再確認するものだ」と述べ、アメリカからの圧力に屈せず賛成票を投じた国々に謝意を表明した。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「こんな馬鹿げた決議を全面的に拒否する」と主張し、採決に反対や棄権した国々に謝意を示した。

 

(八五)グアテマラ、在イスラエル大使館を「エルサレムに移転」すると発表

二〇一七年一二月二四日、中米のグアテマラのモラレス大統領は、テルアビブにあるイスラエル大使館をエルサレムに移転すると発表した。アメリカに追随して大使館移転を表明した初の国となった。ネタニヤフ首相は歓迎し「私の友人、エルサレムであなた達を待っている」と述べ、他に少なくとも一〇カ国と移転について接触していると表明した。

 

(八六)イラン、反政府デモ発生

二〇一七年一二月二八日、イラン北東部で食料品やガソリンの価格高騰などを背景にデモが発生。その後「国外支援よりもっと国内の経済対策を重視せよ」「シリアではなく、われわれのことを考えよ」「レバノンのためでなくイランのために」と各地に広がる反政府デモに発展した。最高指導者ハメネイ師にまで矛先が向けられるようになった。鎮圧隊との衝突でデモ隊から多数の死傷者が出た。アメリカ側はデモを支持しイランの体制指導者を非難している。

 

二〇一八年

(一)トランプ大統領、対パレスチナ支援の停止を示唆

二〇一八年一月二日、トランプ大統領は中東和平プロセスが停滞していることを認めるとともに、年間三億ドル(約三四〇億円)余に相当する対パレスチナ支援を停止する考えを示唆した。トランプ氏はツイッターで「(アメリカはパレスチナに)年間何億ドルも支援しているが感謝も尊敬もない」「パレスチナはもはや和平を協議する意志がない。今後このような大金を支払う必要があるだろうか」と述べた。

 

(二)パレスチナアメリカの支援停止示唆に反発

二〇一八年一月三日、トランプ大統領パレスチナの支援停止を示唆したことをめぐり、パレスチナ側は強く反発した。アッバス議長の報道官は「エルサレムパレスチナ国家の首都であり、金で売り渡すものではない」と批判し、PLO幹部のアシュラウイ氏は「脅しには屈しない」「和平への取り組みを妨害したのはトランプ大統領なのに、無責任の行動の結果をパレスチナ人に転嫁しようとしている」と反発した。

 

(三)イラン革命防衛隊、「反政府デモ鎮圧」宣言、庶民の不満はくすぶる

二〇一八年一月七日、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」は国内全土に波及していた反政府デモについて、「革命を支持する人々が情報省や警察と共に制圧した」とデモ鎮圧を宣言した。一連のデモで二二人が死亡し、六〇〇人以上が一時拘束されたとされる。鎮圧宣言の裏で庶民の不満はくすぶっている。

 

(四)パレスチナアメリカとイスラエル牽制、中東和平に亀裂広がる

アメリカの「首都認定」「大使館移転」「支援停止」などの対パレスチナ施策と、これを「歓迎」するイスラエルの動きにアッバス議長始めパレスチナ側の反発は高まる一方だ。

二〇一八年一月一四日、アッバス議長はパレスチナ解放機構(PLO)中央委員会で演説し、トランプ大統領の一連の施策を批判し、和平交渉を「世紀の取引(ディール)」と表現し仲介に意欲を示してきたトランプ大統領について、「世紀の取引は世紀の侮辱だ」「我々はアメリカの(和平への)案を受け入れないし、その仲介も受け入れない」と強調。さらに、一九九三年にイスラエルと相互承認した「オスロ合意」について、「もはやオスロ(合意)は存在しない。イスラエルが終らせた」と指摘。イスラエルユダヤ人の入植地建設などにより将来の「二国家解決」を阻害しているとし「イスラエルと結んだ全ての合意を見直すべきだ」と呼びかけた。

中央委員会では「(アメリカが)エルサレムの首都認定を撤回しない限りアメリカを和平交渉の仲介役として認めない」と決め、「オスロ合意」の凍結などの対抗措置を決めた。二二日から二日間の予定で始まるアメリカのペンス副大統領のイスラエル訪問を前にアメリカを牽制した形だ。

 

(五)アメリカ、国連パレスチナ難民救済事業機関への支援拠出金の凍結を発表

二〇一八年一月一六日、アメリ国務省国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対して一月上旬に支払う予定だった拠出金一億二五〇〇万ドル(約一三八億円)のうち、六五〇〇万ドルを凍結すると発表した。UNRWAは中東全域でパレスチナ難民とその子孫に教育や医療などのサービスを提供する国連機関であり、現在、五〇〇万人が支援の対象になっている。支援拠出金の凍結はUNRWA事業運営に大きな支障となる。関係者は「最悪の資金難に直面している」と警鐘を鳴らした。パレスチナの指導者らは「アメリカ政府の対応は残酷で、露骨に偏向している」「立場の弱い人々に対する残虐行為だ」と非難した。

 

(六)アメリカのペンス副大統領、エジプト、ヨルダン、イスラエルを歴訪へ

アメリカのペンス副大統領は、二〇一八年一月二〇日~二三日の日程で、エジプト、ヨルダン、イスラエルの中東三カ国を歴訪する。「首都認定」で亀裂が生じたアラブ諸国との関係修復とともに、テロ対策での連携強化や中東和平問題の進展に向けた糸口を探るのを主目的とする。イスラエルでは二二日にネタニヤフ首相らと協議するほか国会で演説し、「嘆きの壁」も訪問するという。パレスチナへの訪問はアッバス議長が「会談を拒否」しており実現しない。

 

(七)ペンス副大統領、「大使館を二〇一九年末までにエルサレムへ移転」と表明

ペンス副大統領は、エジプトとヨルダンを訪問した後、イスラエルへ入った。

二〇一八年一月二二日、ペンス副大統領はイスラエル国会で演説し、アメリカ大使館を「来年末までに(テルアビブから)エルサレムに移転」させる意向だと表明した。ペンス氏は「(トランプ大統領は)フィクションよりも真実を選んだ」と述べ、公約実現とエルサレムの首都認定の正当性を改めて主張した上で、大使館の移転時期を明確に示した。大使館の移転時期をはっきり示したのはこれが初めてである。

 

(八)アッバス議長、EU側に「早期にパレスチナ国家の承認を求める」と発言

二〇一八年一月二二日、ペンス副大統領との会談を拒否していたアッバス議長は訪欧してブリュッセルのEU外相会議に出席していた。同会議でアッバス議長は、「EUは真のパートナーであり親友だ」と強調した上で、「早期にパレスチナ国家を承認するようEU加盟国に求める」と呼びかけた。EUのモゲリーニ外相はEUとして中東和平に向けて、「二国家解決の実現」を目指す従来の方針を堅持すると改めて表明した。

 

(九)ペンス副大統領歴訪終える、サウジ・エジプトなど大きな反応示さず

二〇一八年一月二三日、ペンス副大統領は「嘆きの壁」を訪問して中東歴訪を終えた。「首都認定」や「アメリカ大使館の移転」などについてパレスチナ側が猛反発している中、アメリカの親イスラエル姿勢がより鮮明になった中東訪問であった。だが、ペンス氏の訪問に内政や安全保障上の課題が山積するサウジアラビアやエジプトなどの親アメリカのアラブ諸国の反応は「沈黙」しており、アメリカと対立してまで新たな難題を抱え込みたくない、不満を抑えながらもアメリカとの関係を悪化させたくないとの判断が働いているとみられる。多数のパレスチナ難民の暮らすヨルダンやサウジと歩調を合わせるアラブ首長国連邦(UAE)の首脳からも大きな批判の声はない。また、「首都認定」などに強く反発しているトルコのエルドアン大統領も今のところ言及を控えている。アメリカ軍が支援するシリアのクルド人勢力を標的に越境作戦を開始したばかりで、今アメリカとの緊張関係をさらに高めたくないと判断したようだ。

 

(一〇)トランプ大統領、「首都認定の正当性」を主張、「支援金の凍結」を表明

二〇一八年一月二五日、ダボス会議に出席するためスイスを訪れていたトランプ大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相と会談した。トランプ氏は冒頭、「イスラエルは常にアメリカを支持してきた」と謝意を述べた。会談で首都認定と大使館移転は「極めて歴史的で重要な行動」と指摘、首都認定により「エルサレム問題を片付け、もはや話し合う必要がなくなった。これにより中東和平交渉を進展できる。私は誇りに思っている」と首都認定の正当性を主張した。ネタニヤフ氏はこれに応え、「歴史現状を正しく認定した行為」であり「真実の上にしか平和は実現できない」とトランプ氏の行為を全面的に評価した。

トランプ氏はさらに、パレスチナ支援拠出金について「(パレスチナが)和平交渉に復帰しない限り凍結する」と表明し、和平交渉のテーブルにパレスチナ側が着かなければ、資金援助を凍結すると警告した。また、パレスチナ自治政府が中東を訪問したペンス副大統領との会談を拒否したことを「非礼な行為」だと批判した。

 

(一一)トランプ大統領の「パレスチナ支援金の凍結」表明に反発さらに拡大

二〇一八年一月二五日、トランプ大統領パレスチナ支援拠出金の凍結についての考えを示したことに関係者の反発が一気に拡大した。

パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト事務局長は「我々の尊厳をカネで買うことはできない」と反発し、和平交渉に応じない姿勢を改めて示した。また、来日中の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のクレヘンビュール事務局長は、「難民の不安が高まり、中東地域の不安定化をもたらす」と強い懸念を表した。

 

(一二)アメリカ、ハマス最高指導者のハニヤ氏を「テロリスト」に指定

二〇一八年一月三一日、アメリ国務省ハマスの最高指導者ハニヤ氏を「テロリストに指定」し、制裁を課した。声明で「ハニヤ氏はハマスの軍事部門と密接な繋がりがあり、武装闘争を提唱している」と述べた。ハニヤ氏が所有するアメリカ国内の資産は全て凍結され、アメリカの個人企業は同氏との取引を禁止される。ハマスアメリカの動きに対し、今回の決定よって「抵抗運動の継続を我々が思いとどまることはない」と反発した。

 

(一三)パレスチナ元外相、「和平交渉に新しい多国間の交渉の枠組み」を主張

二〇一八年一月三一日、パレスチナ自治政府の特使として来日したシャース元外相は、行き詰まっている和平交渉について、「アメリカはイスラエルに偏りすぎた。アメリカが唯一の仲介者であった時代は終わった。新たに多国間の交渉枠組みを設けるべきだ」と述べた。また、二〇一五年の「イラン核合意」での協議をモデルにする案に触れアメリカを協議から外すことはできないとし、アメリカとも協議への参加を求める意向を示した。また、「二国家共存以外に道はない」と強調した。

 

(一四)パレスチナ支援国会合開催、「二国家解決」の声が相次ぐ

二〇一八年一月三一日、パレスチナ問題を支援する国際的な枠組みである支援調整委員会の閣僚級特別会合がブリュッセルで開催された。会合では「二国家解決」を支援する声が相次ぎ、アメリカやイスラエルからも強い異論はなかった。ガザの電力危機への対応などを中心にパレスチナ支援への国際社会の連携強化が話し合われ、「エルサレムの首都認定」についてのアメリカ政権への目立った批判はなかったという。

 

(一五)PLO、「イスラエル国家承認の凍結を検討する委員会」の設置を発表

二〇一八年二月三日、PLO首脳部はイスラエル国家承認を凍結することを検討する委員会を設置すると発表した。PLOの中央評議会が先月イスラエルの承認凍結を求めた後としては初めて会議を開き、三時間にわたる協議の末にイスラエルの国家承認凍結について検討する委員会を設置するとの声明を発表した。執行委員会はアッバス議長に「ただちに政治、行政、経済、安全保障の面におけるイスラエル占領政府との合意の解消に向けた計画の準備に取り掛かる」よう求めた。トランプ政権の「首都認定」以降、PLO指導部のアメリカ政権へのいら立ちは激しさを増している。

 

(一六)シリア内戦、さらに混迷を深める

二〇一八年二月七日、アメリカ軍主導の有志連合はシリア東部デリゾール近郊でアサド政権側の部隊を空爆し一〇〇人以上が死亡した。翌八日にはアサド政権軍はダマスカス近郊の東グータ地区に激しい空爆を加え、多数の死傷者がでた。また、北西部のトルコ軍の侵攻したアフリンやアサド政権軍が化学兵器を使用したとされるイドリブ県などでの戦闘も激しさを増し、シリア内戦はさらに混迷を深めている。これまでに四〇万人以上が死亡し、一千万人以上が家を追われたとされる。二〇一一年に「アラブの春」に触発されて始まったシリア内戦は当初、トルコや湾岸アラブ諸国が支援する反体制派とアサド政権が対峙する構図だった。それがISの台頭とこれの掃討を経てロシアやイランが支えるアサド政権、アメリカやサウジアラビアなどが支援する有志連合及び支援を受けるクルド人勢力、クルド人勢力を敵視するトルコ及び反体制派といった各勢力間の主導権争いがますます激化し、大国の代理戦争の様相も見せる構図となってきている。

 

(一七)国連パレスチナ難民救済事業機関アメリカの拠出金凍結を批判

二〇一八年二月九日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の高官は、アメリカが多額の拠出金凍結を表明した問題で、同機関が「財政的に機関存続の危機に瀕している」と訴えた。また、「減額の理由をアメリカはまだ我々に説明していない」と批判した。アメリカは同機関への最大の資金拠出国であり凍結の影響は大きい。

 

(一八)イスラエル戦闘機墜落事件、イスラエルの対イラン・シリア状況悪化

シリア内戦が続く中、イランはシリア内戦を通じてアサド政権を支持し、シリアやレバノンへの影響力を拡大してきている。イスラエルはイランの進出に警戒を深めているがそうした状況下でイスラエル軍戦闘機の墜落事件が起きた。

二〇一八年二月一〇日、シリアからイスラエル領空に無人機が飛来した。イスラエル軍はこれをイスラエルへの「攻撃」とみなして撃墜した。イスラエルは「無人機はイランのもの」だとし、報復措置としてシリアにあるイランの拠点をF16戦闘機数機で空爆した。シリアは対空ミサイルで反撃。これにより戦闘機のうち一機がイスラエル領内に墜落した。これまで負けを知らないイスラエルは戦闘機の墜落に大きなショックを受け、新しい報復としてシリア領内の防空施設や関連通信施設など一〇数カ所を空爆した。今回の衝突は、長年敵対してきたイスラエルとイランが初めて「シリア領内で真正面からぶつかった」もので状況がさらに悪化し緊張が急激に高まった。

ネタニヤフ首相はテレビ報道で、「イランが我々に対抗するシリア国内でのいかなる試みも許さない」と強調し危機感をあらわにした。また、アメリカ、ロシアともシリア内戦の激化や周辺地域での対立拡大は回避したいのが本音であり両国の対応が注目される。

 

(一九)トランプ大統領、和平へのイスラエルパレスチナ双方の意欲に疑問符

トランプ大統領はこれまで中東和平交渉について、パレスチナは消極的だとして非難してきたがイスラエルに対しては批判を避けてきた。

二〇一八年二月一〇日、トランプ大統領は中東和平などについてイスラエル・ハヨム紙のインタビューに応じ、一一日付け同紙に概要が掲載された。トランプ氏は、「現時点ではパレスチナ人は和平を目指していないと思う。そして、イスラエルが和平を目指しているとは必ずしも確信できない」と述べた上で、「アメリカとしては成り行きを見守るしかない」と語った。中東和平へのパレスチナの姿勢のみでなく、イスラエルに対しても言及し疑問符を付けた形だ。そして、イスラエルの入植活動について、「現在もこれまでも、和平を複雑にしている問題」だとし、「和平にとって良いことではない」との認識を示した。また、「首都認定」についてエルサレムイスラエルの首都だと明確にしたかったとし、「具体的な境界については双方の合意を支持する」と語り、「和平合意を達成するには双方が困難な譲歩に応じる必要がある」と述べた。

 

(二〇)イスラエル警察、ネタニヤフ首相の汚職疑惑で「起訴を検察に勧告」

二〇一八年二月一三日、ネタニヤフ首相の汚職疑惑を調べているイスラエル警察は長期調査の結果、収賄と詐欺、背任の罪で同首相を起訴するよう検察に勧告した。実業家二人に便宜を図り、百万シェケル(約三千万円)を超える高額品を受け取ったとの疑惑や競合紙の無料配布を制限する見返りに、自身に好意的な報道をするよう有力紙のオーナーに要請した容疑があるという。警察は、「起訴するに十分な証拠がある」との声明を発表した。ネタニヤフ氏は「何もないのだから(捜査は)何もなく終わるだろう」と自身の潔白を主張している。だが政権基盤は強固でなく極右政党の台頭はネタニヤフ氏の求心力の低下を招く。政権内での右派政党の主張は国内政治だけでなく中東和平再開に大きな影響を与える。

 

(二一)イスラエル軍ハマス側衝突、死傷者発生し緊張高まる

二〇一八年二月一七日、ガザ地区イスラエルとの国境近くで爆発があり、巡視中のイスラエル兵四人が重軽傷を負う事件が発生した。イスラエル軍パレスチナ側によって取り付けられた爆発物によるものとし報復として即座に戦車でハマスの監視所などを砲撃した。ガザ当局によるとパレスチナの少年二人が死亡し、複数の負傷者出ている。イスラエル軍は一七日から一八日未明にかけてハマスの軍事施設など一八カ所を攻撃した。ガザ側からのロケット弾の発射もあり緊張が高まっている。

 

(二二)ネタニヤフ首相、「対イラン直接行動も」と強硬姿勢示す

二〇一八年二月一八日、ネタニヤフ首相はミュンヘン安全保障会議で講演し、イランの勢力圏が中東を包み込むように広がってきており、中東の脅威になっているとイランの行動を批判して危機感を訴えた。ネタニヤフ氏は長方形の金属片を掲げて「ここに(イスラエルに侵入し撃ち落とした)イランの無人機の残骸がある。わが国が(先日)撃ち落としたものだ」「わらわれは国を守るためには躊躇なく(イランが支援する勢力にではなく)イラン自体にも行動する。その決意を試すな」「必要があればイランそのものに対して(直接に)行動する」とイランの動きを強く牽制した。

ネタニヤフ氏のすぐ後に演説したイランのザリフ外相は、ネタニヤフ氏の挑発に「反応するに値打ちのない漫画のような曲芸だ」と打ち捨て、「イスラエルは日常的にシリアやレバノンに侵攻している」と応酬した。

 

(二三)アッバス議長、中東和平は「新たな多国間協議の枠組みで」と訴え

二〇一八年二月二〇日、アッバス議長は安保理事会で演説し、中東和平問題についてアメリカ主導の仲介でなく、より多くの国が参加する「新たな多国間参加の枠組み」による中東和平プロセスを発足させるとともに、パレスチナ国家承認の道を整えるため、二〇一八年半ばまでに和平国際会議を開くことを提案した。

さらに、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にするトランプ政権に不信を募らせており、これまで和平交渉を主導してきたアメリカを念頭に「一国が地域や国際紛争を解決することは不可能だ」と多国間の国際的な機構の構築が不可欠だと訴えた。和平会議は二〇一七年一月にパリで開かれた国際会議をモデルとし、特に国連を始め常任理事国欧州連合(EU)イスラエルパレスチナの参加の必要性を求めている。

アッバス氏の訴えに対し、アメリカやイスラエルは強く反発している。アメリカのヘイリー国連大使は和平交渉の役割で「国連を頼り、アメリカの役割を拒否するような政策を模索するのであればパレスチナの人々の願いがかなうことはない」と警告した。イスラエルのダノン国連大使は「アッバス氏こそが和平交渉を拒否してきた当事者だ」と非難し、「今回もアメリカの首都認定を交渉拒否の言い訳にしようとしている」と批判した。

 

(二四)トルコとシリア側衝突拡大、シリア内戦はさらに混迷

二〇一八年二月二〇日、シリア北西部アフリンでシリアとトルコ双方の軍事的緊張が高まっている。トルコ軍はクルド人勢力を標的にアフリンに一カ月前から越境作戦を続けており、アサド政権がクルド人勢力に民兵部隊の援軍を送りこれをトルコ軍が砲撃し死傷者もでている。トルコ軍が越境までして警戒しているのには理由がある。アサド政権は二〇一一年に始まったシリア内戦で首都などの防衛を優先し、クルド人の多く暮らす北部からの軍の部隊を撤退させた。この過程でシリアのクルド人勢力、民主連合党(PYD)はアフリンを掌握した。こうした中、トルコはシリアのクルド人勢力が拡大したことでトルコ国内の非合法組織、クルド労働者党(PKK)が分離独立に勢い付くことを警戒し、アフリン越境作戦にでたのが衝突を拡大させた発端となった。だが、トルコとしてはアサド政権との衝突は避けたいのが本音であり、アサド政権を支えるロシアやアサド政権の退陣を求めるアメリカの動きが注目される。

 

(二五)アメリカ、在イスラエル大使館を「五月にエルサレムに移転」と発表

二〇一八年二月二三日、アメリ国務省は在イスラエル大使館を今年の五月に現在のテルアビブからエルサレムへ移転させると発表した。ペンス副大統領が一月にイスラエル訪問の際、大使館移転は「一九年末まで」にとしていたのを大幅に前倒しした。現在、領事施設として使われている西エルサレムのアルノナ地区にある建物に移転させ、暫定的に大使館として使用する。その間に恒久的な大使館の建設に向け、用地の取得を進めるという。移転を急いだ背景には一一月の議会中間選挙をヒカエ、重要な支持基盤であるキリスト教福音派の存在が大きい。福音派アメリカ人口(約三億二千万人)の二五%を占めるとされる大票田である。移転はイスラエル建国七〇周年の記念日と同日の五月一四日を予定するとされ、ネタニヤフ首相は歓迎し、「建国の七〇周年記念日は一層盛大な国家的記念行事になるだろう」と述べた。

パレスチナ側は猛反発をしている。パレスチナの和平交渉担当のアリカット氏は、「パレスチ人のみならず、全てのアラブ人、イスラム教徒、キリスト教徒を挑発しようとしている」と憤りを表明した。

 

(二六)安保理人道支援でシリア全土での三〇日間停戦決議を採択

二〇一八年二月二四日、国連安保理は内戦が続くシリア全土で人道支援や負傷者らの非難を目的とした三〇日間の停戦を求める決議案を全会一致で採択した(安保理決議二四〇一号)。しかし、停戦決議は過激派などを標的とした軍事作戦は対象外となっていることなどから、停戦実現へ予断を許さない状況が続くとみられる。

 

(二七)シリア、首都近郊東グータ地区の空爆続く、ロシアが「時限停戦」提案

二〇一八年二月二五日、アサド政権軍は首都ダマスカス近郊の東グータ地区を空爆した。東グータ地区は首都近郊に残る最後の主要な反体制派の拠点である。アサド政権軍は地区奪還を目指し激しく攻撃を加えている。

二六日にも攻撃が続き、死者は猛攻が始まった一八日以降で五六一人に達し、三〇〇〇人以上が負傷したという。国連安保理が三〇日間の停戦決議をしたばかりだが停戦の実効性は確保できていない。政権側は反体制派を「テロリスト」とみなして攻撃を継続している。

こうした中、ロシアの提案で東グータ地区での戦闘を二七日から毎日、現地時間、午前九時から午後二時までの五時間、「時限停戦」することとなった。約四〇万人とされる東グータ住民の地区外非難を進めるという。

 

(二八)ロシア提案の「時限停戦」実効なく、シリアでの人道的危機深刻化

二〇一八年二月二七日、ロシアが提案した「時限停戦」が始まったがアサド政権軍の反体制派拠点東グータへの空爆は依然継続している。アサド政権は翌二八日には同地区に精鋭地上軍を投入し本格的な制圧作戦を開始。反体制派の支配地域を一部奪回した。住民らはこの危険な状況下での非難経路の利用を拒否しており住民の避難は進んでいない。また、地区内への食料や医薬品など支援物資の搬入もままならず人道的危機が深刻化している。政権軍は三月に入っても激しい攻撃を続けた。

 

(二九)グアテマラ大統領、五月に「大使館をエルサレムに戻す」と表明

二〇一八年三月四日、グアテマラのモルス大統領はワシントンでの講演で、在イスラエル大使館を今年五月にテルアビブからエルサレムに移すと表明した。大統領は講演の中で、「エルサレムイスラエルの首都と認定する」と宣言。「今年五月に、イスラエル建国七〇周年を記念して、私の指示の下、アメリカが大使館を移設した二日後にグアテマラの大使館をエルサレムに戻す」とした。また、「先陣を切ることも重要だが、正しい行動をすることはもっと重要だ」と強調し、「多くの国が我々の後に続くと確信している」と述べた。グアテマラエルサレムに大使館を置いていたが、一九八〇年の国連安保理決議を受けテルアビブに移していた。

トランプ大統領が昨年一二月に「首都宣言」して以来、大使館のエルサレム移設を発表した国はグアテマラが初めてである。

 

(三〇)トランプ・ネタニヤフ会談、大使館移転など協議

二〇一八年三月五日、トランプ大統領はネタニヤフ首相とホワイトハウスで会談した。トランプ大統領は、五月のイスラエル大使館のエルサレム移転に合わせ、同地を訪問するする可能性に言及し、「イスラエルは私にとって非常に特別だ。特別な国であり、特別な人たちだ。そこへ行くことを楽しみにしている」と述べた。また、エルサレムの首都認定について、「あの決定をとても誇りに思っている」と語った。

ネタニヤフ首相は、トランプ大統領を、ユダヤ人をバビロン捕囚から解放したキュロス二世、ユダヤ人によるパレスチナでの国家建設を認めたイギリスのバルフォア元首相、イスラエル建国を承認したアメリカのトルーマン元大統領になぞらえて「あなたの類い稀な友情に感謝したい」と持ち上げた。

 

(三一)シリア内戦勃発から七年、終息見込めず混乱拡大、死者三五万人超え

シリア内戦勃発から七年、終息の見込みなく、死傷者は続出している。

二〇一八年三月六日、東グータ地区でのこれまでの死者は八〇〇人を超え、七日には九〇〇人となった。

一〇日には一〇三一人に達し、うち二一九人は子どもだという。アフリンではトルコ軍が周辺の村や丘陵地を制圧し市街地を包囲した。死亡者は二三〇人以上という。「シリア人権監視団」が三月一二日に明らかにしたところによると、二〇一一年三月一五日以降の犠牲者数は三五万三九三五人に達したという。民間人の死者は一〇万六三九〇人に上り、うち子どもが一万九八一一人、女性が一万二五一三人だという。

 

(三二)トランプ大統領、ティラーソン国務長官の退任発表

二〇一八年三月一八日、トランプ大統領は自身のツイッターでティラーソン国務長官の退任を発表した。後任にポンペイオ中央情報局(CⅠA)長官が就任する。国務長官が就任一年余りで退任するのは異例である。

 

(三三)シリア政権軍、東グータ地区の「八割以上を制圧」

シリア政権軍による東グータ地区での大規模な攻撃は続いている。死者は一四〇〇人以上に達し、避難者は五万人を超えた。

二〇一八年三月一八日、政権軍は東グータ地区の八割以上を制圧したという。アサド大統領は東グータを訪れ、政権軍の兵士らを激励した。

 

(三四)トルコ軍シリア北部アフリンクルドの拠点を「全面掌握」

トルコ軍のクルド人勢力掃討を名目にシリアへの越境攻撃は止むことなくアフリン地区は混乱している。アフリン地区から三万人もの住民が周辺に脱出した。

二〇一八年三月一八日、トルコのエルドアン大統領は「テロリスト(YPG)のほとんどは逃亡した。軍は残された爆弾などの除去作業を進めている」と述べ、トルコ軍と同軍が支援する民兵組織がアフリン市街地の中心部を「全面掌握した」と発表した。

 

(三五)ガザで大規模デモ、イスラエル軍と衝突激化

二〇一八年三月三〇日、ガザで数万人が参加する大規模なデモが行われた。一九四八年のイスラエル建国などで故郷を追われたパレスチナ人の帰還を求め、イスラエルとの境界フェンスに集結したデモの市民らが暴徒化し、イスラエル軍と衝突。デモは三一日も続きイスラエル軍の発砲などで一五人が死亡、負傷者は一四〇〇人以上に上った。デモはイスラエル建国で難民となった「ナクバ(大惨事)」を忘れないとする五月一五日まで続けられるという。

 

(三六)トランプ大統領、「イラン核合意」離脱を表明

二〇一八年四月八日、トランプ大統領ホワイトハウスで演説し、イランと結んだ核合意から離脱すると表明した。二〇一五年に合意されたオバマ前大統領の成果を否定するトランプ政権は「合意の下でイランの振る舞いは悪化した」と一方的に離脱をした。アメリカの合意離脱で中東地域のさらなる不安定化を招く恐れがある。

 

(三七)イスラエルとイラン、シリアを巡り衝突の懸念拡大

シリアを巡るイスラエルとイランの対立が一層緊迫してきた。

二〇一八年四月九日、イスラエル軍によるシリア軍基地への攻撃で一四人の兵士が死亡した。自国軍人が含まれていたイランは猛反発した。イスラエルは敵対するイランが隣国シリアで影響力を拡大することに危機感を抱いており、そこにイランの陣地を築くことは許せないと主張する。二月にはイランの無人機撃墜とイスラエルの戦闘機墜落事件もあり両国の緊張は急激に高まっていた。

 

(三八)シリア政権軍、東グータ地区をほぼ制圧

シリア政権軍は、二〇一八年四月中旬までに東グータ地区をほぼ制圧した。空爆や地上戦で二月中旬以降住民ら一六〇〇人以上が死亡し、五四〇〇人以上が負傷した。

 

(三九)イスラエルアメリカ大使館、エルサレムに移転

二〇一八年五月一四日、アメリカはテルアビブにあるイスラエルアメリカ大使館を、首都と認定したエルサレムに移転した。エルサレム南部のアルノナ地区である。イラン核合意からの離脱に続き、国際社会の批判を押し切ってのイスラエル建国七〇周年の記念日に合わせての移転であった。移転記念式典にはアメリカ政府からはサリバン国務副長官、トランプ大統領の長女イバンカ大統領補佐官や娘婿のクシュナー上級顧問らが出席した。トランプ大統領は映像を通じ祝福の言葉を送った。イスラエルのネタニヤフ首相は「輝かしい日だ」と移転を祝った。パレスチナ側は猛反発している。

 

 

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(四〇)パレスチナアメリカ大使館移転に抗議デモ、死者六〇人以上に

パレスチナ自治区では移転に抗議するデモ隊とイスラエル軍との衝突が各所で起き、多数の死傷者がでた。

抗議デモは一五日まで続いた。一五日は七〇年前のイスラエル建国で多数の難民が発生した「ナクバ(大惨事、大破局)」と呼ぶ記念日で抗議デモは激しさを増した。特にガザでの抗議は激しく、イスラエルとの境界のフェンス付近には数万人が抗議の声を上げた。前日からのイスラエル軍との激しい衝突で六〇人以上が死亡し三〇〇〇人近い負傷者がでた。ガザでの過剰な武力の行使に対しアメリカを除く國際社会はイスラエルを一斉に非難した。だがネタニヤフ首相は「境界を守る義務がある」と反論している。

 

(四一)グアテマラアメリカに続いて大使館をエルサレムに移転

二〇一八年五月一六日、中米のグアテマラは在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。移転はアメリカに続き二カ国目である。グアテマラアメリカが大使館を移転すれば自国もそれに続いて大使館を移転するとしていた。

 

(四二)アメリカ大使館の移転問題、中東に新たな緊張を拡大、中東和平はどこへ

アメリカ大使館のエルサレム移転問題は、新たな緊張要因を拡大させた。和平交渉への糸口さえ見えなくなった。最近のアメリカの国連離れ、エルサレム疎遠傾向にある中東情勢は一層混沌としてきた。中東和平はどこへ向かうのか。